第157話
「…なるほど、引退前にガッツリ稼ぎたいと…。確かにハンターギルドは、ハイリスクハイリターンですが、ハンターギルドで一番死亡率の高いと言われているパターンですよ? 理由は簡単です。冒険者ギルドと、同じ難易度の依頼内容の報酬は、だいたい2.5倍程度です。なので、もっと稼ぎたいハンターは、どうしても自分の実力より高い依頼を受けようとします。しかし、同難易度でも冒険者ギルドのバックアップがないので、実は知らず知らずのうちにワンク上の依頼なのです。しっかりと精査された後の依頼と違うので、依頼者の信頼性、目的地の情勢や環境などの安全性の確認などを自分でやっておかないと、気が付いたら死亡または犯罪者の片棒を担いでたということもあるのです」
現実を知って意気消沈する冒険者たち。この情報を知るか知らないかで生死に関わるのだ。
グビっ。と、蜂蜜酒を一呑みする。美味い!! グビっ。グビっ。グビっ。グビっ。グビっ。
その後も、冒険者たちのおごりということで、遠慮なく蜂蜜酒をグビグビ飲むノア。
「そ、そぉの年までぇ、五体満足に…冒険者…続けたんだからぁ…。安全にぃ! 最後までぇ…冒険者を続ければぁ…!?」
と、そのとき、灰壁馬製の外套を引っ張る…男児が!?
「お、お姉ちゃん。助けてよ…」
「うん? ぼくぅ…だれぇ?」
泣きながら訴える男児の内容は、緑豚兵の討伐に行った兄たちが戻らないとのこと。冒険者ギルドに確認しに行くと、捜索隊は日が沈むので出せないと言われたらしい。トボトボと帰っていたら、盗賊を猫亜人のアネッテが、簡単に倒すのに目を奪われていると、野次馬がハンターのノアだと話していたのを聞いたらしい。
「お願いします!! 兄貴を助けて!!」
「おねえぇちゃん、酔っぁぁ払ってぇ…るからぁ…だめぇ…だよ? アネッテぇ…まかぁせたぁ…」
「ノア…私で良いの? 弱者には容赦しないよ? えっと、兄は、冒険者なんだから、冒険者ギルドの方針に従うべき。日帰りの緑豚兵の討伐だよね? 昼前に出て帰って来ないということは、ほぼ死んでるよ? なのに夜間に捜索に行けば、さらに死者が増えるの? わかる? 意味ないんだよ?」
子供に対する説明として、どうなんだと…。冒険者たちがフォローする。
「なぁ。坊主、このねーちゃんの言い方は最悪だが、間違ってはいないぞ」
「だけど、ハンターだろ?」
甘辛く焼いた何かの魔物の肉を頬張るノア。酒が進む。グビグビグビッ!!。
「この酩酊の女の子は、ハンターだよ? ハンターはお金で動く。しかも、胸はぺったんこだが、実力は本物。だけど、魔物の討伐依頼以外は受けてないし、指名依頼なんてしたら、バルバストル金貨500枚以上になるよ? 払えるの?」
ノアは、ぺったんこと言われた胸を両手で触り、泣き出した。
「払いない…。けど、命は金じゃ買えないだろ!?」
「買えるけど? 兄貴は冒険者ギルドで依頼を受けたんだろ? 緑豚兵の討伐? バルバストル金貨1枚にもならない報酬で受けたんだ。つまり、命を金で買ったのさ。バルバストル金貨1枚以下の命なんだよ!!」
アネッテぇ、ひどおぉぉい…。さいてぃ…。ぐっすん…。
周囲の冒険者たちも、そりゃ聞き捨てならぬと、席を立ちアネッテを取り囲む。
「はぁ? だったら、お前らが助けてやりゃいいだろ?」
お腹が一杯になり、酒の席に飽きたアネッテは、暇つぶしにと…完全に喧嘩を売っていた。