第29話 少年の目覚め3
家捜索をしたいと言った優さんはリビングを出て廊下の物置と俺と陽太の部屋がある側を調べ始めた。リビングに残された俺は優さんが捜索の間、時間的に昼を過ぎ昼食のタイミングをすっかり逃してしまったが今から準備することにした。男が男に料理を作るのは、こっぱずかしいが、せっかく優さんが食材を買ってきてくれたからふるまうことにした。
さて何を作るか……。普段は買わない食材まで優さんは買ってきて、普段作らないものまで作れそうだ。作り方は知らないがスマホで検索すればなんとかなるだろう。失敗してもまぁ、信頼どうこう言ってる優さんだから不味いとは言わないだろうし、頑張ってみるだけ頑張ってみるか。
スマホを取り出し、ある料理を検索する。所々ミスしたが材料はしっかり同じものを使った。完成したのは酢豚だ。
何となくどこか失敗したような雰囲気がでているな。トロミが無いというか、ゆるい……。材料は同じに作ったのだが、どうしてだろうか?うーん、まぁいいか、優さんに食わせれば問題ない。味は上手いかも知れないしな。ところで、優さんは今どこを見ているんだろう……。
せっかく作った酢豚が冷めると本当に不味くなりそうで呼びに行くことにした。リビングを出てすぐまがったところの陽太の部屋が開いていた。別に陽太の部屋にもどこにも何も無いし、それどころか陽太の部屋は陽太が死んだ時にままにして、翔太が使っているから特に何もない。
「優さん、お昼作りましたけど」
「わかった、今行くよ」
陽太の部屋から出て来た優さんは少し、目を潤し、何かを決心したみたいな顔つきをしていた。だが別にこの時、特に何も思わなかった。優さんをリビングにある食卓に案内し席に座らせる。目の前にトロミの無い酢豚とご飯を出す。酢豚の見た目が悪く普通なら顔に出てしまいそうだが、優さんは別に嫌な顔一つせず箸を持ち酢豚を掴み食べる。
特に不味そうな顔はせず優さんは食べた。
案外上手く作れたのかもな。不味ければ少しは顔に出るだろうし、きっと美味しいんだな。本当は優さんに全部食べさせて俺は食べる気は無かったが美味しいなら食べよう。
そう思い箸を酢豚に向け食べてみる。
うん……。想像通りに不味い……。
全く食えないわけじゃないけど、次を食べようと酢豚に箸が向かない。料理を初めてから不味い料理を作ったのは久々だ。最近は美味しく作れていたし、挑戦料理にも成功することは多い。失敗だとは思っていたけど少し落ち込む。
無理して食べている優さんに申し訳なく思ってきた。
「優さん、無理して食わなくてもいいですよ?」
「?無理なんかしてないよ。美味しいよこれ」
「いやいや、作った自分で言うのはあれですけど、結構不味くないですか?」
「全然美味しいよ、なんならもっと食べたい位だよ」
嘘を…言っているようには見えないが……。
もしかして優さんて味覚音痴とかなのか?でも俺がオススメの期間限定職人直伝豚骨ラーメン美味しいて言ってたし、翔太も美味しいって言ってたから、あれは美味しいに決まってる。今まで感じていなかったが俺が味覚音痴説。なんてことは無い。
なら無理してるんだなやっぱり…。まぁ食べてくれるならこっちはそれでいいや。食材無駄にならないですむし、後片付けも楽だ。本人が美味しいって言ってる以上、俺が不味い、不味い言っても失礼になるかも知れないからな。酢豚は全て優さんに託そう。
「全部食べちゃって下さい」
「ホントかい?ありがとう。いただくよ。う~んやっぱり美味しいや」
数十分かけて優さんは酢豚一皿とご飯を二杯を食べ終え食卓の椅子にもたれ掛かって食休みしている。食器類を重ねまとめ持って行こうとした。
「置いといてくれれば俺がやるよ。酢豚ご馳走になったお礼」
「大丈夫ですよ、これくらい優さんは休んでて下さい」
「なんだか、悪いね」
「いえいえ」
重ねまとめた食器類をキッチンの流し台に持っていき洗っていく。結構ヌルヌルして洗うのに苦労したが取り敢えずはキレイになった。別に優さんに洗わせても良かったのだが、本当は不味くて無理して全部食べたのならさすがに申しわけない。
酢豚は今後練習してしっかりとしたトロミを出さなければならないな。酢豚はトロミがあってこそだからな。料理は嫌いではないから練習は苦ではない。カップラーメンが好きだから毎日カップラーメンでも良いのだが健康面を考えて料理をしている。
食器を食器置き場に置き放置する。
さっきまでお昼を食べていたリビングの食卓に優さんの姿はなく近くのソファでくつろいでいた。
人の家のソファに勝手に座るのは一般常識としてどうなんだ?昔の俺なら構わず座っていたかも知れないが、ここまで成長して一般常識くらいは理解しているつもりだ。まぁ俺は気にしないけど…。




