第19話 翔太の異常な事態
さっき寝たばかりかと思ったが太陽の位置はもう真上に来ていた。エアコンを点けてなかったら熱中症になってしまいそうなほど部屋の内部は暑く、隣でまだ眠っている翔太の為にエアコンの温度を下げる。室内は涼しくなったが、さっきまでの暑さで汗ばんで気持ちの悪い身体を何とかしようと脱衣所に向かう。今寝間着として着ていた服を洗濯機に容れ風呂に入った。俺は夏場で暑いからと言っても浴槽には絶対入る。少し温めに温度設定はするが、毎日浴槽に入らないとスッキリしない。他の人はどうかは知らないが俺は浴槽に浸からないなんてありえないと思っている。
頭と身体を洗いながら風呂が沸くのを待つ。ぬるま湯に設定したことでいつもよりも早く風呂が沸いた。浴槽に浸かりながら物思いにふけるが色々切羽詰まった現在の状況で悩みしか生まれない。今は風呂にゆっくり浸かり頭をスッキリさせることにし思考を一旦ストップさせた。ぬる温かい湯が身を包み次第に首から上まで浸かった。数秒か数分か苦しいとも思わない位の時間を全身で湯を感じた。
「ぷわぁー!そろそろ翔太も起きる頃だろ……。上がるとするか」
風呂に浸かった身体を再びシャワーで軽く流し脱衣所へと向かう。部屋着に着替え翔太の寝ているリビングに戻る。戻ると翔太はまだ少しの小さな寝息を出しながら眠っている。今後もしこの家を捨て逃げる事となったらと考えると、そのまま無理に起こさず寝かしておいたほうがいいと思った。取り敢えず翔太がいつ起きるかがわからないから昼飯として簡単におにぎりでも握っておこうと思ったが、ご飯を炊くのを忘れていた。諦めて翔太が起きたら一緒にカップラーメンを食べることにした。
翔太が寝ている内に家の家事事を行う。風呂入る前に洗濯した寝る時に着ていた寝間着を洗濯機から取り出し庭先の物干しの場所に干す。今日も暑いからよく乾きそうだ。リビングから外に出る掃き出し窓から外に出る。掃き出し窓側に翔太寝ていて起こさないように静かに歩き外に出た。庭先は塀で覆われていて中の様子は見えないようになっている。しかし、それは中からも同じで外の様子は見れない。昨日追いかけてきた警察官が見張っているかも知れない。警戒しながら洗濯物を干す。
外は内部よりもずっと暑く、折角スッキリした身体に再び汗が出てきそうだ。その前に洗濯物を干し部屋の中に戻った。掃き出し窓を閉め外気の熱い気温をシャットアウトした。内気のエアコンの効いた涼しい空間で、かきそうになっていた汗が退いた。
ある程度の家事事を終わらせて二時過ぎ、翔太は未だに起きていない。もしかして意識不明な状態に追い込まれているのかと思い近づいてみたが、また犬みたいに少し丸まった格好で少しの綺麗な寝息で落ち着くように眠っている。家事事も終わらせてすることも無くなり、テレビを観る。翔太を起こさまいと音量を小さめにしようとも思ったが、もう二時過ぎということで自ら起きてもらう為に音量はそのままでテレビを観る。
「この時間じゃあニュース番組しかないか。それにしても翔太のニュース一切観なくなったな。良いことなんだけど、これだと警察の掴んでいる情報がどこまでなのかわからないな」
最近翔太のニュースが流れなくなって別の犯罪が目立ち始めてきた。相変わらずニュースコメンテーターの意味のないコメントが不快に感じる。確かに犯罪をする犯人が悪いのではあるが、犯人にそうさせた原因が何かあるはずなのに犯人を否定したりと重大なことは放送しない。情報規制があってしかたないとも思うがそれにしてもだと思う。
くだらないニュース番組からチャンネルを変えて行くと、今でも放映されている刑事ドラマのかなり昔の話数が放映されているのを見つけた。刑事ドラマは好きで良く見るが、俺が観始める前の話数が流れるのは嬉しい。いつも観れるかわからないから録画しておくことにした。ドラマの再放送が終わるとまた違う好きな刑事ドラマの再放送が放映されテンションが上がった。
それからもう一本のドラマを観終えた時にはもう五時になっていた。好きなドラマで集中して観ていたら時間の経過を感じなかった。いい加減起きてこない翔太を起こすことにした。よくもそんな長時間寝てられるなと呆れ半分凄い半分な気持ちで翔太の丸まった身体を揺らす。
「翔太そろそろ起きる時間だぞ。いい加減起きろー」
