第24話 覚悟と決断の後に行動
『心の穴は自然に埋まる事はないし、穴は次第にお前を滅ぼす』
田所部長のこの言葉に俺の妥協な決断は揺らいだ。エゴを通し桐島真人と柳場翔太の二人の今の空間をに無理やり介入して自らの穴を埋める。穴を放置して自ら滅びの道を辿る。この場合は身近な人に迷惑が掛かるかも知れないが他人から距離を取り家に引き籠ったり、今回のように車の運転をしなければ少なくとも事故は無くなる。考える限りでは心の穴を放置し他人から距離を取るのが一番誰にも迷惑が掛からず自ら滅べばいいだけのことだ。
そうそれが一番良い選択であった。だけど本当にそれでいいのか。もう何もわからなくなってきてしまった。このまま勤務中に考えていても何も考えられない。パトロールと題して散歩に出掛けることにした。
「それじゃあパトロール行ってきます」
交番を出てどこに行こうというわけではなかったが、ゆっくりのんびりと考えられそうな場所はどこかなと思いあるお気に入りに場所に向かうことにした。この町にある二つの公園の一つの大きい方の公園に行くことにした。こっちの広い公園には夏休みの父親を連れた子供や子供達の遊び声が聞こえてきて考え事するには向かない場所に思えるが、俺はその声がうっとおしいく思ったりうるさいと思ったりしない。むしろ……。
公園内のベンチに座り空を見上げながら考え込む。
子供達の楽しく遊ぶ声、笑う声が沢山聴こえる。この声を聴いていると答えが自然に導かれるようなそんな気がしてくるんだ。前にもこの公園に来た時に〝行方不明になっている柳場翔太は虐待を受けず家出なんてしなければこうして友達と笑って楽しく遊べていたんだろう”と思ったことがあった。
「はぁわからねぇ……」
「何がわからないだよ、滝川」
考えに詰まり小さく漏らした言葉に反応してきたのは、ついさっきに俺の不注意で事故に巻き込みそうになった小学生である遊馬だった。遊馬は俺に話しかけて来る小学生の中で特に良く来て生意気にもタメ口で馴れ馴れしいが、毎回俺と話が合いゲームと漫画の話で盛り上がって嫌な気はしない。というかタメの友達とは最近話してなくこいつの事をタメの友達同然に接していた。
「あ?あれ遊馬じゃん。どうしたんだよ。さっきは悪かったな」
「まぁそれはお菓子を買ってくれれば許してあげるけど、それより何か悩みがあるの」
「まぁな、もし自分の気持ちを通してまでやりたいことがあるとしたら遊馬はどうする?」
「小学生の俺に何を訊いてるだよー」
「ハハ、確かにな……。今のは忘れてくれ……」
その通りだ。俺は同年代の友達のように接しているからと言って実際、遊馬は小学生だ。小学生相手に何を重い相談してるんだか。馬鹿か俺は……。それに遊馬に話したからと言って俺の考えが決まるわけでもない。
「俺はね、親にゲーム買ってもらいたい時は何と言われようと引き下がらないんだ。自分がやりたいゲームは全部やりたいし、後悔したくないから。滝川もやりたこと事をやった方がいいよ。自分の気持ちを通して誰かに迷惑が掛かるとしても自分の気持ちに正直に動いた方が後悔もないし、結果そっちの方がうまく行くこともあるかもしれないしね。でも滝川の気持ちはもう決まってるんじゃない?」
遊馬の言ってる事は小学生にしては的を射ていた。流石皆のリーダー的存在なだけはある。このまま自分のエゴを通さず桐島真人と柳場翔太のことから手を引いていたら多分後悔していただろう。だが遊馬に言われたから気が付けたというよりか、遊馬が言う通り気持ちは決まっていたのかも知れない。それをどこか奥底に沈め自分が行おうとしている事は本当に正しいのかと誰かに確認しようとしていたのかも知れない。それが遊馬とは思わなかったけど。
「そうだな、俺の気持ちは決まっていたみたいだ。流石遊馬だな、俺の気持ちもわかってしまうとは。お前は将来有望な人間になれると思うぞ」
「なんだよそれー、そうだ俺も相談あったんだ」
「なんだ?深刻な相談なのか?」
「うん……。実は……。三個目のバッジで詰んじゃったんだ。皆に置いてかれる前に助けて」
まったく深刻な相談というから少し気張っていたのだが、はぁ……。仕方ないな遊馬は……。でも遊馬らしいし遊馬なりの俺への気遣いなのかもな。
