第18話 決断
こじんまりしたアパートの窓から昼過ぎる熱い日が照らしこんでくる。その熱い日光を目に当てられ目が覚めた。当直終わりが八時三十分で家に帰ったのが約九時頃だったはずだ。そこからすぐに寝てしまい、気が付けば現在一時過ぎとなっている。昨日今日の当直の仕事疲れはなくなり、今日すべきことはしっかりと出来そうだ。昨日今日の当直で遭った出来事を田所部長と相談しなければならない。予想がなことに自分の頭だけでは思考を巡らせたりない。田所部長はベテランだし、田所部長もあの青年のことを知ってるし相談しない理由はない。
すぐにでも相談して今後の方針を決めたいところなのだが、当直から帰ってきてからご飯も食べてないし、それにこの夏場で警察官の制服を着ていて汗だくのまま寝てしまい、少し汗臭く感じた。風呂にも入らなければならない。汗だくのまま寝てしまったということは布団にも汗の臭いがしみ込んでしまいカバーの洗濯する必要があった。やることをしっかりとやらないと相談に交番に行くことが出来ない。取り敢えず布団カバーを外し洗濯機の中に容れる。次の洗濯用カゴに寝間着として来ている半袖と半ズボンの脱ぎ入れ風呂に入る。入ると言っても夏場は基本的にシャワーだけで終わらせる。これが普通だと思っているのだが他の人はどうなんだろうか。頭と身体を洗い終わり風呂場から出る。
スッキリとした身体と綺麗になった髪を少々乱暴にタオルで拭き、後にドライヤーを掛け出掛ける為の髪をセットする。いつもは警察官用の帽子を被り仕事に行っていたから適当でも良かったが今日はそうではない。しっかりと整える。整え終えそろそろ出掛けようと思ったのだが、当直終わりに何も食べてなく腹の音が部屋の中で鳴り響く。キッチンスペースに行き冷蔵庫をあさるが特に中には何もなく貧し冷蔵庫だった。前までは休日買い物にも行っていたのだが、最近は休日は他の街に言って行方不明になっている柳場翔太の捜索を行っていて買い物行っていない。生活スタイルが狂ってしまった。カップラーメンなんてあんまり食べて無かったが最近は良く食べてしまう。次の健康診断の結果が気になるな。
最近コンビニで見つけた職人直伝超濃厚豚骨ラーメンを食べる。限定版らしくコンビニにあるのを大人買いし、家に多くの在庫がある。限定商品だけあって凄く美味い。あの時に大人買いして良かったと今でも思う。空になった空きカップを捨て、愛用しているショルダーバッグを持ち玄関で靴を履きいよいよ外に出ようとした時脱衣所の方からアラームが鳴り出した。そういえば風呂前に布団カバーを洗濯機に容れたのを思い出した。折角靴まで履いて玄関まで出たのにと思いながらも仕方なく履いてた靴を脱ぎ脱衣所の洗濯機から布団カバーを取り出し次の寝間着としえ着ていた半袖半ズボンを洗濯機に容れ、布団カバーをベランダに干す。
「はぁ、これでようやく出掛けられる。時間かかり過ぎた」
再び玄関に行き、また何か用事が出てくる前に急ぎ玄関を出た。確かに急いでいたのだが、なんとなく今日は歩きで勤務先である交番まで行くことにした。毎日の運動は欠かさずに行ってはいるが、最近は食生活が狂ってきていることでか、すぐに疲れるようなってきてしまい、しばらくは交番までの距離は車ではなく歩きで行くことにした。
いつもなら車で何事もなく交番まで一直線で行っていたがこうして歩いて行くと色々な発見がある。道路に空いてる人が転びそうな穴や、小学生の通る通学路にあるフェンスが破れフェンスの鉄糸がむき出しに尖っている場所と役場に通達して直してもらう必要がありそうだ。
「おや滝川さん、この前はありがとうね。これ持ってって食べな」
「あ、滝川だ、この前教えてくれたゲームがまた詰んじゃったからまた教えてね」
「ワン、ワン」
俺ももうこの町じゃ知らない人はいないんじゃないかと思うほどに話しかけてもらえるようになった。しかし、いつも以上に話しかけられるな。歩きで行くとこうやって良く話しかけてくれる。こういうのは悪くない気分だ。
