第30話 少年の目覚め4
「優さんは今日何時に帰るんですか?」
「え?」
「明日から仕事復帰ですよね?早めに帰った方が良いんじゃないんですか?」
「あー、そうだった…。田所部長が俺の家に資料容れとくて言ってたから目を通さない行けないんだった。まぁ夕方くらいは帰るよ。後二時間位かな」
「そうですか」
優さんと軽く会話をしながら俺は翔太の側に行った。数日眠りっぱなしの翔太はやはり少し痩せたように見えた。目が覚めても何か後遺症が残るかも知れないと改めて心配になってきた。
「大丈夫だよ、何かあったら口の堅い知り合いの少し闇深い医者を紹介してあげるから。こう見えて色々な所に知り合いいるから」
「ありがとうございます」
少し闇深い医者か……。
不安でしかない。でも普通の医者に連れて行ける訳もない。闇だろうが、多額の金を請求されようとも何とかしてみせる。それよか、こんな田舎の警察官である優さんが何でそんな知り合いがいるのかが気になる。この人も何か裏があるっぽいな。詮索は取り敢えずやめておこう。
「少し闇と言っても、俺の紹介ならそんなに大金請求されたりしないから安心してよ」
「は、はぁ」
いや安心出来るわけない。
とにかくそれはおいといた。
優さんと互いに無言でニュース番組を見ていると誘拐事件のニュースが話題に上がった。翔太誘拐話ではなく別の誘拐事件のニューだった。誘拐されたのは女の子で既にその子は見つかり、犯人は捕まったようだ。理由は可愛くてついやってしまったらしい。
この犯人キモいな。こういう誘拐は本当にクソだと思う。その子は幸せのなか、両親に大切に育てられ今後も事件に合うことなくそのまま幸せに生きていくことが出来た。だがこの犯人によって人生が崩れ、良くない方向にその子、またその家族が行ってしまうかも知れない。こう言う誘拐事件は犯人が社会復帰出来なくなるまで全国に余すことなく報道されればいいと思う。
まぁ俺も一応誘拐犯であることには変わらんが。
そのままニュースを観ているとここ数年での誘拐事件、公に出ている行方不明者の表が映され、そこには柳場翔太、翔太の名前が表に出ていた。誘拐事件ではなく行方不明者の欄に。
誘拐事件は少数出ている。公になってない行方不明者に至っては一年で約八万人もの老若男女が行方不明になっている。事件等で行方不明となった者は少なく少数であった。警察では翔太の事件をどう捜査しているかは知らないが、このニュースではあくまでも、行方不明者扱いをしていた。
誘拐という証拠が今のところは出ていないということなのだろうか……。
一応見つからないように最善の注意を払って毎日を送っていたし、出会ったあの日、翔太をおぶり、家に連れ帰る時も誰にも見られたりはしていない。近隣のじいさんには見られたが認知症ということで陽太と間違え多分大丈夫だ。今のところ特に証拠が見つかるような事はない。
優さんが裏切らなければだけど。心配要素で一番デカイ時限爆弾でもある。今は止まっているがいつ動きだし後どのくらいで爆発、つまり警察官の集団が家に来るかがわからない。今はまだ止まっているとは思うが…。
誘拐事件、行方不明者のニュースが終わり、政治系の話になった。大学生にもなって未だに政治には興味が出ない。国がどうなろうが自分には関係ないと思っている。将来きっとためになるし、重大な事何だろうが本当に興味が出ない。将来きっと苦労するだろう。
「優さんをチャンネル変えていいですか?」
「いいよ、俺も政治とか興味ないし」
俺が政治に興味ないって決め付けられた。興味ないけど……。
「ありがとうございます」
番組表から適当に番組を探す。丁度これから観たかった刑事ドラマの再放送が放送された。
交番と警視庁の仕事は違うが本物の警察は刑事ドラマ観てどんな事を思うのか興味が出た。良くあるドラマと実際は違うのか、それとも実際に近い形になっているのか、今まで観ていて好きだった刑事ドラマが実際と異なるとなると少し落ち込む。嘘の世界だったとか思いたくない。実際に近いなら嬉しい。
再び無言になって刑事ドラマを視聴する。ほぼほぼ中盤まで見終わった所で訊いてみた。
「実際の警察てこんな感じなんですか?」
「と言うと?」
「一つの事件にここまで集中して熱い男が事件に取り掛かるみたいな」
「まぁそういう人も居るとは思うけど、そこまでかな。俺に至っては本当に興味ある事件、やりたいと思ったことしかやる気出ないかな。まぁ俺交番勤務だけど」
「そうなんですか」
「警視庁の人のことは知らんし、そもそも警視庁行かないし、人脈ある俺でも警視庁に知り合いいないから、でも結構裏と繋がっているという話しは聞くけどね」
「やっぱりそういうのあるんですね。優さんも、闇深い医者と繋がっているとか言ってましたしねー」
「俺のは本当に特殊な事情があるから」
苦笑いをしてその場は退いた。事情は今は聞かない方が良いような気がしたからだ。
数秒だったが静かな時間が一瞬流れた。
______________
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「顔は止めてよ。世間体もあるから」
男大きな手がその小さく細い腕を強く握りしめ上方に強引に引き上げる。上方に上げられた少年の目に涙が溢れ泣き出していた。泣いている少年を、その男はタンスに突飛ばし少年背中を思い切り打ち、倒れこんだ。更に追い打って、その場に倒れた少年の体を蹴る。
「う、うぅ……。止めて…。」




