第107話
「って、違う!! ヤバイですよ!? こんな近いのなら、ノアの居場所がバレてしまうじゃないですか!? あれ? 【特定】スキルが妨害されている!?」
「大丈夫だよ。この森の一部は、精霊王の加護により、何の情報も出ていなければ、何の干渉も受けていない」
「で、でもですね…。異端審問官の友達に…刺されて…じゃなくて、何故か【隠密】スキルを使っていても、見つかっちゃうんですよ?」
「異端審問官? あぁ…。ならば、【烙印】系のスキルからな? 大丈夫、ノアの体を隈無くチェックした時、烙印どころか、変な印も見つからなかったよ」
「エロ!! おまわりさん、こいつです!!」
「だから、僕の元の世界のネタはやめてくれ…」
「だけど、ヒガシヤマさんって、この世界の仕組みやスキルに、やたらと詳しくないですか?」
「だって、こっちに来て、もう数百年経つからね。あれ? 過去見たんでしょ?」
「あぁ…。こっちに来てから数年でパターン化された生活を始めたっぽいので、スキップしてしまいました…」
「酷い…」
「では、お買い物いってらっしゃい!」
「はぁ…。憂鬱だな。初めてのおつかいか…」
「ちょっと待って! 今、初めてと、おっしゃいましたか?」
「うん? うん。僕、この森から出たこと無いからね。出来れば、ずっと…家の中にいたい。最近で言えば家から出たのは、ノアが空から落ちてきたときぐらいだよ? 物凄い音がしたから、思わず見に行っちゃったよ」
ノアは片腕でヒガシヤマさんを家から押し出す。
「はいはい。社会復帰ですよ。頑張ってくださいね!」
◆◇◇◇◇
「あの子を助ける? 僕が?」
数百年前に神様から頼まれた依頼内容は、『誰でも良いから人を救いなさい』だ。勿論、精霊王の加護の届かない範囲…。いや、僕が中心なのだから、僕が動けば加護の範囲も動くため、結局、誰とも合わずに今まで過ごしてきた。
なので、数百年で初めてのイベントが、ノアが空から落ちてきたイベントだ。
「あぁ…。そんなアニメ映画もあったな」
確かにノアは、世界の変革の中心にいた人物だ。しかし、勇者スキルを失った今、道端に転がる石ころに等しい存在だ。
不幸な過去を持つノアだが、僕が手出しをしなくても、あれだけ元気なのだ。きっと救う対象ではないのだろう。
確か、ノアって…12歳…小学校6年生もしくは中学1年生か。24歳の僕じゃ…。
少しだけ…ノアに惹かれ始めている。
「危ない。危ない。気を付けないと…」
◇◆◇◇◇
商業都市サナーセル。その人物は、高熱の炉の熱で額から汗が滝のように流れていた。しかし、世界から切り離された意識の中で、素延べを加熱…形成していく。その手は小さく、まだ職人の手とは言えないほど綺麗である。
「ヒノデリカ!」何十回と呼ばれ、ヒノデリカは、ようやく呼ばれていることに気が付き手を止めた。
しかし、ヒノデリカは言葉を発しない。
ノアが失踪したことで心を壊してしまったのだ。
そして、言葉を失ったことで…ヒノデリカは、伝説の武具を作成可能な固有スキルである【名匠】を手に入れたのだ。




