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竜のおくりびと  作者: 蒼空チョコ
第一章

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竜を統べる御子 Ⅲ

 これは高位の魔術が封じ込められた、いわゆる魔剣だ。

 ほんの一回で力を使い果たしてしまう代物だが、小さな家と同等の値段もするのでとてもではないが常用できない。命が脅かされた際の切り札だ。


 刀身で指を傷つけ、その血で個人認証を解いて術式を起動。あとは呪文を口にして機能を行使する。


解放リリース!」


 魔具もただ魔術を開放するだけでは活かせない。込められた風の魔術を集約させ、この障壁を貫く刃となるように制御し、思い切り突き立てる。

 だが結果はどうだ。


「ぐあっ!?」


 確かに表面を削れはしたものの、威力はほぼ流されて地面を抉るばかり。その勢いが強すぎ、跳ね飛ばされてしまった。

 力を使い果たした魔具からは色が消え失せ、泥細工みたく崩れ落ちる。


 なんてことだろう。

 ドーム状に周囲を覆う壁に一点突破を仕掛けたというのに、壊せる気配すら感じられない。これは一体どうやって抗えばいいというのか。


『賊の皆さん、聞こえますか。私は今代の送り人です』


 抗いようのない力量差に戦慄していると、脳内に声が響いた。これは念話だ。


『説明は省いて結論だけ伝えます。抵抗しなければ命までは奪いません。狭間の里の長に沙汰を任せます。だからどうか賢明な――』


 判断を、という御子の声に重なって一つの閃光が廃墟を薙ぎ払った。光が舐めた軌跡が爆ぜ、炎が巻き上がる。

 どこぞの馬鹿が忠告を無視して突っ込み、竜が反撃したのだろう。

 その事実は推測できるものの、ぞっと背筋が震えた。


 この廃墟群を根城にする者は誰一人としてあんな威力の攻撃を放てない。感知能力が劣った者も力量差を思い知ろうものだ。

 けれども数瞬を待たずして各所で火の手が上がった。


「あぁ、そうだよなぁ。あの言い分、今死ぬか後で死ぬか選べってもんだもんなぁっ!」


 元よりまともな生活を選べなかった跳ね返り共だ。選択を迫られて大人しくしていられるわけがない。

 自分だって逃げて抗おうとした。逃げ場がないと知った者が破れかぶれに挑もうとする気持ちもわからないではない。


 ああ、絶望的な状況だ。臓腑が焼けただれそうなストレスを感じる。

 死の恐怖に抗って思考を巡らせるが、今にも泣きたくなりそうだ。


「そう、そうだ。捕まえている連中を差し出すなり、人質にするなりすりゃあまだ……!」


 弱い里人や渡りを襲った際、慰み者として生かした綺麗どころだ。

 それを進んで差し出す善行でお情けに期待するか、その命を盾に逃避行するかはその場の流れ次第だろう。


 動け。今は一分一秒でも早く選択肢を用意しろ。竜の攻撃に巻き込まれて連中が吹き飛ぶ前に確保しろ。

 そう念じて一心不乱に駆け抜ける。

 途中、竜に抗って食われる賊の姿も見たが、構いやしない。


 この先の廃墟に目的の男女が捕らえられているはずだ。

 そう思って飛び込もうとしたところ、見えない壁に顔面を強打した。


「ぐがっ!? なっ、ここまでっ……!?」


 荒れ狂う竜のせいで大気中の魔力は大荒れだ。そのせいで障壁の有無が判断できなかった。

 御子は捕まった人間なんて微塵も気にせず竜を放った――そう思ったが、違った。

 捕虜を事前に察知して結界で保護し終えていたからこそ、竜を放つのに気兼ねをしなかったのだ。


 密猟が囮捜査だったわけではない。

 竜の大地に戻ってすぐに異変を察知し、あの場の痕跡からここまで追ってきた。そして、賊の溜まり場だったから、ついでに根こそぎ綺麗にしにするつもりなのだろう。

 事実はたったそれだけ。

 手を出した相手が悪かったと、どれだけ痛感してももう遅い。


「ぐぎゃっ!?」


 万策尽きてその場にへたり込んだところ、見えない何かが全身を押し潰さんと圧迫してきた。

 否、これは変形した障壁である。見えない手のように体を掴まえられたのだ。


 ついに御子に補足された。

 一人の少女と黒竜が歩いて近づいてきた。

 黒竜は何かを強く恨む種だ。憎悪に猛った瞳でこちらを睨み据え、陽炎を揺らめかせると息を吐いている。


 少女はそんな竜の額に手を置き、軽く制していた。


「あなたも至竜を襲ったグループの一員ですね?」

「あ、ああ! 隠し事はしない! 全て話す! だから命だけは助けてくれぇっ!」

「ひと通り質問はさせてもらいますけど、私はあなたたちが嘘をついているかどうかまではわかりませんし、尋問に使える技能も持っていません。あなた方の処遇は里の人たちの判断次第です」

「……っ!」


 尋問の技能があろうとなかろうと、同じ下手人の短刀使いとは離されている。適当に吐いた嘘は首を絞めるだけだ。

 少しでも減刑の余地に期待する一心で、少女の質問には偽りなく答えるのだった。


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