第123話
村の門と言っても木製の柵だ。ノアは村に入らず、長老に許可を求めて来るようにアネッテにお願いした。ただでさえ人間が怖い生き物と認知されているのだ。勝手に入ってトラブルはゴメンだ。
「おねーちゃん? だぁれ?」
「どこからきたの?」
「わぁーっ!! 大きいおおかみさんだ!!」
村の中から小さな子供の猫亜人たちがワラワラと出て来た。
くっ、きゃわぃぃぃぃ!!! 触りたい!! モフモフしたい!!
ノアは門番をちらっと一瞥した。それが余計に不信感を煽ったらしく警戒されてしまった。誘拐なんてしないのに…。
すると数人の護衛を連れた村長さんらしい人物がやって来た。隣では脳天を押さえて涙目のアネッテがいる。勝手に村から出たためか、見知らぬ人間を連れてきたからか、兎に角、こっ酷く怒られたようだ。
「はじめまして。私の名前はノア。旅の途中アネッテと出会い、兄を助けて欲しいと頼まれたため村に来ました。揉め事を起こす気はございません。立ち去れと言うならば、すぐにでも立ち去ります」
ノアは先に挨拶と村に来た経緯を説明した。
「人間様が村を訪れるのは、何百年ぶりか…。この馬鹿娘が大変な無礼を…許して欲しいのじゃ。オルミ村を代表して歓迎するのじゃ」
猫耳おじいちゃんは、にっこりと笑った。【特定】スキルを事前に使っていて、悪意のある猫亜人がいないことは調査済みだった。ノアって完全に人間不信だなぁ…。
村に入ると、まぁ、外からでも見えていたんだけど、猫耳、猫耳、猫耳…どこを見ても猫耳だらけだった。尻尾も目立っているけど、ノアは猫耳派だ。
「ノア!! お兄ちゃんを助け…」
「馬鹿者!! どうして、お前は…直情的なのじゃ。物事には順序というのが…」
「村長様。ノアもアネッテの兄を、早く楽にしてあげたいと思っています」
「ら、楽に!? お前っ!! やっぱり村人を蹂躙する気だな!!」
「馬鹿者!!」
「いたぁぁぁぁぁっ!? 何する、じじぃ!!」
「お前は黙っていなさい…」
猫亜人全員が、アネッテと同じだったら、どうしようかと思ったけど、彼女だけがレアなんだね。
村長とアネッテのコントを見ながら、アネッテの兄が床に伏せる小屋…じゃない…家に到着した。
すぐに兄の診察を開始する。全身に巻かれていた包帯を取り除く。大量の血を失ったのか、肌が青白く、赤い不気味な斑点が、そこかしこにあった。そして息が荒い。
「【検魔】…。なるほど…【回魔】、【回魔】。そして【解魔】からの【治魔】。で、【回魔】、【回魔】、【回魔】、【回魔】、【回魔】、【回魔】っと。これでよし」
全身に深い刃物の切傷があり、しかも毒を塗られた刃物らしく、出血が止まらず、感染症まで併発していた。これでは、アネッテが薬草を採取して飲ませても…長くはもたなかっただろう。
みるみる傷口が塞がり、不気味な斑点が消え、肌に健康そうな仄かな赤みが戻った。最後にノアは、
「目が覚めたら、最初は消化の良いものを、そして徐々に栄養価のある食べ物を与えてください」と言うと立ち上がった。
「お前!! 殺人鬼じゃなかったんだな!! ありがとう…」
アネッテが泣きながら抱きついてきた。ノアはどさくさ紛れ、頭を撫でるふりをして、猫耳をいじり倒した…。




