第106話
高熱を出したり、食べ物を戻したり、悲鳴を上げるほどの痛みに耐えたりと、日に日に人間の肉体が、精霊を拒絶するようになっていく。
そんなときの一番の治療方法は、精霊王との添い寝である。ノアの体に宿る火蜥蜴のテッレルヴォと月妖精のドーグラスへ力を与えつつ、ノアの肉体への治療も自然と行われるためだ。
「ヒガシヤマさんの抱き枕…気持ち良いです」
「いや、本人なんだけどね…」
小さな少女に抱きつかれて寝ている。元の世界なら事案確定だ。
「ねぇ。ノア」
「はい、なんでしょう?」
本当に気持ちいいのか、先程まで痛みで叫んでいた少女と同一人物とは思えない程の笑顔だ。
「今すぐじゃなくても…良いんだけどね。覚悟を決めて欲しい。半霊じゃなくて、精霊にならないと、ノアは消滅しちゃうんだ…」
「うー…。そうしたら、本当にヒガシヤマさんの下僕じゃないですかーっ!! でも、良いですよ。テッレルヴォとドーグラスから貰った命を無駄にするわけにはいかないですから…」
「あれ? 意外と軽い感じだけど…人間に未練はないの?」
「精霊になると、どんな感じになるんですか? 人間の容姿じゃなくなるのですか?」
「いや…どうにでもなるけど…。僕が精霊王でよかったね」
「はい…」
ぎゅっとノアは抱きつく力を強めてきた。
それから数週間が経過する。肋骨と右足の骨折が完治して、ノアがベットから下りて、いよいよリハビリを開始する。
銀溶液のペルペトゥアが松葉杖に変化して、灰刃狼のアウギュスタが倒れても良いように側に寄り添う。白姫狐のカルメンシータは、何故かノアの頭の上で寝転んでいる…。
全裸に全身包帯なので、ミイラみたいだ。そのうち服が欲しいな。
「と言う訳で、ヒガシヤマさん。服を買ってきてください」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。無理だよ。女の子の服なんて、買ったこと無いもん!!」
「ノアに…全裸の全身包帯で、買いに行けと? 鬼畜ですか? そんな恥辱プレイがお望みですか?」
「だから…変な言葉を…おいっ! その言葉…変なときの記憶…わ、忘れてください。お願いします。何でも買いに行きますから…」
「精霊王と言えども、ヒガシヤマさんも…盛んな時期がありました。それは仕方がないことです」
「あーーーっ!! やめてくれー!! 聞きたくない!!」
「あれ? そう言えば、まだ家から出たこと無いのですが、ここって何処ですか? 先程、街に行くとか言っていましたよね? 街の中じゃない?」
「う、うん? ここはキルスティ共和国の…確か…大都市アロンの近郊の森の中かな?」
アロンって…。ノアが勤務していた冒険者ギルドがある街じゃないか!! そんな近くにいたのか…。
「なら、簡単です。紙と筆記用具ありますか? ノアが書いた紙を店の人に渡すだけで、衣服が手には入ります。簡単です…。はい」
ノアには微妙なこだわりがあって、下着も灰壁馬の毛皮製の外套も、お気に入りの店以外では買わないのだ。しかも、灰壁馬の毛皮製の外套は、特注品なのです。
「店の人にノアのことを聞かれるかも知れないけど、依頼に主のことは知らないと言えば大丈夫です。まぁ、この状況から言って、ノアが失踪していると思われていた場合…ヒガシヤマさんは…誘拐犯疑惑がかけられますが…」




