第144話
「アネッテの馬鹿!! これ…一日じゃ、終わらないじゃない。山越えよ、山越え!!」
「ノアだって…見てたじゃない!! 決めたのはノアでしょ!? アネッテ悪くない」
その山越えの手前…まだ裾野だ。ノアも体力がついたとは言え、訓練をサボってお酒を浴びる毎日を送っていたため、筋肉が悲鳴を上げていた。
「リリアナは? 大丈夫?」
「は、はい…。でも…街の外を歩くのは…今日でまた3回目なので…」
「今日は、早いけど…ここで野営にします。リリアナの手伝いは不要です。今日は野営ってものを体験することが勉強です」
「は、はい…」
「あっ、それと…ノアの素晴らしい仲間たちを紹介しておきますね」
街中では出せない二人組、白浮霊のフェールケティルと、鉄巨兵》のラヴレーンチェフを紹介すると、リリアナは酷く怯えていた。
「わ、私…幽霊見たの初めてです。そ、それに…こちらの方は…大きすぎです!!」
「ふふっ。予想通りのリアクションに二人も喜んでいますよ。それと、隕石鷹のエドヴァルドですが、リリアナに一年間預けます。仲良くしてあげてくださいね」
「師匠!? よろしいのですか? ありがとうございます…」
「うん。では、今日の夕食を探してきます。リリアナはここで待っていてください。アウギュスタ。行きますよ」
「はい。久しぶりの狩り。腕がなるでござる」
日帰りだと思って、野営に準備などしてこなかったノア達。久しぶりに調味料なし肉オンリーな夕食を食べる。
「うわっ…懐かしいぃ…でも、もう体験したくなかった…。ほら、リリアナ。味わったら負け。飲み込むのですよ。泣いている場合じゃないです。食べないと明日、倒れますから」
「は、はい…うっぷっ!」
苦しそうなリリアナは、夜空を見上げ、指を指している。
「あぁ。あれが目的の黒飛竜です。夜行性なので、夜に飛ぶのです。あの高さまで届く魔法とかあれば…山越えしなくても済むのですが…。一撃で仕留められないと逃げられますし、結局は黒飛竜の巣で戦いのが一番です。巣を守るために地上に降りてきますし、プライドが高いので巣を放置して逃げませんから」
食後、ノア達は久しぶりに体を動かしたからか、眠気に襲われた。
「ほら、リリアナ。ノアの外套を羽織りなさい。その魔女の服は大切なものなのでしょ? 街に帰ったら、リリアナにも外套を買ってあげないとね」
「でも…それでは、師匠が…」
「それは気にしないでコン! ノア様は私が暖めますコン…」
「んー。前見たく興奮して、ノアを凍結させないでよね!! カルメンシータ!!」
「お黙りなさい。エロ猫。いい加減、女体化したことを認めて、女性らしく振る舞いなさい」
「カルメンシータこそ! 女なのにノアを狙うなよ!!」
「酷いコン!! 狙ってなどいまコン。お互いの愛を確かめ合ってるのでコン!!」
「あーっ。もう煩いなぁ…。リリアナ、一緒に寝ようか」
ノアは外套を焚き火に前に敷くと、リリアナとくっついて寝る。
「師匠って、良い匂いしますね」
「これは体から滲み出る、お酒の香りなのです!!」
「もう…師匠は、酒癖悪いみたいですね。有名ですよ」
「うっ…」
「師匠…。弟子にしてくれて…ありがとうございます。毎日が…楽しです」
「お馬鹿。何度も言ってるけど、人間の悪意に…どいういう姿勢で立ち向かうか、それがこの世界で、楽に行きれるか苦労するかの分岐点となります。ノアはアドバイスをしません。リリアナがしっかりと考え、答えを出してください。それまでは…ノアは…リリアナを妹のように可愛がります」