第155話
料理がテーブルに所狭しと並び、店で一番高いワインで乾杯する。ノアには銘柄も味も関係ないのだが…。あっ、勿論、猫亜人のアネッテは、煩いので封印してある。セレスが本気でノアを殺しに来たら、アネッテでは役に立たないし、護衛の意味ではセレスに勝てる者など、ほぼいないだろう。
「ネックレスと勇者スキルのどちらからお話しましょうか?」
「そうだな…。どちらも…重要で興味深いのだが…。勇者スキルを話してくれないか」
ノアはグビッとワインを飲み干すと語りだした。
「ノアは、アンブロス王国、ヴェラー領地の小さな村レレで生まれ育ちました。街の夏祭りの夜に知らないおじさんからもらったのがスキルスクロールが勇者スキルでした。そのスキルの性能故、隠すことが難しく、ノアが勇者スキルを保有している事が知れるのは時間の問題でした。ノアの知らない組織や勢力が、ノアの勇者スキルを狙って…」
セレスは、その立場も忘れ涙する。
「そ、そんなことに…帝国も加担していたのか…。その話しを聞けば、ノアが…今、ここにいるのは奇跡以外の何者でもない…。同じ…皇族として…。いや、もし…私が皇帝ならば…同じ道を歩んでいたかも知らぬ。他の勢力に勇者スキルが渡ったら…いや、待て。何故、あの日から…何処の勢力も組織も勇者スキルの話しをしないのだ? ち、違う…ノアに…何と詫びればよいのだ…」
ノアはセレスの手に触れる。
「良いのです。勇者スキルは世界を一変させる力を秘めていました。どこの国々も組織も手に入れるためには、ノアの小さな命など考えないのは当たり前です。それに、セレスは、12、3歳ではないですか、止めるどころか何が出来ましょうか。しかし…考えてもいませんでした。一体、何処の誰が勇者スキルを手にしたのでしょうか?」
「考えただけでも恐ろしい。世界に歪みはまだ見えない。しかし、勇者スキルを使って…力を蓄えているとすれば、今のうちに…」
「危険です!! しかし、あのスキルを保持して…ここまで隠し通せるものでしょうか?」
「それ専用のスキルを使っているんじゃないかな?」
「なるほど…。でもノアとセレス以外が…勇者スキルの存在を忘れている可能性がありますよね」
「なんとなく…そう思えるのだが…。兄レイナルドに相談してみるか」
ノア達は、一旦、勇者スキルの話しを終わらせ、食事を楽しんだ。
「次は…ネックレスですね。最初に、ノアから聞きたいのですが、最近、これを狙ってくる者たちが増えて困っているのですが、このネックレスには、どのような意味があるのでしょうか?」
「実は…詳しく知らないのだ。ただ噂でな。そのネックレスがあると聞いて…今、ノアと食事をしているのだ」
「【看破】スキルによれば、初代皇帝の遺品であるということ…。これを所持している者には、初代皇帝の正当な血が流れているということ。つまり、現皇帝とは違う脈々と受け継がれる血があるということです」
「血か…厄介だな。しかし、現状を考えれば、現皇帝も…過去より遥かに広い領土を手にし、治めている。初代の血とか、関係ないと思いたいのだが、世の中は…そう簡単ではない。しかし、はっきりとさせておきたいのだが、そのネックレスは、ノアの持ち物ではないな?」
「はい。己の身を守れない弱者のため、ノアが狙われるように預かっております」
「そもそも…何故に今、そのネックレスを表に出したのだ?」
「それは聞いていませんでした。正直申し上げますと、ノアの弟子になったリリアナという少女の持ち物です。ノアはノアの武力を超えるように鍛えるつもりでした。しかし、異常な強さを持つセレスが現れてしまった今、その計画は…意味が無くなりました」
「帝国を奪うと言うより見を守るためか」
「はい。それでセレス。お願いがあります。リリアナを…」
「難しいな。帝国上層部まで、そのネックレスの件は知られてしまっている。しかし、古の血と交わるというシナリオであれば、リリアナは、レイナルドの妃となり身の安全も保証されるだろう」
まぁ…出来た話だが…それが一番良いのかも知れない。
「では、こちらからも質問をよろしいでしょうか? セレス…あなたは転生者ですか?」
ノアの話に驚きの連続だったセレスだったが、今、一番…驚いた表情をしていた。