「仕方ないな、データ見せてみろ……。ふむふむ。はぁ?おいおい遊馬全然レベル上げてねぇだろ、それにもっと色々捕まえないと駄目だろ。後タイプ相性しっかり考えるべきだな。これじゃあ詰んで当然だよ。いいレベ上げの場所と発見道路教えてやるからしっかり聞いとけよ」
俺はさっき悩んでいたのが嘘のように気楽ないつもの気持ちで遊馬にゲームのレクチャアーを行った。一応今は警務でパトロールをしていなければならない時間であるのだが、公園のベンチに座って小学生と喋りながらゲームのレクチャーをしているのを他に警察官に見られたら何て言われるか。
しばらく遊馬とゲームの話で盛り上がっていたら夕方五時になっていた。町の帰りのチャイムも鳴り本来の警察官の仕事に戻る。
「そろそろ、家に帰る時間だな。じゃあ言ったことやれば絶対ゲーム進むから。今日は帰れよ、また何かあったら交番に遊びに来い」
「うん、またゲーム教えてねー、じゃあねぇー」
公園で遊馬と別れ帰る前に公園に残っている子供に帰るように促す。何人か残っている子供がいて夏休みということで中々帰らない子供もいて苦労したが警察官の仕事といて仕方なく帰らす。俺も子供の頃は友達と別れるのあ嫌で中々帰らず公園で遊んでた。
公園に子供が残っていないことを確認し交番に戻る。交番に戻ると田所部長が待ち構えていた。
「滝川、気持ちは決まったようだな」
「はい、俺このまま二人に協力します。その為にまず二人からの信頼を得たいと思います。それで相談なんですが、俺に二日の休暇をください。その二日で信頼を得たいと思います」
「二日か、まぁお前の当直にはまだ来ないからな、わかった二日間な」
「ありがとうございます」
「今日はもう帰っていいぞ、行くんだろ」
「はい、お疲れ様です」
桐島真人と柳場翔太からの信頼を得る為に早く二人の元に行きたいという先走る気持ちを抑えながら自宅アパートに向かった。警察官姿だと警戒されるし、道を歩いているだけで目立ってしまう。着替えた方が向こうからしたらそっちの方がいいだろう。車を駐車場に止め急いで制服から私服に着替えた。警戒を解くために家に置いてあった菓子を持って家を出た。滞在時間はほんの七分位。昨日行った限り車を停めるようなスペースはなく、路上駐車をするのも嫌だったから急ぎ足で行くことにした。
桐島真人の家の前に着き、高まる気持ちと緊張を落ち着かせ、インターホンを指で押す。
だが反応はなかった。警戒してるのか物音すら聴こえない。もう一度と押してみるがやはり中からの反応はない。もしかして家を捨てて逃げ出したのかとも思い、庭に回り掃き出し窓から中を見ようとしたがカーテンが閉まっていてよく中が見えなかった。それでも隙間から中の様子を見て行くとソファの方に手を伸ばし倒れている桐島真人の姿が見えた。
まさか、柳場孝造が何らかの形で情報を得て先を越されたのかも知れない。柳場翔太の姿の見えなく、焦る気持ちで一杯になった。焦る気持ちが一杯になったことで大胆な行動に出る事が出来た。庭にある少し大きめな石を手に取り、掃き出し窓の鍵近くのガラスを割る。あんまり大きく割れなかったが無理やり手を突っ込み鍵を開け中に入った。突っ込んだ手は少し傷付き血が出たが気にせず桐島真人の方に向かった。
意識はないようだが別に外傷があるわけじゃなく息もしている。一先ず安心した。桐島真人の手の向く先にもしっかり柳場翔太の姿もあった。
救急車を呼ぶわけにもいかず、辺りを見て布団が畳まれているのを見つけ、それをリビングに二つ並べ倒れていた桐島真人とソファの上で眠っている柳場翔太をそれぞれ寝かせた。
俺は鍵を開けるのに割った掃き出し窓のガラスを片付ける。箒がどこにあるのかわからず手で片付けるしかなく手を切りながら片付けた。少し切れただけで大した事はなかったがリビングに置いてあった明らかな救急箱を見つけ消毒と絆創膏貼る。
二人がいつ起きて来るのかわからないが、家の鍵の近くの窓を割ってしまった以上この場所を離れるわけにはいかなず、柳場翔太が眠っていたソファに座り待たせてもらうことにした。




