第21話 訪問者2
予期はしていた最も出会いたくない二人の登場に翔太の鼓動は急激に高鳴り翔太の身体に大きな負荷を与え酷い嘔吐感で襲っていた。頭がくらつき視界歪み目が回りだす。なんとか意識を保ち〝今後も兄ちゃんと一緒に生きて行きたい”と心で何度も思いながら耐えようとする。
『僕がここで倒れると兄ちゃんにも迷惑が掛かっちゃう』
だが翔太が耐えようとすればするほど、その体調悪化していき呼吸が浅くなり気分がどんどん悪くなっていった。それから血の気がひき身体の体温が零にでもなったかのように冷たい感覚になり立っているのが辛くなっていた。それでも倒れまいと我慢をしてきたのだが一気に意識が薄れるというよりも何か眠くなっていくようなそんな感覚が襲い眠るかのように倒れた。
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突如倒れた翔太に一気に血の気がひき倒れた翔太に近づき様子を窺ってみたが、特に苦しんでいる様子はなく、どちらかと言うと寝息を溢すように倒れていた。一旦は一安心したがこの状況で倒れたということに変わりはなく心配になる。予期していた最悪な二人もこの状況に戸惑いを隠せないでいる。一先ずこの状況をもし近隣の住人や帰り際のサラリーマン等の人に見られるわけにはいかない。ならいっそこの状況を利用して帰ってもらうしかない。
「あの今日は帰って貰っていいですか。こいつ最近体調悪いみたいで休ませてあげたいんで」
「そうだね、滝川また日を改めた方がいい」
「いや、駄目です。今の現状が確かにそういうことをしているという場合ではないのはわかりますが、ですがこうして顔を完全に合わせてしまったことで、この青年が逃げないという確証もありません。そうなってしまえばもう事情を訊くことは出来ないでしょう。だから日を改めることなんて出来ません」
「ということだ真人君、その子の体調も気になるがこっちもそれなりの覚悟でここに来てるんだ。話を訊くまでは帰れないよ」
この状況を見ても帰らなこの人たちの人間性を疑う。しかしこの二人の、特にこの間公園で出会ったどこか見覚えのある滝川という警察官の覚悟は本物のようだった。いくらこっちが帰ってくれと言っても頑なに断るだろう。翔太をこのまま地面に寝かせておくのも衛生的に人として兄ちゃんとして駄目だ。もしこのまま翔太の兄ちゃんとしての人生が終わろうとも、翔太をもっと清潔な布団の上で早く休ませてあげたい。それにここで話合い感情に任せて騒ぎ立てて近隣に聞かれるのも困る。このまま捕まってしまえばそんなこと考える必要はないか。
倒れた翔太の身体を横抱き(お姫様抱っこ)する。
「わかりました、それじゃあここでは何なのでどうぞ中に入ってください。鍵は俺のパーカーのポケットに入ってます。すいませんが開けて貰っていいですか」
返答はなかったが滝川という警察官が俺のポケットを探り少し強引目に取り出した。その警察官は鍵を解錠し俺と抱えた翔太が入れるようにドアもしっかり開けてくれた。俺が中に入った後に二人の警察官は入り滝川という警察官は持っていたこの家の鍵を玄関中右手にある靴箱の上に置いた。取り敢えず翔太を休ませる為にリビングにあるソファに寝かせた。
翔太と最初に出会った日のことをふと思い出した。あの日も急に倒れた翔太を連れ帰りこうしてソファに寝かしたんだ。そんなに昔のことではないが何だか懐かしく感じてしまう。そんなことを考えてると、もうこの生活が終わってしまうということに泣きそうになってしまう。いやこの二人を何とかすればまだこの生活は続く。翔太を父親の所に連れ戻させはしない。絶対にだ。
そういう覚悟はしておいた方がいい。土壇場でそれが行えるように……。
それにさっきからこの滝川という警察官俺から一切目を逸らさない。睨み付けているとも取れる位に凝視していて正直怖い。いつ一触即発になるかもわからない位緊迫した空間だ。二人をリビングにある食卓を並べる為の机前の椅子に座らせ二人の正面となる対面で席に座る。正面には俺をいつまでも凝視する滝川という警察官がいる。
「真人君は滝川のこと見たことはあるけど詳しくは知らないよな。滝川優だ。一応五年目でベテランだ」
「滝川です。君には言うことがあ……」
「滝川、今それを言う時じゃない。それにあれはお前のせいじゃない」
この滝川という警察官が何を言おうとしたのか特に興味はなかった。田所さんの言う〝お前のせいじゃない”というのもよくわからない。それにそんなことに気にしても仕方がない。今の状況をどうにかしなければならない。それ以外今は考える必要もない。
「それで今日来られたのは俺を誘拐の容疑で逮捕と翔太を父親の命令で連れ戻しに来たってことで良いですか?」
「片方は正しい俺は君を場合によっては逮捕しなければならない。行方不明になっている柳場翔太の父親の命令で連れ戻しに来たという事に関してはまだ教えられない」
この滝川という警察官は何を言っているんだ。翔太の父親の命令でなければどうしてここに来たんだ。まったく訳が分からない。だが俺を逮捕しに来たことには変わりないようだ。なら仕方ないもう、こうするしかない。次第に俺の呼吸が荒くなっていく。
「落ち着くんだ。真人君、とにかく君が柳場翔太少年を誘拐するに至った経緯を話てくれないか。事を起こすのはその後でもいいはずだ」
話をしてこの状況がどう変わるわけでもないと思うが、いや少なくとも翔太の事情を話しても俺の逮捕は覆ることはないと思うが翔太があの父親にわたることはないんじゃないか。この滝川という警察官はともかく田所さんは信用できる人だ。翔太の事情を知れば動いてくれると思う。でも本当にそれでいいのだろうか。それが翔太の幸せと言えるのだろうか。翔太は俺といるだけで幸せだと言ってくれた。俺だって翔太がいることが何よりも幸せなことだ。もし俺が捕まり父親の元には行かなくとも施設に容れられ堅苦しく狭い世界で生きて行くことになる。
いや確かに俺と居ても狭い世界で生きて行くことになるが、施設の人間は翔太のことを一番に考える事が出来ない。多くいる翔太と似た境遇にある子供達複数にを平等に扱うことになる。それが普通だ。だが俺はたった一人、翔太のことを思ってやれる。翔太の為に全てを懸けることが出来る。
「俺が経緯を話すことで逮捕を見送ってくれるのなら話します」
「悪いが真人君それは保証できないよ。君は未成年者を誘拐したんだ。法的処置で裁かれる人間なんだ」
田所さんが正義感が強いのはわかる。どんな小さな犯罪でもこの町では田所さんの手によって暴かれ裁かれる。町でも有名になっている位だ。田所さんは正義感にあふれた人だって。それでも可能性はあるかと思って訊いてみたがやはり駄目だった。ならもう仕方がない。
「わかりました。事情を聞いて事によれば俺等は今日は帰る」
なんなんだ、この滝川って警察官。訳が分からない。事によるという事は真っ当な理由であれば取り敢えず逮捕は免れることが出来る。話してみる価値はあるか……。
結果、話すことによって俺の逮捕が免れ、この二人の警察官が翔太の虐待を世間に流し警察のトップである翔太の父親が逮捕される。そう言う結果になるなら……。
決めた……。話してもまだ俺を逮捕するというのなら殺すしかない。




