第13話
営業後の厩舎で作業をしていると、マーシャルさんがタムリンと一緒に来た。
「ノア。店で働くようになって、一ヶ月半。どうだい? 仕事は楽しいかい?」
真剣な顔で尋ねるマーシャルさんに戸惑いながらも、素直に楽しいと伝えたノア。
「そうかい。でもね。ノアは使い魔を販売する店の綺麗な部分しか見てないんだよ。そこの緑吊し上げ花の檻を地下に持って来な」
「地下? ですか?」
はて? 地下なんて厩舎にあっただろうか?
「一旦、外に出て、厩舎の裏側にある階段を下りるんだよ」
「は、はい…」
何かいつもと雰囲気の違うマーシャルさんとタムリンに連れられ、緑吊し上げ花の檻を地下に運び込んだノア。
「まずは説明だね。この『ムーンレイク使い魔店』で扱えるというか、この商業都市サナーセルでの都市条例では成体前の幼体までの売買しか認められていない。つまり成体になった魔物は処分しないといけない」
「処分…?」
「つまり魔物を殺すということだ」
「な、何でですか? 成体を扱えないなら、違う街へ売れば良いじゃないですか!?」
「魔物の運送だけでどのぐらいの金額が必用なのか考えたのかい? それも魔物によって成体になる時期はバラバラだ。つまりまとめて運送も出来ず個々で運送してみな。あっという間に店は火の車さ」
「なら…冒険者に譲るのは?」
「馬鹿だね。無料で使い魔をくれるのを待って、誰も幼体に金なんて払わなくなるだろ」
「そんな…」
「売れると思って仕入れた私の腕がまだまだ甘いということだ。恨むなら…私を恨みな」
「タムリン…」
タムリンの唇が僅かに動く。するとタムリンの右手には巨大な死神が持つような鎌が召喚された。
「タムリンにはメイド兼魔物の処分をお願いしている」
ノアが緑吊し上げ花の檻を体で庇おうとすると、タムリンは空いた左手でノアの動きを封じる魔法を放つ。いつもの白い魔法の杖が無くても魔法が使えるのか…。
マーシャルさんが、緑吊し上げ花を檻から出す。緑吊し上げ花も動けないのは、恐らくタムリンが動きを封じたからだろう。
(や、やめて…)
体の自由がきかないため声が出せない…。
タムリンの巨大な死神の鎌が、緑吊し上げ花を真っ二つに切り裂いた。
「あっ…。ひ、酷い…。まだこんなに小さいのに…」
タムリンの魔法が解け声が出る。そして、体液が流れる緑吊し上げ花の死体を両手で抱きしめる。
タムリンが嗚咽するノアの頭を撫で撫でする。
「触らないで!!! アンタなんて悪魔よ!!」




