第112話
ベッドから起き上がるノア。一糸纏わぬ姿だったことから、昨日の出来事が、夢でないことを確信した。
何も知らない少女から、大人の女性になったんだ…。
ヒガシヤマさんの気配は感じない。
リビングのテーブルの上に、手紙を見つけた。覚悟を決めて手紙を読む。
やっぱり…一度決定した選択を変更することは、あの天使さんが許さなかったんだ。でも天使さんは、最後の一晩共に過ごすことを許してくれた。
「う〜ん。妊娠してたらどうするんだろう? 子供にお父さんは? って聞かれたら?」
テーブルの上には、サンドイッチが置いてある。
最後の最後まで…ありがとう。
「美味しい…」
サンドイッチを頬張ると、涙が込み上げてきた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!! 一緒にいたいよ!! ずっと!! なんで、なんで、いつも…ノアは不幸なの!? 誰も、誰も愛してくれないの!? ノアは…いつまで、いつまで…一人なの…。ヒガシヤマさん…」
そこで気付いた。
自分の左目が見えていることに。左腕があることに。左胸があることに。そして、人間から精霊になっていることに。
少しだけ冷静になり、サンドイッチを頬張りながら、もう一度手紙を読む。
手紙はもう一枚あった。
左腕の精霊義手には、固有スキル【進化】が付与されているらしい。人の腕とは異なり、七色に光り輝いていた。
左目はエメラルド。元々の瞳と同じ色で作られた義眼だ。一日、10分だけ精霊王の力が使えるらしい。
左胸は…あの天使さんからのプレゼントで、特に何もない…。いや、どうせなら、もっとバストアップしてよ…。
精霊について。姿形は人間と変わらない。ただ…環境の影響を受けやすい。自然では精霊力が増え、人工的な大都市では力が減る。
サンドイッチを食べ終えると、ノアは天井に向かって話しかけた。
「ご馳走様です。とても…美味しかったです。ヒガシヤマさんも、『日本』という世界で、もう一度…笑顔で頑張ってくださいね。本当に、本当に、大好きでした。でも、ノアを置いていってしまったのは…ちょっと、まぁ、天使さんに逆らえなかったからですが…。ノアは、いつか…別の恋をしてしまいますよ? 怒っても…怒られても…知りませんから…。さようなら…。ヒガシヤマさん…」
そして、涙を拭い…灰壁馬の毛皮製の外套に着替える。
「さて、皆さん。ダンジョン踏破に向けて、ノアに力を貸してください!!」