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竜のおくりびと  作者: 蒼空チョコ
第一章

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孵化 Ⅰ

 そして、目覚めの時は急に訪れた。

 口と頬辺りを押さえ込むように、むにぃっとした感触に包まれる息苦しさに突如襲われたのである。

 目を開けると、視界に入るのは毛だらけの前脚――犯人はゲリである。


「朝だ、朝。ついでに、竜も孵化した」


 その知らせのために起こそうとしたらしい。

 鼻先で突っついてくるとか、もう少し別の起こしようがあるだろうに、なんでこんな方法を取るのだろうか。

 見ればフレキまでベネッタに同じことをして強制起床をさせている。


「まったくもう、この悪い子めっ!」

「うぉふっ!?」


 肉球を押し付けられて嫌なわけでもないのだが、スキンシップ代わりにゲリを抱き締める。


 ともあれ、それを終わらせてから小竜に目を向けた。

 卵のほぼ全周を割り終えた竜は伸びで殻を脱ぎ捨てたところだ。体はまだいくらか濡れているものの、ぽてぽてと動き出そうとしている。


 こういう赤ちゃん時期というのはどんな動物も可愛らしい。

 けれども、この土地の管理者としてはそうして和んでばかりはいられない。

 今後のためにも、この子の形質に注目する。


「羽翼種か。ちょっと珍しいなぁ」


 顔周りや翼の飛膜などに鳶色の羽や毛を持つ竜だ。

 竜は体色による基本的な属性や性格分類のほか、形状もその生態に大きく影響を及ぼす要因になっている。


 まず四脚+一対の翼を持つ姿がオーソドックス。

 その他、鱗が特に発達していたり、手足が退化していたりする地竜。二脚と一対の翼しか持たなかったり、翼が多かったりする翼竜。手足や尾がひれとして進化した海竜などが種類としてある。


 羽翼種とは翼竜の一種だ。

 竜というのは本来、全身を鱗が包んでいる。例外といえばたてがみを持つくらいだろう。

 しかし、この種の竜は始祖鳥の如く翼の飛膜部分が羽毛によって覆われている。


「いつも通り、親とは違う種類だろうか?」

「はい。至竜は姿が遺伝しない場合が多いんですよね。不思議なことです」


 同じ竜ではあるが、両親と子が別種という事態は少なくない。

 これを表層世界で例えるなら、単なるイタチからカワウソやラッコ、アナグマが生まれ落ちるようなものだ。


 至竜の生活様式が大きく変わってくるのは独り立ちをする頃なので、育てる側としてはどんな種であろうと大差はないのだが、実に不思議なことである。

 理屈は気になるものの、他にすべきことが多すぎるのでミコトもこの辺りについてはさっぱりだった。


「そういった根本的な調査研究は封律機構の分野だな」


 小首を傾げていると、ベネッタが呟く。


「科学的に調査研究をしているということですか?」

「ああ。手に入れた竜のサンプルから様々なデータを入手していると聞くよ」


 竜の大地から提供している竜の素材を何に使っているかと思ったら、そんな研究にまでなっているとは驚きだ。

 しかしそんなものは科学の範疇に収まるものかと疑問が残る。


「出生のメカニズムについてはまだ疑問も多いが、死にごもりと転生が大きく関係しているという話だ」

「死にごもりですか。確かに竜は卵を産みはするけれど無精卵や胚の発達が途中で止まってしまう卵が多いですね」


 鶏やウミガメの卵でも展覧や温度の関係で孵化しない卵はある。それと同じだ。

 竜は幻想種の生態系でも基本的に上位で天敵が少ない。ぽんぽんと生まれて育っては世界の方が滅んでしまうだろう。

 現状、それほど竜が栄えていないことからしても孵化の条件が厳しいことは予想できる。


「竜はそのままだと受胎と胚の分化がとても下手な生き物らしい。けれど転生体が卵に宿ると、何らかの作用でその欠点が克服される。あと、こうして種が大きく変わるのも転生体の影響だそうだよ」

「魂は意志を持った魔力の塊みたいなものですもんね。その魔力がいろいろと作用しているんだなと考えれば確かに頷けます」

「そう。個人の魔力の質や能力は本質によく似ている。しかも自分の本質に適う形に魔力が体を変異させているそうだ。竜やスライムのように適応放散が激しい幻想種はそれが顕著に表れる。ほら、爬虫類なんかは孵卵機の温度が少し違うだけで雌雄が変わったりするだろう? 転生体は自分の魔力で自分が火竜、地竜、海竜、翼竜になるといった変化を胚に引き起こさせるらしい」

「なるほど。そんな仕組みがあったんですね」


 聞いてみれば確かに説得力のある話である。

 後天的に体を変異させるというのは固まりかけた紙粘土をいじるように難しいものだ。けれど体が出来上がっていない時ならば大きな変異を起こしやすい。

 こくこくと頷いていると、ベネッタは苦笑を浮かべる。


「他人事ではないよ、ミコト。これは私たち御子にも関係のあることだ」

「え。そうなんですか?」


 この言葉に関しては予想外だ。

 自分たち御子は単に縁者によって拾われたくらいで、見かけも人間そのものである。しいて言えば育った環境が環境だけに魔力許容量が桁違いにはなるが、それくらいだと思っていた。


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