第137話
「へへ〜っ。私? ノアァですよ〜。ははっ! おじさん、ロリコンですねぇ〜。こんな小さな子が趣味なんですかぁ? ははっ!」
ノアはカウンターから、店のど真ん中に席を移し、大勢のごろつきや冒険者に囲まれて、酩酊状態となっている。このままだと…泥酔状態となり、またお持ち帰りされかねない…。
しかし、アネッテは…ノアに近づくことを躊躇する。酩酊状態のノアは、暴力的なのだ。
「うぅ…。でも、後で冬狐姫のカルメンシータと、灰狼侍のアウギュスタの説教を喰らうのも嫌だなぁ…。お昼ご飯で…頭が一杯だった自分が恨めしい…」
チラッとカウンターから振り返り、ノアを一瞥したアネッテは、ため息をついた。
「よっっっし! お前らぁ、かかってこいぃ!! ノアァを倒せたら、抱かせて…やる…うぃっっ…」
人間界を知らなかったアネッテでも、一年で大凡理解できた。アレは駄目だ。あんな酔っぱらいを好きになる人間は…いないだろうと。
そして、酩酊状態であるが、今のノア自身の実力も…それなりにあり、半端な男どもでは勝てないのだ。
「女の子が…ちょっと飲み過ぎかな?」
ノアが振り上げた腕を、スッと掴む紳士…。あっ…。
アネッテは知っていた。ノアの好みのタイプを。嫌な予感は的中する。ノアは、その紳士の顔を見て、ぽーっとしている。
ノアは基本かまってちゃん&怒ってちゃんなのだ。しかもダンディーなおじさんや、優しいお兄さんに弱い。
面倒事の予感がするが、紳士っぽいけど、こんな庶民の店に貴族たちは来ないはずだ。アネッテは、とりあえずホッとする。
「スキ…」と大胆にノアは告白を始めた。
またまた始まった!? しかし、乙女モードの今なら非暴力モード!! アネッテはカウンターから飛び降りると、ノアを抱えて店の外へ走り去る。
「ノアァ…結婚するぅ…もう…だぁいすきぃ…」
男に抱っこされたと勘違いしているノアの顔は、とっても幸せそうにだった。
庶民街から少し高級な街並みの地区に入った。アネッテも自身が猫亜人でありトラブルの元である事は認識している。だが、ここらで名が売れているノアのギルドカードを見せれば、庶民の泊まれる高級ホテルならば…。
ノアを部屋のベッドに寝かせる。
「むふふっ。高級ホテルに泊まっちゃった。これはノアが悪いんだからね!!」
鼻歌交じりでお風呂の準備をするアネッテ。
「それじゃ、ノア。お先にぃ〜」
さっぱりした顔でお風呂から出てきたアネッテだが、ノアが吐き戻した…カオスなベッドを涙ながらに掃除するはめになったのだ。