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ノア・デモニウム・プリンセプス  作者: きっと小春
第一部 使い魔店の看板娘
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第1話

 魔法都市ヴェラゼンに聳える十一塔に、新たな塔が追加されることが決定された。実に数百年ぶりの快挙である。


 そもそも塔とは研究目的のために建てられ、十一塔は、神聖・精霊(4大精霊)・妖術・魔術・魔法・魔導・呪術・死霊というカテゴリに分けられている。


 その新たな塔の主になる人物が、魔法都市ヴェラゼンの中心街にある学園での演説を終え、学園から中央広場まで続くメイン通りで、王国騎士団を先頭にパレードするオープン馬車に乗り、数百年ぶりの塔誕祭で沿道に溢れ返る人々に笑顔で手を振っていた。


 よく見れば金髪にエメラルドの瞳の20台前半の女性で、振っている左腕は精霊義手エレメンタルアームであった。その女性の名は、ノア・デモニウム・プリンセプス。既存の魔物育成の枠にとらわれず、ある意味自由であり、神の領域を犯し命を弄ぶ外法な手段を用い、扱いやすい魔物を数多く生み生み出す。現代の魔王とも呼ばれている。


 この物語は、ノアが塔の主に認められるまでの奇跡の物語である。


 ◆◇◇◇◇


 ノアには夢がある。魔物に関する仕事に携わり生計を立てることだ。その仕事とは、魔物を討伐することではなく、例えば、捕獲する仕事や研究。だけど現実は使い魔の販売店への住み込みだった。


 10歳の洗礼式を終えたノアは、お世話になった小さな村レレの仲間や両親と別れ、乗り合いの馬車で2日ほどかかる住み込み先がある商業都市サナーセルへ向かう。


 護衛の冒険者の費用を安く抑えるため、6人乗りの乗り合いの馬車が5台にほど連なる光景は珍しいものではないらしい。乗り心地の悪い馬車に揺られながら、街の商業ギルドで作ったギルドカードをポケットから取り出す。


 そのギルドカードに記録されているステータスは。


□□□──────────────────────

●名前:ノア(人間・女性10歳)

●職業:商人(ランク:G)、スキルポイント:8

○能力:体力F 筋力G 知力G 魔力G 運気E

○評価:商才G 人脈G 財力G 知識G 健康F

○習得:鑑定B 索敵C 従属G

○状態:良好

◎固有:拡張S 最適S 補正S

──────────────────────□□□


 項目の左にある●が公開で○が非公開になり任意に切り替えられ、◎が完全隠蔽で自分以外は見ることが出来ない。ランクは低い順に、G・Fが初級、E・Dが中級、C・Bが上級、A・Sが特上だ。


 能力は身体の特徴で、成長と鍛錬によってランクアップ可能。一般的には、第二次性徴期で1ランク程度アップした後、鍛錬を開始する。ちなみに同世代の子供と比べても、残念ながらノアの能力は低かった。


 評価は職業によって異なる。ノアの場合、商人なので【商才】や【人脈】だが、冒険者なら【討伐】や【探索】などが評価対象だ。評価を見ればその人の実力がまるわかりになる。


 習得とはスキルの一覧だ。スキルは大まかに分けると二種類。ギルドカードでスキルポイントを消費して取得する一般スキルと、スキルスクロールにより取得する固有スキル。スキルスクロールは迷宮の奥底にある宝箱等から手に入れられ、オリジナルスキルが記録されている事が多いらしい。そして、スキルスクロールは、都市伝説かも知れないが、その希少性と有用性からして小国の国家予算並みの金額と言われる。


 そもそもノアが、その都市伝説級の固有スキルを3つも保有しているかと言うと…。


「どうせ捕まったら自白も出来ない契約だ。拷問中に苦しみながら死ぬだけだよな。あいつらに一泡吹かせてやるさ。これをお前にやるよ。だけど死にたくなかったら…この事は誰にも言うなよ?」


 街の夏祭りの夜に知らないおじさんからもらったのがスキルスクロールだった訳だが、どうも風のうわさによると、この固有スキルを3つは、古代の禁忌魔術により勇者から奪ったスキルらしい。


 【拡張】… このスキルを発動させた直後に使用したスキルのランクを一時的に上げる。つまり【拡張】を発動した直後に【鑑定】を使用すれば、上位スキルの【看破】が発動する。一日三回まで。


 【最適】… 使用したスキルの熟練度を上げやすくする。効果は最大で通常の100倍となる。


 【補正】… ランクアップ時に取得するスキルポイントを大幅にアップする。


 見ての通り効果覿面。街を出るまでに鑑定がB、索敵がCまで上昇する。だけど従属は魔物を実際に従えないと上がらないため初期のGのままだ。


「スキルポイントが8ポイントも残っているじゃないか」

「勝手にノアのギルドカード見ないで!」

「そ、そんなに…怒るなよ。悪かったよ…」


 全く油断も隙もありゃしない。お返しにと【鑑定】スキルの練習を兼ねて覗き見したおじさんのステータスを覗くが、面白くも何ともなかった。【鑑定】スキルは接触が必用なのだが、おじさんはぺたりとセクハラなんのそのと体を密着させてくる。


