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竜のおくりびと  作者: 蒼空チョコ
第一章

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団欒の時 Ⅰ

 

 ミコトとアルヴィンが階下に降りてみると、すでに食卓の準備は整っていた。

 食卓には三人分の食事が並び、ベネッタは窓辺に席を設けてグウィバーを呼び寄せている。

ミコトとアルヴィン、コーティの三人が食卓で、ベネッタとグウィバーは窓辺で食事を共にするというのが普段の形なのだ。


 ちなみにゲリとフレキといえば食卓は逆に大変なので床での食事である。

 職人のそば打ち用こね鉢のような大サイズの平皿に肉とレバーの塊があり、もうそれにむしゃぶりついていた。


 ベネッタの背後に張り付き、肉球を押し付けて催促していた時点でこうなるものとは予見していたが、本当に堪えようがない。


「ああ、もうっ。二人ともまた先に食べちゃってる!」

「冷めたら味が落ちる」

「いつもは出来立ての料理を冷ませって催促してくるくせにー」

「子竜の番が必要故に」

「それはまあ、ありがたいんだけどね」


 ゲリとフレキは本当に狼気質だ。この家に住むミコトは群れの一員として過保護になるものの、ベネッタやアルヴィンなどには大して興味を見せない。ご飯を終えたらさっさと寝る素振りさえあるくらいだ。

 仕方のない親だと息を吐いたミコトは濡らした手拭いを用意して食卓に着く。


 ゲリとフレキは噛み千切るために肉を押さえている前脚にも口周りにも肉汁をつけているので、それを拭いてあげる準備だ。

 少しバラバラな気もするが、これがこの家の団欒である。


「いただきます」


 ゲリとフレキではないが、冷めてしまうのは惜しい。人が揃ったところでご飯が始まる。

 食卓に並ぶのは羊の香草焼きやポトフだけではない。ハッシュドポテトのように揚げ焼きにされた芋に、色彩豊かなサラダ、あとはカボチャなどの蒸し野菜とそれにつけるためのディップソースやバターなどだ。


 ミコトがこの中でまず食べるのは香草焼きである。

 溢れる肉汁とその脂を見事に引き立て、味を引き締めるハーブとスパイスの配合加減は真似できない。故にまず手に取ったわけだが、絶品だ。

 蒸し野菜のディップソースにしても酸味やコクなど、種類によって違う趣向に調整されていて美味だった。


 いくら素材があっても、こういった味の微調整までは再現できる気がしない。

 うーん♪ と悩ましく唸っては次の料理に手を伸ばすばかりである。


「先代、とても! とても美味しいです!」

「はは。喜んでもらえて何よりだよ」


 答えるベネッタはといえば食事は片手間にパクつく程度だ。彼女は自分の卓に置いた大鍋に柄杓を突っ込むとグウィバーの口に運んでいる。

 彼に美味いと返された時はじんと言葉が響いているのか、より満たされた様子だ。


「ベネッタよ。お前の食事の手が疎かになっておるが……」

「いや、食べているよ。気にする必要はない」


 促されればその証拠にというように一口。しかし自分の料理に舌鼓を打つより、世話をする方がむしろ楽しいようだ。料理を作っていると食べていないのにお腹が一杯になってしまって、誰かが食べている姿を見る方が良くなる。そういう人なのである。

 反面、お洒落には無頓着で戦闘スタイルそのままに動きやすさを求めてノースリーブなどを好む。

 外の世界で気になる男性でもできれば即落として家庭を築いてしまいそうだ。


 唯一の甘えどころであり、癒しでもある彼女を誰かに取られるという展開は想像するだけで辛い。ベネッタの幸せは喜ばしいものの、諸手を挙げて歓迎しにくいのがミコトの正直な感想だった。


「ああ、そうだ。ベネちゃん、あなたがご希望の薬ですが僕が仕上げておきましたよ」


 そうしてベネッタの外の生活について考えていたことが伝わったのだろうか。

 アルヴィンと目が合ったかと思うと、彼は薬を彼女に手渡した。これはまさにベネッタの外の生活を聞くタイミングだろう。


「あの、先代。質問をしてもいいですか?」

「ん、なんだい?」

「先代がその薬を使ったりする竜の大地以外での生活についてなんですけど」

「えっ」


 問いかけてみるとどうだ。

 彼女は眉を寄せて気まずそうな――いや、うっかりに気付いたかのような困り顔になる。


「伝えたこと、なかっただろうか」

「一度聞きはしたんですけど、あまり深くは……」


 約六年前。

 ミコトが当時十二歳、ベネッタが十四歳の時に竜の大地に黒竜が現れ、その鎮圧の件で代替わりをした。その失意もあってベネッタは失踪し、数か月後になってようやく帰ってきたのだ。

 当時はお互いに腫れ物に触るように当たり障りのない会話しかした覚えがない。


「では今一度問いかけてみることにしましょう。ベネちゃん、今は何をしているのですか?」


 停滞した空気の中、アルヴィンが率先して問いかける。

 はい、と恭しく頷いたベネッタは口を開いた。


「私が現在属しているのは封律機構と通称される組織です。これの事についてはミコトも知っているね?」

「あ、はい。表層世界の国際刑事警察機構(ICPO)みたいなものですよね。今回捉えた密猟グループなどが表層世界に物を流していた時には協力して壊滅させます」

「そう。表層世界は何も幻想種を根絶やしにしようとしているわけじゃない。管理できる生物資源として付き合おうとしている。例えば竜鱗の構造を分析して、装甲に利用したりだね」

「いろいろと私の行動のサポートしてもらう代わりに定期的に生え変わる竜の牙や鱗を渡したりします」

「あちらも裏取引をされたら何に使われるかわかったものじゃない。そういう点では持ちつ持たれつなんだ」


 ここまでの話はミコトにも関係のある話だ。

 先日の元白鳥の場合は全てを穏やかに治めることができたが、場合によっては携帯電話から連絡して協力を仰ぐこともある。

 それだけ竜の送り人と関係のある組織なので、失踪後のベネッタが接触したのもわかる話だ。


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