第109話
惜しげもなく全力で…。
【特定】スキルにより、現在の階層の通路、罠、仕掛け、宝箱、魔物の位置情報が、頭の中に流れ込む。
白姫狐のカルメンシータと灰刃狼のアウギュスタをツートップの前衛とする。白浮霊のフェールケティルは、ノアの背後で全体の支援を任せる。
『全力と言っても、馬鹿正直では駄目だ。例えば、銀溶液のペルペトゥアを灰壁馬の毛皮製の外套の中に隠したり、最初から結界を張っていることを敵に知られないように回避をメインにするんだ。いくつも切り札を用意するのが重要だ』
ヒガシヤマさんのアドバイス通り、ペルペトゥアを外套に隠す。
隻腕になってしまい【弓矢】スキルは使えないが、【短剣】を鍛えるべく右手にダガーを握りしめる。
この先に灰針鼠がいる。
『魔物を使って魔物を殺すことに罪悪感があるのならば、それはノアのエゴだ。魔物は戦うために生まれる。縄張りや家族を守るため、より強くなるため血肉を喰らうため、戦い続けるんだ。人間は自分たちを守るために、戦いを遠ざけようとするが、それは自然なことではない。魔物も人間も…神々から見れば、何一つ変わらない…同じ…魔物なのだから…』
「カルメンシータ!! 幻術を!!」
混乱する灰針鼠は、逃げ出すことも出来ない。
「やぁっ!!」
ノアは右手に持ったダガーで、何度、何度も、灰針鼠を刺す。ノアの力では、一撃で命を刈り取ることは難しい。
「わぁぁぁぁぁぁっ!!! ごめんなさい、ごめんなさい!!」
灰針鼠を買ってくれた冒険者のマイリーお兄さんを思い出す。あの頃、幸せだったな…。でも、負けない。今も、これからも、幸せになるんだから!!!
返り血を浴びたノア。頬の血は涙が流してくれた。
ペロ。ペロ。ペロ。ペロ。灰刃狼のアウギュスタが慰めるように、返り血を舐めてくれた。
「大丈夫。大丈夫よ。アウギュスタ」
ノアは頬をアウギュスタの鼻に擦り付けた。
一階層目の魔物はノア達の敵ではなかった。
茶狂犬に対して、ノアは勇者スキルの代わりに覚えた固有スキルの【月術】を試す。月妖精のドーグラスだ。
「月弓!!」
ノアの頭上に魔法の矢が、次々と…。
「待って、待って、止まらない!?」
40本程の魔法の矢が現れた!?