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少年の幸福  作者: 結ヰ織
【第2章】
27/31

第27話 少年の目覚め1

 目を開けるとそこにはいつのもように元気に笑顔な翔太がキッチンでおにぎりを作ってくれていた。昨日ご飯を炊いたっけかと不思議に思ったが翔太が起きていることが何より嬉しかった。俺が布団から起きずキッチンにいる翔太の方を見ていると、それに気が付いた翔太がおにぎりを握る手を止め俺の方に近づいてきた。


 「兄ちゃん、起きたのを今朝ごはんにおにぎり作ってるから顔洗ってきなよ」

 「うん、わかった。ありがとう」


 そう言って翔太は再びキッチンに向かい、その小さな手で熱々のご飯を手に乗せて一生懸命に丸くしていた。時々熱がったり、「塩かけ過ぎちゃった」って笑ってそのまま握ったりしているのを見て久々に微笑ましく思えた。目覚めてくれて本当に良かった。


 「兄ちゃんもう出来るよ。早く顔洗ってスッキリしてきなよ」 

 「ハハ、わかったよ」


 翔太に即されるがままリビングを出て脱衣所の洗面台で顔を洗った、だけど冷水で洗ってもスッキリしない。何度も何度も洗ってもスッキリすることはなかった。仕方なく洗面台にかけてあったタオルで顔を拭きとり拭いたタオルを洗濯機に入れた。そしてリビングに戻ろうとした時だった。


 皿が割れる音と何を倒れる音が聴こえた。


 聴こえたのがリビング、いや詳しく言うとキッチンから聴こえてきて焦った。急いで脱衣所をでてリビングの方に戻り戸を開けた。リビングに翔太の姿はなく、奥のキッチンに歩んでいく。食卓の上にあった作り終わったおにぎりとくくりかけのおにぎりが床に散乱していた。


 その近くに小さな両腕を前に置き、うつ伏せに倒れている翔太の姿を見つけた。何度呼びかけても反応がない。手首に手を置くと焦っていて冷静になれていないが脈が止まっているようだった。

 

 あの時の感覚が再びよみがえる。陽太が逝ってしまった時の……。


 呼吸がしづらい……。頭が真っ白になってくる……。絶望という言葉が頭から全身に回り心臓に達する。絶望が心臓に達すると生気がなくなり生きる気力がなくなる。


 今別に死のうと思ったわけじゃない。だけど目の前が段々暗くなっていく。呼吸も乏しくなってくる。心音も弱く、感じなくなってくる。

 人間は死のうと思えば死ねることがわかった。翔太を思い死ぬことに涙は出るが、別に死にたくないという気持ちじゃなく、一緒に逝けることが嬉しく思い嬉し泣きなのかもしれない。


 『さようなら、今度は翔太が幸せに生きて行けますように……』


_______________


 「ハッ!」

  

 目が覚めると朝日が掃き出し窓のカーテンの隙間から顔を照らした。何か幸せなのか、不幸なのか不思議な夢を観ていたような気がした。目元が濡れ、枕も濡れていた。横見ると翔太はまだ眠っていた。今日起きると何となく昨日思っていたが今日も起きては無く少し落胆した。でも変化があった。時々寝言を言っていた。おにぎりでも作っているのか、「熱い」「塩かけ過ぎちゃった」とか言っていた。


 翔太のおにぎりか……。久々に食べたいな……。


 翔太がまだ寝てることに落胆をもしたが寝言を言っていることに嬉しさも感じた。本当にもう少ししたら目覚めてくれるようなそんな前兆だ。そんな翔太の頭をそっと撫でて、俺は脱衣所に向かい、洗面台で顔を洗う。冷水でスッキリした顔をタオルで拭き使ったタオルと昨日の洗濯あまりを洗濯した。


 確か朝に優さんが来るはずだが、何時に来るんだろうか。まぁまだ、朝の七時位だしまだ来ないだろう。来る時間までに少し部屋の掃除でもしておくか。

音静かな掃除機でリビングとキッチンと俺の自室と翔太(陽太)の部屋と廊下に掃除機を掛け周り洗濯していたのもを外に干した。


 「まだ、来ないんかあ?」


 十時位になっても優さんは来なかった。何かトラブルにでも巻き込まれたのか、それとも何か来れない事情でもあるのか。少し優さんのことが怪しく思えてきた。連絡先を教えて貰ったが取り敢えず昼頃まで待つことにした。

 

 「仕方ない、とにかく昼頃までは待つか。来なければその時考える」


 そう言っていると玄関のインターホンが押され、家に甲高い音が鳴り響いた。玄関に映る身体の形が優さんのような感じで玄関を開けた。人別が間違う可能性のあるから人の姿が映るカメラ付きインターホンを付ける必要があるかもしれないな。


 「遅かったですね。どうしたんですか?」

 「一週間に一度しか買い物に行かないって聞いて、朝一で一週間分の食材買ってきたよ」

 「あ、ありがとうございます!助かります」

   

 こればっかりは本当に助かった。翔太を置いたまま出掛けることも出来ずに困っているところだった。優さんが買ってきた一週間分の材料を冷蔵庫に入れると一つの袋に目が向いた


 「優さん、これは?」

 

 そう尋ねると袋の中身をゆっくりと出した。


 「昨日、話した職人直伝超濃厚豚骨ラーメンだ」

 「おおおおお!」


 今目の前にある食べられなかった職人直伝超濃厚豚骨ラーメンがしかも三つもある!

 これはテンションを上げずにはいられなかった。早く食べたいという気持ちもあったが、これを食べる時は決めていた

 

 「ありがとうございます。これは翔太が目覚めた時に食べましょう」

 「そうだね、ということは翔太君はまだ……」

 「はい、でも今日寝言みたいのを言っていて、きっとそろそろ起きる前兆じゃないかと思うんです」

 「そうかもしれないね」


 きっと、そうきっと今日起きる。毎日そう信じるしかないんだ。いつかは起きる?いや今日起きる。そう信じないと気持ちが落ち込み本当に駄目になってしまう気がする。今日起きる、今日起きるんだ。


 優さんとそんな話をしていると優さんの携帯に電話が掛かってきた。電話先を見た優さんは少し嫌な顔をしていた。電話に出ながら優さんはリビングから外に出て廊下に出て話始めた。聞き耳を立てると相手は田所さんであることはわかるが、話の内容はよくわからないが、翔太の件ではなさそうだ。


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