第110話
ダンジョン探索も44階層まで到達した。10階層毎に家に帰れる転移ポータルがあるため、ダンジョン内で夜を過ごすことはなかった。
しかし、張り切りすぎたのか、体の魔力のバランスが崩れて、一週間寝続けることになってしまった。
「ノアは駄目ですね」
「ノア、そろそろ…正式に…精霊にならないかい?」
「まだ…嫌です! 内緒だけど…ダンジョンの最下層に…ダンジョンを踏破したら、ヒガシヤマさんにデートを申し込むつもりです」
「言っちゃってるよ…。ノア、まだ熱があるみたいだね」
「絶対に、デートするんです!!」
「はい、はい…。ほら、興奮しないで! 今は静かに寝てないと…。あれ? 気絶してる!? やっぱり…。肉体が限界だな…」
四日後。
「カルメンシータ! お待たせです。今日からダンジョン攻略再開ですよ!!」
足元に集まる使い魔たちを目の前に握りこぶしで、決意をあらわにするノア。
「お〜い。あまり無理するなよ?」
「はい。ヒガシヤマさん! 今日のお弁当はなんですか?」
「サンドイッチだ。異世界もので、サンドイッチという単語を出すとアレルギー反応を…起こす者たちがいるんだが…」
「何を言ってるか解りませんが、とりあえず行ってきます!」
◆◇◇◇◇
「う〜ん。ノア遅いなぁ…」
いつも夕食前に帰ってくるのに、珍しく帰ってくる気配がなかった。
バタンッ! トイレの方から物凄い音がした。すると白姫狐のカルメンシータが、血相を変えて走ってくる。
僕は、ノアに何かがあったことを悟る。
「ノアッ!?」
灰刃狼のアウギュスタにもたれ掛かるノアを抱き上げる。
「ヒガシヤマさん…。ボス…に…ちょっと…疲れちゃった…」
ぐったりとしたノア。苦しそうに息をしながらも、笑顔で答える。
魔力が枯渇してる!? ノアの肉体と精霊が分離を始めていた。
「ノア! 限界だよ。お願いだ…。もう…精霊に…」
「こっちこそ…お願いです…あと…一日でいいから…」
ノアは…勝手なお願いをして…気を失ってしまう。
ノアをベッドに寝かせる。この世界で精霊王になってから…これほどの精霊力を使うのは初めてだ。
「ノア…。お願いだから…もう一度、笑っておくれ…」
いや、死なないけどさ…。一点の曇もない笑顔…。
うん?
ノアは…。心から笑っていたのかな?
ノアの夢ってなんだろう?
叶えたいことってなんだろう?
ノアの事…何も知らないないんだな…。




