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少年の幸福  作者: 結ヰ織
【第2章】
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第23話 訪問した後

 行方不明になっている少年、柳場翔太がいると思わえる桐島真人の家への訪問を終え桐島宅の前、俺と田所部長は一言も喋ることなくお互いの家の方へ別れた。田所部長は足早に帰って行ったが俺は桐島真人の家を眺めて重くなった足を強引に動かすように、自宅のアパートに歩いて帰る。歩きながら過去の悲劇な事件が何度もフラッシュバックする。


 か弱い少年から流れる赤黒い血、救急隊に運ばれるその小さなか弱い少年、その少年の兄貴の悲痛な泣き叫ぶ声が遠くから聞こえてくるような感覚がする。重く強引に動かしていた足が止まり酷く身体が震える。最近は多少思い出すことはあっても身体は震えなかった。桐島真人の話を訊いた時からこの頭の中にある記憶が鮮明化されていくようだった。今はこれ以上は思い出したくないと記憶にストップを掛けるが止まることなく頭で何度も記憶の再生をしてしまう。


 止まった足を畳むように地面に座る。頭の再生がいつ終わるのかわからないが、このまま歩くことは出来そうになかった。再生が何度も行われる度に頭が段々と痛みだしていった。どっかの家の外壁を背もたれとし体育座りとなって顔をうずめた。外壁だからそこの家の家主には気づかれないとは思うが誰かに見られ変に思われる前に早く家に帰りたい……。


 頭の悲痛な記憶再生は大体一時間位で止まった。再び再生が始まる前に家にさっさと家に帰ることにした。重かった足が少し軽くなっていて、身体の震えも無くなり、頭の痛みも和らいでいた。途中の自販機で水を買って一気に飲みゴミ箱に捨て、もう少しで着くアパートに向かう。アパートに着いてからは着替えないまま只座って考えていた。再び再生されないようにゆっくりと思考を巡らした。


 桐島真人自身も俺と同じであの事件に罪の意識を抱いていた。その罪の意識から、この柳場翔太の問題を解決したいという気持ちが現れたのも俺とほぼ同じだった。しかし、本来その罪の意識は俺が一番感じなければならない。桐島真人が感じている罪以上にその時の罪は俺の方が大きいはずだった。だから本来、今桐島真人が陥ってるその立場は俺の立場であるはずだったんだ。でも現まで桐島真人が罪滅ぼしに柳場翔太を守り続けている。


 俺は形は違えどまた間に合わなかった。


 ここで諦めてこのまま二人の人生を見送ることにしよう。今は俺等警察官の介入を二人は望んでない。俺の罪滅ぼしはこれ以上二人に干渉しないことだ。今日の桐島真人の覚悟を見れば俺等の介入できる枠を超えている。それに警察を信用することを多分桐島真人は出来ないだろう。もう二人を邪魔することはしない。二人には自由に幸せ暮してもらおう……。


 本当にこれで良いのかは今の俺にはわからなかった。だが俺の心に穴がより深く空いたようなそんな感じを少し感じていた。だが気にせず風呂場でシャワーを浴び、夕飯にカップラーメンを食べ、眠った……。


 目が覚めたのは勤務開始十分前だった。急いで着替えてもどうしても間に合わない時間で取り敢えず田所部長の連絡を入れることにした。


 「すいません、今日少し遅れます……。寝坊しました……」

 「まぁ、それはいいが……。昨日のことは大丈夫か?」

 「え、えぇ、その事はそっちに行った時に話します」

 「わかった、あんまり遅れるなよ」


 俺が柳場翔太のことを諦め桐島真人に任せると言ったら田所部長はなんと言うだろうか。別に怒られることなんてないだろ。俺が只、罪滅ぼしの為にやろうとしていただけの事だ。諦めるのも俺の自由だし、本来の警察の仕事の誘拐犯となった桐島真人の逮捕は絶対にしない。それだけでも俺の償いは終わったとも言える……。なわけはない……か。


 心の穴の存在を奥底に感じながら遅刻確定な時間に家を出て、流石に今日は自家用車で交番に向かった。日頃は安全運転に気を配り運転していたが、この日の頭には安全という言葉と気配りという言葉が欠如していた。俺のアパートから交番までは大体直線ではあるが、この道は小学生の通学路でもあった。しかし、今の時期は小学生は夏休みで登校している小学生は誰もいなかった。


 だが、俺がその道を時間的安心と別に意識が向いていて、気配りなく走っていると横から小学生が走り出て来た。いつもなら飛び出しを考慮して運転していたから危なくなることなんて無かった。しかし、今日はその考慮をしていなかった。小学生に気が付いて急ぎ急ブレーキを踏み危うい所で車は止まった。その小学生は驚きはしたが……。


 「ビックリしたぁ……。なんだ、滝川じゃん。あぶねぇだろー。警察なんだからもっと安全運転しろよなぁ」

 「すまん、すまん」

 「今度お菓子奢りで許してやるよー。やべ遅刻だ!約束だからなー!」

 「おう今度な……」


 その小学生はよく俺にゲームを教わりに来たり来る遊馬(ゆうま)という子供だった。俺と仲良くしてくれる子をもう少しで轢くところだった。大事に至らなかったことに安堵し心新たに運転を再開した。心新たにしても本来の安全運転ようにはいかなかったが事故なく交番に着いた。


 「すいません、遅れました……」

 「おう、早く勤務に就けよ」

 「はい」


 田所部長は居らずそこに居た先輩警察官から特にお咎めなく昼休憩に入るまで交番内で書類整理と確認を行っていた。 昼休憩になり俺が持ってきた菓子パンを食べようとした時、奥の休憩室から田所部長に呼ばれる声が聞こえてきた。昨日は二人何も話さず家に帰り電話でならまだしも直接話すのは何か気まずいに似た感覚がある。


 「なんですか?」

 「なんですかって、〝お前が電話でそっちに行ったら話します”って言ったんだろ」

 「あ、そうでした」

 「それで話したいというのは?」

 「えっと、俺もうこの件から手を退こうと思います。もう俺が介入できる隙は無いし、あの二人もそれを望んでないんです。俺はまた間に合わなかったんです」

 「お前がそれでいいなら、俺は止めない。だがそれが心の本心からの言葉ならな。これだけは行っとくぞ、心の穴は自然に埋まる事はないし、穴は次第にお前を滅ぼす」


 そう言い残し田所部長は休憩室を出て行った。


 身を滅ぼすか……。確かにそうだ、さっきだって知り合いの小学生の遊馬を轢く寸前だったんだ。だからと言って俺の穴を埋める為にあの二人の幸せな空間を邪魔しするのはそれこそ俺のエゴだ。でも俺の穴は自然には埋まらない。穴は放置してると身を滅ぼす。


 エゴを通すか破滅するか……。


 どちらを選択すればいいのか、わからない。

 

 

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