翔太は少し唸るだけで反応は鈍い。こんな翔太は寝るタイプの人間だっただろうか。ちょっと前までは俺より早く起きるし、寝起きも良かった気がするが何が原因でこうなったのか。それともいつも無理してたのか、どっちにしても翔太のこの状態は以上に感じる。今後は翔太の体調に気を付けておこう。取り敢えず少し強引にでも起こす。
「起きろ!」
「ふぁー、おはよう兄ちゃん……」
「おはようじゃないぞ。もう五時だぞ。まぁそれより体調に異常はないか?」
「え、特には大丈夫そうだけど……。ふぁぁーまだ少し眠い」
「おいおい、まだ眠いのかよ。だがもう五時だそろそろ起きろよ。取り敢えず風呂沸かし直しとくから寝間着洗濯機に容れて風呂に入ってこいよ」
「うん、わかった」
俺は風呂の沸かし直しに先んじて風呂場に向かい沸かす。翔太が着る部屋着とバスタオルを用意し翔太が来るの待つ。しばらく待っているが翔太はなかなか来ない。待っているとリビングから何かがぶつかるような音が聴こえてきた。音の鳴ったリビングの方に向かいドアをスライドし中を見ると、おでこを痛そうに押さえる翔太の姿があった。どうやら誤ってドアに激突してしまったようだ。
「うぅー痛いよぉー」
「大丈夫かよ……。気を付けろよ」
また翔太がぶつからないようにドアを開きっぱなしにしとき翔太が無事に脱衣所に行くのを見守る。少しふらついていたが何とか脱衣所に着いたようだ。翔太が風呂に入ったのを確認して翔太が洗濯機に容れた寝間着を洗濯する。浴槽で翔太が寝てしまわないかが少し心配ではあるが流石に大丈夫だろうと思い、時間も時間ということで昼飯のカップラーメンは諦め夕飯の下準備に取り掛かった。
夏の日と言ったらこれっと言うわけではないが冷やし中華を作ろうと思う。本格的に料理に取り掛かるのは六時半頃だろうが今は材料のを切っておくことにした。あらかたの冷やし中華に乗せる食材は切り終わり六時になった頃、風呂に入っている翔太の様子が気になり見に行く。風呂場の扉を開くとそこには浴槽にゆっくり浸かる翔太の姿があった。流石風呂好きとなった翔太だな、風呂場で寝るようなことはしないなと安心し静かに風呂の扉を閉める。
丁度俺が脱衣所から出た頃に浴槽から翔太が出てくる水しぶきの音が聴こえてきた。俺はキッチンに戻り、少し早いが本格的に調理をやりに戻る。調理をしていると翔太がリビングの方に戻ってきた。軽く乾かしたのか少し髪の濡れた姿だった。
「まだ髪濡れてるぞ。ちゃんと乾かしてこいよ」
「うーん、めんどくさいよ」
「仕方ないな、ちょっとリビングで待ってろ」
俺は沸騰させていた鍋の火を止め脱衣所に向かう。脱衣所に置いてあるドライヤーを持ちリビングに戻った。リビングで座る翔太の後ろに座り、ドライヤーを面倒くさがる翔太の代わりに髪を乾かす。俺も実際ドライヤーを駆けるのは面倒なタイプだったが夏風邪を引かれてもと思い翔太の髪を乾かした。元々少しは乾いていたからほんの仕上げ程度で乾かした。髪を乾かしているのと翔太の髪が切った時に比べもう伸びていることに気が付いた。
「翔太、髪伸びるの早いよな」
「そうかな」
「これはまた切らないとだな」
「今度はあんまり短くしないで欲しい……。かな」
「そうだな、考えとくよ」
俺が切った髪型はあんまり気に行ってなかったのかと少し落ち込んだ。次はどんな髪型にするかと考えもした。いっその事茶色の髪を黒く染めさせてもらおうかとも思うけどそれは悩みどころでもある。
「よし、これでオッケーだな。そろそろ飯だから机拭いといてくれ」
「うん」
キッチンに戻り鍋を再び沸騰させた。下準備の甲斐あり三十分足らずで冷やし中華を完成させた。食べる終える頃には六時半位でいつもより少し早い時間だった。いつもより早く夕飯を済ませたのは昼飯を食べておらずお腹が減っていたこと以外にもう一つあった。それは昨日の話をしておきたかった。
「翔太は昨日警察官に見られたことあんまり気にしてないんだな」
「そうでもないよ。いつ父親が来るかもわからない今の状況が怖いけど、兄ちゃんが守ってくれるって信じてるから。それに僕も……」
「なんだ?」
「ううん、何でもない」
翔太が何かを言おうとしたことには気が付いたが今は詳しくは聞かないことにした。俺の頭には翔太を守るということの一つだけあればいいのだから。
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それに僕も兄ちゃんを守り一緒に生きて行きたいから。




