第143話
「すいません。ちょっと報酬が異常過ぎて…私の判断では対応しかねます。ギルドマスターと相談したいので、後日来店して頂くことは可能でしょうか?」
「うん? わかりました。明日、同じ時間でいいですか?」
「はい。お待ちしております」
席を立ったノアは、ペコリとお辞儀をして、窒息死寸前のリリアナをアネッテから解放する。
「アネッテ…リリアナを殺す気ですか? 鼻まで塞いだら息が出来ないでしょ?」
「だって…リリアナが暴れるから…。アネッテは悪くありません!!」
プンッとご機嫌斜めになるアネッテ。むむっ。使い魔なのに…。
「しかし、今日の予定が終わってしまいましたね。う〜ん…。金食い虫が増えたことですし、祭りが始まる前に、一度、ハンターの依頼でも受けてきますか」
「し、師匠!! 言い方! それ…私の所為ですよね…。本当に…ごめなさい」
「うん? 勘違いしてますけど、バルバストル金貨3,720枚は、きっちりリリアナに請求しますよ? じゃなければ、日当金貨2枚なんて馬鹿らしくて、払ってられませんから。ほら、ここに血判押してください。支払いが完了するまでは、リリアナは名目上、ノアの奴隷ですが…」
「奴隷!? そ、そんな…」
「大丈夫ですよ、バルバストル金貨3,720枚なんて、頑張ればあっという間に払えますから」
会話が盛り上がってきた所で、ハンターギルドに到着する。
「何処もハンターギルドの作りは変わらないですね。日帰りで達成できる討伐依頼があれば良いのですが…」
冒険者ギルドとハンターギルドの違いは保証だ。
冒険者の育成や依頼の背景調査など安全確実に依頼主と冒険者の双方に納得できるサービスを提供するのが冒険者ギルド。
紹介料5%を徴収する以外は全額がハンターに支払われる代わりに、その背景など一切関係なく、気が付いたら犯罪者の片棒を担ぐことなんて日常茶飯事の危険極まりないのがハンターだ。
「ノア、これこれ、黒飛竜討伐があるよ」
「うん。それにしようか」
「あ、あの…黒飛竜ですか? 聞いたことがあります。黒飛竜は強力生物だからこそ。そこの生態系が維持されているって…。黒飛竜を倒してしまったら、山奥から弱いけど繁殖力の強い魔物が、街を襲う可能性があるとか…」
「うん? そんなの知らないよ。だって、ノア達ハンターだもん。依頼があれば受けるだけ。それに街を襲えば、別の冒険者たちが儲かるでしょ?」
「ですが!! そのお金は…結局街の人たちが…」
「うん、その街のお偉いさんが、黒飛竜を倒せって言ってるんだよ。別にノアがこの依頼を受けなくても、他のハンターが討伐するかも知れないし、ノアは聖者でも慈善事業者でもない。その時、その場所、関係者たちで変わるような…どっちが悪いとか正義とか、そんなの興味ないよ」
「…」
「納得できない? うん、理解るよ。10歳のノアもそうだったし、14歳のノアの思想をリリアナに理解しろとは言いません。永遠に理解できなくても、そういう考えもあるんだと、視野を広く持ってください。『孤児院の子供たちに沢山ご飯を食べさせたい』という結論に至った課程と、それに隠れた本当の原因など…まぁ、いいです。兎に角、リリアナは、ノアの弟子であり奴隷なのです。これからも心が張り裂けそうになること、ノアを殺した方が世の中のためではないかと考えること、いろんなことが起こります。リリアナは悔しくて悲しくて絶望することが多いでしょうが…一緒に来てください」
ノアは掲示板から黒飛竜の討伐依頼の指示書を剥がし、カウンターに持っていく。
「おう、お前さんは、ノアだな! 何時来るか、何時来るか、待ち遠しかったが…随分と、チンチクリンな弟子をとったもんだな。おい、真面目な弟子!! 悪魔って知ってるか? その正体は…人間なのさ、ハハハハッ。覚えておけよ。お兄さんからの特別なアドバイスだ」