第7話 兄弟の一時
夏の雨が長いこと降っていたが、ようやくと止んだ。
俺と翔太は家に帰る。翔太はここに来るのに帽子を被って来なかった。代わりにフードを被せて雨宿りをしていた河川敷にある橋の下から出る。雨の中を走り服が雨で濡れていて気持ち悪く早く着替えたかった。翔太を探しに出た時は六時位でまだ外は少し明るかったが携帯を見るともう九時を過ぎて辺りもすっかり暗くなっていた。
こんな時間に翔太と手を繋いで外を歩いていると夜間のパトロールをする警察官に声を掛けられるんじゃないかと気が気でなかった。しかし、そんな心配なくパトロールをする警察官どころか仕事帰りのサラリーマンや夜遊びする未成年者などといった人とも出くわすことなく自宅に着いた。急いで家を出たことで鍵をかけ忘れていた。
家に入り、まずは翔太が風邪を引かないように風呂を沸かし翔太には先にシャワーだけでも浴びててもらった。そしてタンスから俺の服と陽太が使っていた服を取り出して風呂場まで持っていく。俺は濡れた服と翔太が脱ぎ捨てた服を洗濯機に入れる。その頃に丁度風呂が沸き終わった。
俺も風呂場に入る。翔太は既に髪と身体は洗い終わっていた。翔太は浴槽に浸かり俺は伸びに伸びきった黒い髪と身体を洗う。翔太に背中を洗ってもらった。力加減が丁度良くとても気持ち良かった。俺と翔太は一緒に風呂に浸かり、翔太は俺の膝を背もたれにしながら湯に浸かる。そこから見える背中には受けた虐待の痣が見える。それを俺は優しく手で擦った。
「兄ちゃん……。くすぐったいよ」
「ごめんごめん。はぁ……。翔太温かいなぁ、俺風呂好きなんだ。何時間でも入っていられるよ」
「僕はあんまり好きじゃなかった。いつも冷たいお風呂に入っていたから。でも兄ちゃんと入る風呂は凄く気持ちいよ」
「そっか、それなら良かった……。じゃあ俺の風呂でのルール適用な最低十五分は浴槽に浸かるように」
「兄ちゃんとなら何時間でも入るよ」
それからは翔太と我慢比べして何時間風呂に浸かっていられるかの勝負をしたのは言うまでもない。
「まったく、兄ちゃん二時間で限界なんて僕はもう少し入れたよ」
「ちくしょう、負けた」
俺は二時間で限界を迎えた。陽太はまだまだ余裕そうだった。俺と陽太はそれぞれ部屋着に着替える。少しのぼせ気味な俺は身体をよろわせながらリビング横に直結になっているキッチンに向かい、ぼんやりとした中、冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注ぐ。頭がぼんやりとして少し溢してしまった。だが牛乳を飲んだら少し治ってきた。
「翔太も牛乳飲むだろ?」
「うん、飲む」
翔太の分ともう一杯の俺の分をコップに注ぐ。俺と翔太は揃って腰に手を置いて一気に飲み干す。さらに揃って息を継いだ。コップを置きまだ夕飯を食べないことを思い出す。二時間も風呂に浸かっていたことでもう十一時を過ぎていた。今日はもう作る気力はなく買いだめしてあるカップラーメンで済ませることにした。
「翔太は決まったか?」
「僕はこれにする」
俺はいつもの魚介たっぷり塩ラーメンを選ぶ。翔太が手に取ったカップラーメンは職人直伝超濃厚豚骨ラーメンだった。俺が前に買って楽しみに取って置いた期間限定のカップラーメンだ。
「翔太、それを選ぶとは中々センスが良いな。それは期間限定でもう手に入らない逸品だぞ」
「これが一番美味しそうだったから。でも兄ちゃんが食べる為に取って置いたのなら、別のを食べるよ」
「あー、良いんだ。翔太が選んだんだ。俺だって食べようと思えばいつでも食べられたんだ。早い者勝ちって奴だよ。でも思い出すなぁ」
思い出したのは家で観た職人直伝超濃厚豚骨ラーメンの広告。昔からカップラーメンが好きで陽太にご飯を作って俺はカップラーメンという日があった位だ。その広告を観た日に地元のスーパーに買いに行ったけど無くて、隣町と色々な店を回ったけどそれでも結局見つからなかった。これを食べなかったら悔やむと思って気づいたら電車に乗って一時間の距離の東京に向かってた。ようやく見つけた一個だった。
俺は少し悔やみながらも魚介たっぷり塩ラーメンと翔太の職人直伝超濃厚豚骨ラーメンにお湯を注ぐ。少し長めの五分間を待ってスープの素を入れる。良い匂いがほんのり香ってくる。
「「いただきます」」
職人直伝超濃厚豚骨ラーメンも食べたかったのだが、俺が最近ハマっている魚介たっぷり塩ラーメンもやはり美味しい。たっぷりと言うだけあって海老、烏賊、アサリと色々と入っていて魚介ベースの塩ラーメンでとっても美味い。だが隣から豚骨独特な匂いが流れてくる。
翔太が豚骨ラーメンをすするのを凝視する。
「兄ちゃん……。少し食べる?」
「いいのか、ありがとう」
翔太は恨ましそうに凝視していた俺に食べていた職人直伝超濃厚豚骨ラーメンを少し分けてくれた。豚骨ラーメンに置いてあった割り箸を使い麺を掴み上げすする。細ストレート麺が豚骨スープと良く絡みあってすする度に豚骨の風味が口一杯に広がった。
「兄ちゃん……。食べ過ぎ」
「あ……。ごめん」
一口だけ食べるつもりだったのだがあまりの美味さに三口食べてしまった。少なくなってしまったお詫びに俺の魚介たっぷり塩ラーメンをあげた。美味しいと言ってくれたが翔太には悪いことをした。だが止まらなくなる位職人直伝超濃厚豚骨ラーメンは美味しかったんだ。
「「ごちそうさま」」
「美味しかったな翔太」
「うん、もうお腹一杯だよ」
食べ終わった時点でもう次の日零時になっていた。流石に俺も翔太も眠くなっていた。二人揃って洗面所に行って歯を磨いた。磨き終わり俺は自室、翔太は陽太の部屋にそれぞれ別れ睡眠に入る。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
俺はベットの上に横になり今日のことの反省と今後のことを考えた。翔太を悲しませたり、悩ませたりしない。今日から翔太を思い翔太の為にも頑張っていきたいと思う。陽太への思いの強さと翔太への思いの強さを同等のモノとして二人のことを思い、俺と翔太と陽太の三人幸せになれるように尽力していこうと強い意志を持ち今日は寝に入った。
翔太との生活四日目
翔太の顔お痣は昨日と然程変わっていない。いつになったら翔太は外に出れるのだろうか。
昨日終わらなかった分のパズルを再開する。まだ半分以上パズルは残っていて終わりが見えない。しかし翔太がパズルの才能に目覚め次々とピースをはめていく。夕暮れ位でパズルは完成した。昔流行っていたアニメのパズルだ。翔太はこのアニメ放映の時は産まれてなく、このアニメの面白さを熱弁した。
夕飯は麻婆豆腐の少し辛口を作った。