第15話 面倒なこと
明けましておめでとうございます。
今日は前回の夜間の散歩に比べるとやけに人が多かった。特に夜遊びをする未成年、成年者が多く見られた。コンビニの前、空き地に駐車場などに特にたむろしていた。関わり会わない様に避けるようにして散歩のルートを選び歩いて行く。この夜間の時間に裏路地に入るのも危険で歩く場所が限られ、家に戻るのもルートが限られ時間が掛かりそうだ。
その限られたルートを通り散歩を行っていると、もう何年も来ていなかった、昔陽太が小学校に上がりたての頃に一緒に遊んでいた小さい公園に通り掛かった。この田舎町には田舎には似合わない位の、池だったり川の流れる森林に隣した広い公園とこの小さい公園が二つある。陽太は広い方の公園には行かずに小さいこの公園に遊びに行っていた。
俺がその時に何故広い公園に行かないのかと尋ねたことがあったけど、陽太が何て答えたかは今は忘れてしまった。多分大した理由ではないと思う。きっとあっちは広いけど人が多いとかだろう。そんな感じに久々に来た公園を眺め懐かしんでいた。
「兄ちゃん、誰もいなそうだからこの公園で休んでこうよ」
「そうだな、少しだけ休んでいくか」
「やった。僕公園とか来るの初めてだから嬉しい」
「そうなのか……。」
翔太の親は一体いつまで翔太のことを愛することをしていたんだ。産まれて何年か経てば必然的に公園で遊ばせる位のことはするはずだ。俺だって、陽太だって公園には産まれて何年かしたらよく公園には遊びに連れて行ってもらった。誰しも親なら当然のことだと思う。だが翔太の親はそんな親なら当然のするべきことすらも翔太にしてやることを出来てない。
せめて俺が翔太の兄ちゃんとして、しっかり翔太を愛し守っていかなければならない。親から貰うことの出来なかった愛情を俺がその分与える。溢れんばかりの愛情を……。
「翔太ブランコとか乗るか?」
「いいの?人がいないって言っても音で誰か来るかも知れないよ?」
「少しなら大丈夫だって。俺が押してやるから」
翔太を半ば強引目にブランコに乗せ俺が後ろか押してやった。半ば強引で楽しめてないかもと心配のしたが、次第に翔太の笑う声が聞こえてきて良かった。このブランコで誰かの背中を押すという感覚が懐かしく、再び思い出に浸ってしまった。翔太がブランコを止めてほしそうで俺は押すのを止め止め方を翔太に教えた。二列に並んだブランコの片方に座り流石にこの歳でブランコに揺られるのも恥ずかしく只座った。
数分間位は翔太とブランコに乗りながら雑談をしていた。雑談を終えそろそろ時間も良い頃で帰ろうとした時だった。タバコを只ふかしながら、未成年と思われる三人位の男が公園に入ってきた。その男達はまだ俺達には気が付いていないようだった。俺は翔太を自身の身体で隠すように連れ男達が入ってきたのとは逆にある公園の出入り口に向かった。
「おい、見ろあれ。カモだぜ、そこの人ちょっといいかなー!」
正面を向いていて三人の男の誰に声を掛けられたのかはわからないが、俺は翔太が男達から見えないようにそっと後ろに方向を変えた。俺は男達と目を合わせるだけで近づいて行かなかった。この時に俺は手を後ろに組み、警察官の田所さんが玄関の前に来た時のように手振りで公園内の茂みに隠れるように伝える。後ろを振り向くことは出来ないが多分男達からは見えないように隠れられた。翔太の手振りの読解力と音を立てずに動くことに関して凄いと思う。
「なんですか?」
「いやねぇ、こんな時間に何してるのかなと思って」
どうやら黒髪の男と若干老け顔の男の間にいる金髪の男がリーダーのようだ。だが、平均的に見ても強そうには見えない。俺が喧嘩したことのある奴等の方がまだ強そうだ。別にイキるわけではないが俺なら普通に一発で倒せる自信はある。だが……。
「別に只、散歩して今から帰るところですけど」
「そうなんですかぁ。じゃあ帰る前に今持ってるお金全て俺達が使ってあげますから渡してください」
「悪いね、只散歩に来ただけだから財布持ってきてないんだわ」
「はぁ、そんな嘘通用するわけねぇだろ。いいからおとなしく金だけって」
俺が一回拒んだだけで金髪のリーダーの男の顔は険悪となった。どうやらかなりの短気な性格なようだ。さっきまで丁寧に話していたのが嘘かのように悪態をつくよう言葉を荒げ始める。正直何を言ってるのか聞き取れない位荒げ誹謗中傷なのか、文句なのか言っている。聞き苦しいその声を聴こえないように他の音、環境音に集中して耳を澄ませていた。
その荒げた声に俺が無反応を貫ぬき通していると未成年の男達三人全員が遂にある程度あった俺と男達の距離をじわじわと短くしてくる。十分に近づいた三人は俺の周囲に散り、いよいよそれが来るようだった。
それが行われている間、俺が手を出すことはない……。
男達からの暴行を、只終わるまで耐える。流石に三人からの暴行は少々辛かったが耐えるしかない。怒涛の蹴り殴りが繰り返され、遂には少し血が出て来た。
「そろそろ金出してくんないかなぁ」
「だから金持ってないって言ってんだろ」
金髪の男が再び俺に暴行を開始し始める。声を荒げ近所の人にも聞こえている位の声量だ。翔太のこともあり、荒げた声に反応して近所の人が見に来るようなことはあって欲しくなかった。しかしそれは最も嫌な形として実現してしまう。
「おい、お前等なにやってんだ!公園で男数人が喧嘩してるって通報が入った。お前等全員動くなよ」
「チッ、逃げるぞ」
「おい待て、お前等!」
金髪の男とその仲間の二人は警察官のその声に逃げて行った。未成年ということもあり捕まるわけにはいかなかったんだろう。翔太がいる状況でこの状況は流石にまずい。
「おい、お前大丈夫か?ん、お前は確か……」
この警察官にはどこかで見たような覚えがあったが今はそれどころではない。俺はその警察官の支えを無理に押し退け翔太が隠れる茂みに手を伸ばし翔太がその手を掴んだのを確認し翔太に負荷が掛からない位のスピードでその公園から逃げ出した。
「おい、ちょっと待て」
警察官の呼び止めに応じず逃げる。地元という事もあり裏道には詳しく、表、裏の通りを組み合わせながら追いかけて来てるかはわからないが走り、公園から出来るだけ距離を置く。しばらく走り家の近くの裏通りでその足を止める。振り向くとそこには警察官の姿はなく安堵した。安心に力が抜けたのか今まで感じていなかった暴行を受けた痛みが今更襲ってくる。少しふらつき裏通りの壁に背中をつき擦るように背中を下ろした。
「兄ちゃん大丈夫?」
「あぁ少し休めば動けるようになる。ごめんなちょっと待っててくれ」
「うん、僕が周りを警戒してるからゆっくり休んでね」
「ありがとう、翔太」
俺はゆっくりと目を瞑った……。
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どうして兄ちゃんがこんな目に合わなきゃならないんだ……。
兄ちゃんは僕を助けてくれたんだ。誰もが通り過ぎていく中で兄ちゃんだけが声を掛けてくれた。そんな優しい兄ちゃんがどうしてこんな……。
僕が、僕が……。




