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少年の幸福  作者: 結ヰ織
【第2章】
25/31

第25話 覚悟を受ける協力体制

 朝八時になっても翔太はまだ目覚めなかった。このまま本当に目覚めないのかも知れないと段々と心配になってくる。でも俺に出来る事はいつかは目覚めると信じて翔太の近くで待ってやる位の事しかできない。昨日、警察官二人が帰ってから人の声を聴いてなく少し寂しさを感じてきた。静寂したこのリビングに聴こえるのはソファで眠っている翔太の小さな寝息だけだった。


 翔太をソファから布団に移そうとも考えたが、もし翔太を動かして体調に異変が起きるかもしれないと思い、そのままソファで寝かしてる。でも思えばこの時、翔太の為には布団で寝かせてあげた方良かったような気もする……。


 それから何時間、何時間と時間が過ぎていった。しかし、それでも翔太が起きる気配もしなかった。不安と心配が段々大きくなっていった。それが焦りに繋がり、少し強引に翔太の身体を揺らしてしまった。


 「翔太、いい加減起きた方がいいんじゃないか」

 「ごめんなさい、ごめんなさい……。もう殴らないで……」


 その声が焦せっていた俺の頭を覚まさせた。悪夢にうなされ漏らした声に……。もちろん俺が殴ったわけではない。そして翔太が起きたわけでもなかった。只、眠ってる翔太の目から少しずつ涙が流れ始めていた。その涙とその漏れた声が翔太が見ている悪夢を物語っている。その涙を着ている服で拭ってやり、そっと頭を撫でてあげた。したら翔太の涙は止まり安らかに再び眠り始めた。


 翔太が起きるまではもう、そっとしてあげることにした。焦る気持ちはあるが再び翔太には辛い悪夢を見せるわけにはいかない。翔太が起きるまで何時間でも待ってや……る……。


 前のめりに倒れた……。


 身体に力が入らないのはもう何時間も前からだったが、そんなの翔太の為ならと力を限界まで引き出して耐えてきたが遂に限界が来てしまったようだ……。翔太の為にここで意識をなくすわけにはいかない……。


 翔太……。


_______________



 「翔太!」

 

 気が付いた時には掃き出し窓から光はなくなっていた。やはり意識を失い眠ってしまったようだ。しかし、何故か俺が眠っていたところは床ではなく布団の上だった。そして隣にはソファで眠っていた翔太も布団の上で眠っていた。俺が布団を敷き翔太を動かし寝かせた記憶はなかった。


 「どうやら気が付いたみたいだね」


 キッチン側にある食卓の方から聞こえた声に、限りなく少ない身体の力が一気に入った。声の方に居たのは昨日、田所さんと一緒にこの家に来た滝川という警察官だった。どうしてこの家にいるのか、いや鍵の閉め切ったこの家にどうやって入ったのかわからないが、この状況はどういうことだ。この人が俺と翔太を布団の上に寝かせたのか?


 「どうして、あなたが……?」

 「そうだな、俺は君の、いや君たちの味方になるって決めたからかな」

 「言ってる意味がわからないんですが」

 「まぁそう、警戒するな。これからじっくり全て説明してやるから……。」


 この人のことがわからない。どうして俺達を布団で寝かし俺が起きるまで待っていたのか。でも少なくとも俺達を捕まえに来たようには見えない。とにかく話を訊くことにした。少ない力を振りしぼり滝川という警察官待つ食卓に行き椅子に座る。正面に座る滝川という警察官の顔は前みたいに険しく切羽詰まった顔ではなく、どこか余裕のある顔だった。


 「まず、俺がこの事件に関与した経緯から話すよ……」


 滝川さんはこの翔太行方不明事件の背景に翔太の両親からの虐待があり、それから逃げ出し俺が保護したという事を知っていた。だから、別に俺のことを逮捕しないし、翔太を引き取るようなまねや、無理に連れ戻るようなことはしないという。それに俺に協力し、警察内部が得た情報が有り次第俺達にリークしてくれるらしい。ここまでの話を訊く限り滝川さんを信用できるような気もする。倒れていた俺と眠っている翔太を布団まで敷いて寝かせてくれたこともある。その気があればその時に翔太を連れ戻ることだって出来た。それをしないという事は少なくとも翔太を連れるという目的はないんだと思う。


 「話はわかりました。多分嘘は言っていないんだと思います。ですが、どうして警察の得た情報を俺達に流し俺に協力してくれるんですか?」

 「俺は過去、新人の時に一度だけ間に合わなかったことがあった。事件の被害者は死亡した。もう自分が関わった事件で誰かが傷ついたり、誰かを悲しませることはしたくないんだ。翔太君行方不明事件を知った時、忘れることの出来ない過去の事件が再び鮮明に深くから浮かびあがってきた。何か俺に伝えるかのように……。だから俺はこの事件に深入りした。翔太君の父親の電話を訊かなかったら俺は間違った方向に進んでいたかも知れない。だが、知ってしまった。偶然ではなく俺にこの事件を正しく導いてくれたんだ。過去の事件の偶像が。正しい道に導いてくれたからこそ俺はこの事件をそのまま正しい道に歩ませる。今の真人君と翔太君が一緒に居る道が正しい道なのかは俺にはわからないが、真人君感じる正しい道はこの道なんだろう。だから、真人君の感じる正しい道と俺が感じた正しい道を二つのレール状にして一緒に正しい道として行きたい」

 

 もしかしてこの人……。いやまさかな……。


 「わかりました。俺も滝川さんの正しい道と俺の正しい道、一緒に進んで行きたいです。よろしくお願いします」

 「良かった。熱く語ってしまったがこれから共に翔太君を助けよう」

 「はい」


 正直まだ完全に滝川さんを信用できたわけではない。だけど、今のこの状況で警察官が手の中に居るとなにかと都合が良いし、何かあれば人質として利用も出来る。何かない事を祈るが……。でも今は出来るだけこの滝川さんを信用していこうかなと思う。一人でいるよりかは気が楽になれそうだ。

 

_______________


 この人が陽太の事件の通報を最初に受けたのにもかかわらず間に合うことの出来なかった警察官であることを知るのはまだ先のことだった。

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