第136話
メンディサバル帝国の属国であるバルバストル小国。その自由都市ルドワイヤンに流れ着く14歳になったノア・デモニウム・プリンセプス。
ノアの隣には、猫亜人のアネッテが、物珍しそうに猫耳をピクピクと動かしながら、ずらっと並んだ露店の料理を眺めていた。
「アネッテ。宿を探すのが先ですよ」
自由都市ルドワイヤンは、一週間後に一ヶ月間続くワールドバザーという古代教会が、主催する慈善市がスタートするのだ。それを聞いた時は、古代教会って帝国にも根を張るのかと、ノアは驚いた。
別に何かが欲しいわけでもないのだが、何となくお祭りっぽいので、近隣の街にいたノアはぶらりと寄ってみただけなのだ。
一週間前なのに、商人が準備やら先行して露店を開いたりして、宿が埋まっていた。
その後も、何件か宿を当たったが、満室であった。
「ノア! お腹減ったよ〜」
使い魔なのに完全に友達感覚? いや保護者? 気にしてないし、マナーが必用な場所では、アネッテの代わりに冬狐姫のカルメンシータがいる。どんなに躾けても効果がないアネッテに時間をかけるのは無駄なのだ。
「では、あそこの酒場にしましょう!」
「ノアって、お酒好きになっちゃったよね。わたしが男の子だったら…」
ドスンッと、ボディーブローをアネッテに食らわす。
言われなくても…お酒の量が増えてるのは、理解ってるよ!! だって…寂しいんだもん…。ノアだって…女の子だよ? 人肌に温められたい…。誰かに愛されたいの…。
酒場の扉を開けると、いつものよに奇異な物を見る視線が刺さる。だが、ノアは気にしない。気にしたら負けだ。ご飯を食べるだけなら露店で十分だけど、お酒が欲しいの!!
店内は、ごろつきや冒険者も多いが、どうにか吟遊詩人の詩が聞こえる程度の心地よい騒がしさだった。
「おい、灰壁馬の外套に、猫亜人の組み合わせって…」
「噂のハンターじゃねぇのか?」
「本当に…少女…二人じゃねーかよ」
「お前、声かけてこいよ」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。あの無音の足運び…半端じゃねーだろ」
「やばい。あれが強者のオーラかよ…ぶるっちまったぜ」
ノアと目を合わせないように、いい大人が…ザワザワと言いたい放題である。
ノアは冒険者ギルドに登録せず、個人のハンターとして…冒険者ギルドで言えばBランク以上の魔物討伐を生業としている。
つい頑張っちゃって…多少顔が売れてしまったのだ。
ノアはカウンターに座ると、バルバストル金貨を10枚置く。そして、バルバストル認定蒸留酒、アイスミルク、それと日替わりランチを頼んだ。先にバルバストル認定蒸留酒とアイスミルクが出され、チンッと乾杯すると、一気にグビッと飲み干し、コンコンと軽く指でテーブルを叩き、おかわりを要求した。
「おい、あの飲みっぷり、本当に子供かよ…」