第14話
ベッドの中に逃げ込んだ。手にはまだ緑吊し上げ花の体液が付着していた。
理屈は理解できるが気持ちが追いつかない。
コンコンとドアをノックされるが無視してしまった。ドアが開き誰かが入って来た。卑怯にも【索敵】スキルを使う。タムリンだ。あんな酷いことを言ってしまった…。なんて謝れば良いのかわからない。
毛布に潜り込むノアを撫で撫でするタムリン。本当は何か言いたいのかも知れないが、声を失ってしまったタムリンには撫でることしか出来ない…。これ以上、毛布にも潜るのは卑怯極まりない。
ガバッと毛布から出ると開口一番。「タムリン。ごめんなひゃい!?」
タムリンは、ノアのほっぺたを思いっきり抓る。タムリンは怒っていた。
「いたひ、ひたい、いたぁぁ」
両手でタムリンの腕を解こうとしたけど、びくともしない。ほっぺたが引き千切られる!? 痛くて怖くて、泣き叫んでいると、タムリンはパッと手を離す。
タムリンの赤い瞳が燃えるように怒りを表現していた。怖くて怖くて体がブルブル震え、マーシャルさんの言葉を思い出す。『魔法都市ヴェラゼンで学園に通うほどの優秀な魔女』だと。そして今度は法廷で宣言したエフェルフィーレを思い出す。弱者は強者に逆らえない…。
殺される…。まだ死にたくない…。同い年の子に殺されるなんて…嫌だよ…。
ジワッと敷布団が濡れる。恐怖で失禁してしまった。
タムリンは、ノアのポケットに手を突っ込み、ギルドカードを取り出す。そして、スキル一覧から【念話】を選択すると勝手に決定してしまった。
(謝りなさい。今すぐ、マーシャルさんに謝罪してきなさい!!!)
頭に直接タムリンの声が響く。
「は、はい…」
気の抜けた亡霊のように、ポタポタと垂れ流すことも気にせずに、一階のマーシャルさんのもとへ向かう。恐怖に怯えた顔と失禁したままのノアを見て「馬鹿だね。タムリン、直ぐにお風呂に入れてあげな。話はそれからだよ」と言った。
なされるがままに服を脱がされ湯船で体を洗われる。
「タムリン…」
(マーシャルさんが許すまで黙っていなさい。あの人は…私の命の恩人…なの…あの人を悲しませることは絶対に許さない…)
怒れるタムリンの赤い瞳は、涙が零れそうなほどに溜まっていた。それでも一度覚えたタムリンへの恐怖は拭えない。体は未だにブルブルと震えていた。
お風呂から出たノアに、マーシャルさんが尋ねる。
「この店のこと…嫌になったかい?」
「いいえ。取り乱して…すいませんでした。あの…」
「いいさ。それより夕食にしないかい?」
「はい…」
タムリンが運んできた料理。今なら理解る。この料理には、緑吊し上げ花の肉が使われている。そして、マーシャルさんが食事前に真剣にお祈りをする訳も。
心から緑吊し上げ花に感謝する。そしてグッと泣くのを我慢しながら、緑吊し上げ花のソテーを味わって…美味しく食べた。