 やっぱり護身用スキルは必用なのか? でもスキル一つ取得したぐらいじゃ役に立たないし、スキルの熟練度も商人だと中々上げられない。


 アレコレ悩むのは好きじゃない。諦めて【索敵】スキルの熟練度を上げる訓練をする。Cランクならば遮蔽物の有無に関わらず500m以内なら魔物の有無が、300m以内なら魔物の種別がわかる。


 あぁ!! 銀溶液(シルバースライム)に、白角兎(ホーンラビット)が其処彼処にいる!?  滅茶苦茶、触ってみたい!! 住んでいた街の周辺にも出没する一般的な魔物だが、洗礼式前の子供は街の外に出れないため魔物大百科の絵でしか見たことがなかった。


 銀溶液(シルバースライム)はプヨプヨして、白角兎(ホーンラビット)はモフモフなんのか!?


 ◇◆◇◇◇


 二つの太陽が頭上の遥か高くで重なる。つまり昼。馬車は停車し、御者さんが連結していた荷台からお弁当と水筒を取り出し乗客に配る。


「馬を休ませるため、1時間のほどの休憩となります。安全のためなるべく馬車から離れないようにお願いします」

 

 若い男性の御者さんからお弁当と水筒を受け取ると、停車した街道の反対側の岩山を目指す。あの岩山の上でお弁当食べたいじゃない?


 ノアには荷物も手荷物も馬車にないため馬車を離れられる。生活の準備は住み込み側で用意する。これは何が必用なのかわからないのと運搬費用がかさばるため。なので事前に両親から商業ギルド経由で初期費用を送金していた。


 10mほどの岩山に登ると、東西に伸びる街道と草原が一望できた。


「まるで絵本の中にいるみたい」


 街の中の狭い世界しか知らないノアは、まるで自分が夢物語の主人公になった気分になる。干し肉とチーズを挟んだだけの固いパンでも、この景色の中で食べると格別に美味しく感じた。


 早々に食べ終わってしまったノアは、馬車で座りっぱなしだった体を解しながら寝っ転がり、流れる雲を眺めていた。そして、何気なく使った【索敵】スキルで、銀溶液(シルバースライム)がすぐ近くにいることに気が付く。


 銀溶液(シルバースライム)だもん動きも遅いし。ちょっと見るだけだから、危なくないよね? 岩山から降りて、【索敵】スキルの指し示す方角へ向かう。


 そこにいたのはバスタブほどのサイズの銀溶液(シルバースライム)だった。


「大きい!? これ成体なのかな?」


 ノアに気付いた銀溶液(シルバースライム)は、グニョリと体を揺らしながら、ゆっくりと逃げる。


「あっ! 待って!! 怖くないよ!?」


 不意に出した右腕に銀溶液(シルバースライム)から伸びた触手の様な塊が絡まる。そして、そのまま銀溶液(シルバースライム)の中に引きずり込まれる。


「い、いやっ!! た、助けて…」 


 一人、街道の反対側に来てしまったノアの声は、冒険者たちに届かない。顔を飲み込まれたら窒息死してしまう…。必死に空いた左腕で抵抗するが、銀溶液(シルバースライム)から何本も触手が伸びてきて、抵抗虚しく銀溶液(シルバースライム)に取り込まれ始める。


 ジュウゥゥゥッ…。と衣服の溶ける音がする。


「し、死んじゃう…。だ、誰か!!」


 開いた口に触手が突っ込まれると、微弱な痺れ効果のある体液が体内に入ってしまい…気を失ってしまった。


 ◇◇◆◇◇


「ライト・ヒール!! ライト・キュア!!」


 女の人の声? あれ? ノアは一体…。


 目を開く。冒険者の女性が「起きた!!」と、寝ていた? ノアを抱きしめる。周りを見ると男性の冒険者が背を向けていた。


「あ、あの…。ノアは…魔物に…」

銀溶液(シルバースライム)に取り込まれそうになっていたんだよ。銀溶液(シルバースライム)は人間の衣服が大好物でね」


 ハッとなり、自分の姿を見ると、やはり…真っ裸だった。


「あわわわっ!?」


 必死で胸やら何やらを足や腕、体をくねらせ隠す。


「大丈夫だよ。男どもは…スライムに取り込まれたところ…しか…見てない」

「は、裸で取り込まれて…」

「ま、まぁな。でも、怒るな。一応…あいつらも命の恩人なんだ…」

「う、うん…」


 冒険者のお姉さんのインナーをもらって着る。ブカブカでミニワンピースのようでありミニスカートのようでもある。下着がないので、見えてしまわないかハラハラドキドキした。

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