第146話
「し、師匠…。黒飛竜とは言え、まだ赤ちゃんですよ?」
「では、リリアナ。どうすれば納得するのですか? ノアに黒飛竜を従属しろと? 確かに黒飛竜に乗って空を飛ぶこともノアの夢ですが、親を失った子を見つける度に従属していたら収拾がつかなくなります。それに…親を殺した相手を主として仕えなければならない子の気持ちを考えたことがありますか?」
「そ、それは…。そうですが…」
「世の中は思っている以上に残酷なのです。ノアは思うのです。何を選んでも必ず善悪プラスマイナス敵味方…こんな歪んだ結果しか出ない不完全な世界を作った…例えば神でもいいでしょう。ノアたちが右往左往しているのを見て楽しんでいるのです。間違いなく狙って作ってますね。そう思うしかないでしょう。まぁ、今回ばかりは…弟子のリリアナの意見を取り入れましょう。どうしたいですか? 命とは? 正義とは? 愛とは? 生きる意味とは? リリアナが、この黒飛竜の運命を握っているのですよ? しっかりと考えてください。でも、三分しか待ちませんよ」
リリアナは、巣で怯える黒飛竜に触れようとした。しかし、黒飛竜の本能なのか、震えながらも黒飛竜は、リリアナの差し出した手を、小さな牙で噛み付いたのだ。
「お、親を…ころじでぇ…かわいぞうだぁがらっでぇ…だすげる…ばがな…わだしを…ゆるじで…」
親に捨てられた…リリアナだけど、孤児院で…心の優しい…人たちに囲まれて、大事に育てられたんだね。
「【支配】!!」
ノアがリリアナの手を治療していると、従属した黒飛竜に愛情を注ぐリリアナの優しい笑顔に、ドキッとしてしまう。
命とは? 正義とは? 愛とは? 生きる意味とは? か…。それは…きっと、ノアがリリアナを育てても良いかという、ノア自身への問いかけだったんだろう。
ごめん…。リリアナ。ノアは、責任持てません。リリアナが決めてください。
ノアの【看破】スキルによれば…。
リリアナは、メンディサバル帝国の皇帝に関わるネックレスを持ち、その体には初代皇帝の正当な血が流れているのだ。そう現皇帝とは違う脈々と受け継がれる由緒ある血なのだ。
「師匠! ありがとうございます!!」
「う、うん…。か、帰ろうか…」
◆◇◇◇◇
自由都市ルドワイヤン帰還したノアは、その足でハンターギルドに報酬を受け取りに行く。
「ほら、回収屋の手数料分を差し引いたバルバストル金貨624枚だ。それと…黒飛竜はどうするんだ? 査定価格は、バルバストル金貨17,840になる。勿論、ハンターギルドで買い取るなら、半額以下になるがな」
ハンターの報酬は、高ランクの魔物の討伐になると、依頼料よりも素材を売った金額の方が、多くなるケースが普通だ。そして、販売ルートを持たないハンターギルドに買い取ってもらうと、半額以下になってしまうのだ。
「いつもの…って、わからないか、冒険者ギルドへ…」
「知ってるぞ。お前…いい加減自分の販売ルートを確立しろよ。面倒だからって、冒険者ギルドに素材を寄付するから、ハンターギルドとの関係がギクシャクするんだよ」
「ノアは…ぶらり旅好きのワールドワイドな女の子なのです。だから各街に根付き他の街とつながりのない販売ルートは持てないのです。それに、面倒だから冒険者ギルドへ寄付しているわけではないのです!! 面倒ならハンターギルドに買い取ってもらいますから!!」




