第101話
「きゃぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
ノアの全身から血が吹き出す。やがて口内に血が溜まり叫ぶ声も出なくなった。だらんと灰刃狼のアウギュスタの背中の上で、仰向けに倒れ息絶えたようなノア。
「ノアァァァァァ!!!」
必死に叫ぶリオニー。しかし、迫りくるメンディサバル帝国の騎士団に、ノアに近づけない。
聖女サトゥルニナ・レーヴェンヒェルムもノアの治療のために走るが、異端審問官たちに行く手を阻まれる。
勇者スキルを奪われて焦ったのか、「貴様ぁ!!!」と叫びながら、魔法都市ヴェラゼンに聳える十一塔の呪術塔の主アーク・ノルドクヴィストが、再び呪詛の光線を何度も放つ。
次々と起こる大爆発にノアも使い魔も巻き込まれてしまう。
ノアの左腕は、呪詛の光線の直撃を受け炭化して消え去ってしまい。爆風で飛ばされた騎士団の剣が、左目に刺さった。
更に爆風がノアを空中に巻き上げ、灰壁馬の毛皮製の外套を燃やし尽くす。幼い裸体が晒しだされるが、心臓の部分には背中越しの風景が見えるぐらいの大きな穴が空いていた。
「「「ノアァァァァァ!!!」」」
異端審問官のリオニー、聖女サトゥルニナ・レーヴェンヒェルム、セレスティーヌ・ヴェラーが叫ぶ。
最後の爆風で、意識のないノアは、上空2,000mに到達した空飛ぶ船から投げ出されてしまう。使い魔達は、ノアを追いかけ空飛ぶ船から飛び降りた。
そして、甲板では、ノアの…勇者のスキルが記録されたスキルスクロールの争奪戦が始まる。
◆◇◇◇◇
ノアがボロボロにされていく様子を涙ながらに見届けるレナータ。助けに行きたくても、世界の叡智を…タムリンの力を使い熟さなければ、このタムリンの世界から出れないのだ。
タムリンの予測は大きく不利な状況に外れてしまう。レナータの習得が予定より数年遅くなりそうなのだ。
「ごめんなさい…。ノア…」
あの状況から、ノアの生存は絶望的であると判断された。
世界の歴史は、何者かによって歪められているのだ。
そう、勇者スキルこそ。魔王スキルなのだ。あの庭園でタムリン似の子供たちを虐殺した悪魔の残滓が魔王スキルの正体だ。
純粋なノアだからこそ、暴走しなかったのだが、悪意のある…あの空飛ぶ船にいる連中の誰かに渡れば、世の中は混沌の時代に逆戻りしてしまうだろう。
それを救ってきたのが、この世界を作ったタムリン似の少女が導いた。二名の者たち…一人は…タムリン。つまりレナータである私と、もう一人は…。現代の…誰かは、不明なのだ。
「神と悪魔の時代の終焉だ。俺と滅びてもらうぞ…」あの悍ましい悪魔の囁きが脳内に響いた。
第ニ部 完です!!
第三部からは、今度こそ! 温室育ちのノアが大自然や知らない街を一人で冒険します。
修行の後でですが…。