第105話
「な、名前が…消えてますよ!? 職業も!! こ、壊れてますよ、その水晶!!」
「う〜ん。おかしいな…。あぁ…。そういうことか…。ノア、君は…一度死んでるみたいだね」
「な、何ですか!? そんな重要なこと、何で笑顔で言うんですか!!」
ポコパコとヒガシヤマさんの肩を叩く。
「名前変えてみる?」
「い、嫌ですよ、ノアにします。ノア!」
「職業は?」
「商人…にしたいけど…。もう商人を続けられる気がしません。また…邪魔が入りそうです」
「そうだね。ノアが狙われた理由は2つ。勇者スキルと高ランクスキル持ちだからだよね。そうだ! 精霊使いにならない? ほら、僕、精霊王だし…」
「えーっ。ノア、使い魔大好きだし…精霊に浮気っていうのは…ちょっと…」
「いやいや、この世界の仕組み上、精霊っていうのは使い魔の一部だからね。つまり使い魔の中でも精霊に超詳しいってだけだよ」
ギルドカードを見ていたヒガシヤマさんは、ギルドカードをノアに見せながら指差した。
「それに…。ここ見て。半霊ってなってるでしょ。これ…つまり火蜥蜴と月妖精を体内に取り込んだから、半分人間やめてますってことだよ?」
「はい!? で、は、半分は何なのですか?」
「半分は…精霊だね…。だから精霊使いがぴったりでしょ?」
「うっ!? ということは、ノアって…ヒガシヤマさんの下僕?」
「ははっ! 下僕か!」
「うっ、わ、笑い事じゃないです!! 乙女の危機です!!」
「いや…。無理にシモネタに繋げなくても…。だから会話も出来たのかもね…」
腕を組み、ウンウンと頷いているヒガシヤマさんへ、気になっていることを尋ねる。
「あの…。ヒガシヤマさん。ノアが…精霊使いになったら…。ここにずっといても良いですか?」
「別に精霊使いじゃなくても、好きなだけいればいいさ」
予想外の回答に笑顔が溢れた。
「なら…。精霊使いになります。弟子にしてください!!」
「冗談だったのに…。いいかい? 僕は…ノアが知っているように、自分さえも上手に育てられなかった人間だ。それにノアは今まで勇者スキルのチート能力でガンガンとスキル上げできていたけど、本来は、そう簡単なもんじゃないからね」
「はい! 知ってます!! チートって、不正とか狡いって意味ですよね?」
「問題は、そこじゃない…。まぁ…精霊使いやってみなよ。それと、まずは体を治すことが先だ。まだまだ人間と精霊の融合は完全じゃない。まずは精霊に不可がかからないように、睡眠時間を多く取ることだ。また夕飯のときに起こしてあげるよ」
確かに起きたばかりのときより、体が重たい。瞼も重たい。
「はい。あの…。ヒガシヤマさん。いろいろ…ありがとう…」
ノアの様子を見て驚く。規則正しく胸が上下している。
「秒単位で寝てしまったのか…。やはり融合には相当体力を使うみたいだな」
誰かと…普通に会話するだけで、こんなに世界が楽しく、躍動するように感じるものなのか…。ボロボロで傷だらけの少女には悪いが、ノアに出会えてよかった。また、この世界でも一人ぼっちは…孤独は耐えられそうになかったから。
「さて、何を食べさせてあげようかな? カレーときたら、ラーメンか? いや箸を使い熟せいないかな? だったら、ハンバーグにしよう。スプーンで食べられるように、煮込みハンバーグが良いかな」
誰かのために何かをしてあげたい。そんな気分に…なれる自分が、まだいたことに驚いた。