交番に着くまでに十人もの老若男女に話しかけられた。交番の中に入り田所部長を探す。だが交番内には田所部長の姿はなく、どうやらパトロールに出てしまったよいうだった。仕方なく交番内の自分のデスクに座り田所部長が帰ってくるのを待つ。本当は私服で休暇中に交番の、しかもに居るのは良くないのだがまぁ別にいいだろうと田所部長を待つ。
この交番には四人の警察官が派遣されており基本体制三人で二人は一般業務でもう一人は一般業務に夜中の当直勤務で一人は必ず休みとなる。その休みの人は前日は当直の当番であることが基本とされている。最初に俺が来た時は田所部長と先輩が一人派遣されていて三人で勤務していた。そして数年後に後輩が一人入ってきて、そのままメンバーの変動はなく四人でこの交番の勤務を行っている。
「それにしても、俺が休暇の日に限って暇そうでいいなぁ。いつのもこの時間なら、近所の老人が喋りに来たり、近所の子供がゲームを教わりに来たりしてるんだけどな。皆俺が休暇だから来ないとかだったら少し嬉しいんだけどな」
「おい、何が嬉しいんだ?滝川」
「田所部長待ってましたよ。こんなに長時間どこパトロールしてたんですか」
「どこっていつの通りのとこだが、そんなことより当直の報告書見たぞ。何暴行犯の男三人組を逃がしてんだ。しかも被害者も見失ったようじゃないか。まったく何してんだ」
「そのことと関連してってわけじゃないんですけど〝行方不明になっている柳場翔太”のことでわかったことがあるので少し時間いいですか?」
そう周りの警察官に聴こえないように少し小声に田所部長に伝え奥にある休憩室に一緒に行く。そこで昨日遭ったことについて鮮明に伝えた。
最初に交番に来た一本の通報からことが始まり、駆け付けた先にいた三人から暴行を受ける一人の青年とその後に茂みから出て来た一人の少年の存在。その青年が過去の事件の被害者の兄貴であること。そして重大なその連れて逃げて行った少年が行方不明になっている柳場翔太である可能性が高く、今後どうするべきなのかということ。
「なるほど、やはり真人君は黒だったか」
「田所部長もわかってたんですか?」
「まぁな、この前偶然出会ってな。その後久々に話したくて家に行った時におかしな点が幾つかあったが、確証はなかったんだがな。俺の勘もまだまだ衰えてないな。ハハハ」
田所部長も心当たりがあるのならもう間違いないな。でもその時に教えてくれても良かったのに……。
「何不満そうな顔してんだ?〝あれか何で教えてくれなかったんだ”とか思ってんだな。俺がその時に教えたら、お前は先走ってその家を訪問しただろ」
「確かにそうですけど……」
「真人君のことは、そんなにではないが知ってるつもりだ。彼は少し精神的に狂ってるというか弱い部分がある。下手に手を打って自殺されたり、取り返しのつかないことになる可能性があるだろ。そこは飲んでくれ」
「そうですね、わかりました」
田所部長は本当に凄い人だと思う。俺は桐島真人と行方不明になっている柳場翔太の精神的な面を考えてはいなかった。急ぐことばかりで滅茶苦茶に動いていた。
「だが、後のことはお前に任せる。お前が行きたいなら今日の夜にでも行くし、もう少し調べたいというのならもう少し待とう。この交番でこの事件の担当はお前だ。お前の指示に従おう」
「俺が担当……」
やはり田所部長の言う通り桐島真人の精神面を考慮してじっくり慎重にやるべきなのだろうか。いや、確かにその方がいいのかも知れない、だが今行かないと青年の顔と少年の姿を俺に見られてしまったんだ。もしかするとこの町から逃げられる可能性もある。遂に得た手がかりをまた見失うわけにはいかない。こうしてる内にも逃げる計画、また既にもうこの町にいないかも知れない。ならすぐにでも行くべきだろう。たとえ行くことで取り返しのつかないことになろうとも。俺は俺のやり方でこれを解決しなければならない。
「行きましょう。今日の夜」
「わかった、なら色々と準備しとけよ。十九時にこの交番に来てくれ」
「わかりました」