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少年の幸福  作者: 結ヰ織
【第2章】
13/31

第13話 予期せぬ最悪な訪問者

 俺は玄関の前に突如現れた、過去の陽太の事件でお世話になった警察官の田所さんの待つ玄関まで恐る恐る歩み出た。玄関越しにシルエットが少し見える。どうやら田所さん一人だけのようだった。緊張して第一声を上手く話すことが出来ずに、多分向こうから何も話さない只立ち尽くしている俺のシルエットだけが見えていると思う。俺が緊張に悩み発する言葉を悩んでいた時だった。

 

 「そこにいるのは真人君かい?」


 田所さんの一声に立ち往生していた俺は何と答えればいいのかわからなかった。でも何か答えないと何かやましいことがあるのかもと思われてしまう。心をまず落ち着かせ返答を考え数秒、ようやく返答する。


 「えっともしかして、田所さんですか?どうしたんですか?急に」

 「いや、昨日のお礼と少し話したいことがあってな」

 「そうなんですか」


 このまま玄関越しで話す分には構わないのだが、もし家に入れてくれと言われたどうしようか。断るのも怪しまれるし、と言って家に招き入れるのも厄介だ。いや、それよりも話したいことと言うのは一体なんだろう。嫌な予感がする。


 玄関越しに田所さんと少し談笑する。田所さんは中に入れてくれとは言ってこなかった。しかしここである問題が起きた。後ろから俺の部屋の戸が開く音がほんの微かに聴こえてきた。翔太が顔を様子見に少し覗かせ、玄関方に来ようとしていた。今来ては駄目だと、後ろに手を回し手振りで警察官が来てるから何かの為に翔太の部屋から出て来るなと伝える。それが伝わったのか翔太は驚き、怯えた表情を見せるも音を一切立てずに翔太の部屋に入って行った。


 玄関から俺と翔太の部屋までは少しだけだが、距離があり多分玄関外からは翔太のシルエットは見えていないと思う。取り敢えず翔太は何かあった時の為に部屋に隠れてもらったが、その何かが起こらない為に田所さんには帰ってもらわなければならない。だが、事はそう簡単にはいかず最悪な言葉が田所さんの口から流れた。


 「真人君、すまないんだけど中に入れて貰っていいかな?外は暑くて、そろそろ限界なんだ」

 「そうですね、すいません気が付かなくて……。……今開けますね」


 ついにその言葉が出てしまった。言われる前になんだかんだ理由を付けて帰ってもらおうとしたが先手を打たれてしまった。もう断ることは出来ないと覚悟し、翔太が見つからないのを願いつつ玄関の鍵を解錠し玄関の引き戸をゆっくりと開ける。そこには警察官の制服を着た田所さんの姿があった。勤務内で俺の家に来たということのようだ。しかし、確かに今日は昨日一昨日と比べて格段に暑かった。


 「ありがとう、真人君」

 「いえ、どうぞ」


 田所さんを玄関に通し、靴を脱ぐ。ふと玄関の全体を見渡すと重大なミスに気が付いた。翔太が履いている靴を隠し忘れていた。何か言われるかと気が気でなかったが、特に何も言われなかった。しかし、それだけじゃない。田所さんを今から誘導するリビングから見えるキッチンには朝食で使った皿とコーヒーを飲むのに使ったカップが二つ分置いてある。だが田所さんを通すのはリビング以外にはなかった。翔太の部屋は翔太が隠れていて論外で俺の部屋には未食のお湯の入ったカップラーメンが二つ置いてある。もはやリビング以外はあり得ない状況だった。


 仕方なく、田所さんが食器類に感づかないことを祈りつつリビングに通す。一番決定的な洗濯物の類は乾かし片付けてあったから良かった。リビングの食卓の椅子に田所さんを座らせ、俺はエアコンを点ける。部屋に涼しい風が流れ田所さんは涼しそうに少しくつろぎ始めた。出来るだけ早く帰ってもらう為に俺は早々に口を開いた。


 「それで話したいことと言うのは何ですか田所さん」

 「あぁ、そうだなその話をしに来たんだった。単刀直入に訊かせてもらうが、今行方不明になっている柳場翔太という少年の居場所を知っているか?」


 嫌な予感が見事に的中した。どうしてそれをいきなり俺に訊いてきたのかはわからないが、もう警察は俺が翔太を匿っているという情報を掴んでいるのかも知れない。いや、少なくとも警察全体ではなく田所さんは俺に的を絞っている。何が切っ掛けで田所さんが俺に的を絞ったのはわからないが、まだ翔太本人を見られたわけではないと思う。見られたのなら警察官数人を連れて俺の家に乗り込んでくるはずだ。一人で来るところを見ると確信ついてはないんだろう。


 ここは焦らず、気を落ち着かせて表情と態度、口調はいつも通りに冷静に平常心を保ちながら一言で答える。


 「いえ、知りません」

 「そうか、すまんな突拍子もないことを訊いて。今、俺の部下がその事件に掛かりっきりで何か情報があれば訊きたいんだが」

 「すいません、力にはなれそうにないです」

 「そうか……。わかった、じゃあこの話は終わり」


 田所さんは案外早く翔太の話を切り止めた。本当に部下の為に情報が欲しくて俺に訊いてみただけなのかも知れない。それから翔太の事件の話は一切せずに、最近の近況報告を訊かれ答えたり、報告と世間話程度の話しかしなかった。


 「ところで親御さんはいつ帰ってくるのかな?」

 「親は出て行きました。陽太が死んで葬式が終わった数日後に海外で仕事すると言って。本当に海外に行ったのか知りませんが金が毎月振り込まれるので別にって感じです」

 「そうだったのか……」


 ここ会話は止まりしばらくは田所さんも静かになった。と思ったが田所さんは急に立ち上がり「トイレを貸してくれ」と言いってくる。別に貸すのは構わないが、田所さんを一人で家をうろつかせる訳にも行かない。案内すると称してトイレまでの道のりを監視する。数秒を足らずで田所さんは出て来た。田所さんを元のリビングに連れて行こうとしたところ思いもよらない言葉を掛けられる。


 「ちょっと陽太君の部屋を見せてもらえないだろうか?」

 「え?どうしてですか?」

 「なんとなくだが。何か駄目な理由でもあるか?」

 「いえ、そんなことは……」


 今、元は陽太の部屋を開けられるのは非常にまずい。中には翔太がいて、どうにかして止めなければならなかった。しかし、田所さんはまだ完全な許可をしていないのに勝手に部屋の引き戸を開けてしまった。こうなってしまえばもう仕方ない。田所さんを()()()隠蔽するしかない。あれ、今俺何を思って……。


 「使ってない部屋なのに意外に掃除が行き届いてるじゃないか。関心関心」

 「そ、そうなんですよ。やっぱり陽太がいた場所がホコリで一杯になるのは嫌ですから」


 田所さんの反応を見て俺も中を覗いてみたが部屋の中に翔太の姿はなかった。いつの間にか部屋を移動したのだろうか。いや、物音に敏感な俺でも引き戸の空く音は聴こえなかった。なら翔太は一体どこに消えたというのだろうか。


 田所さんは満足したのか元の陽太の部屋の引き戸を閉めた。


 「今日はこの辺で帰らせてもらうよ」

 「そうですか、久々にお話出来て楽しかったです」

 「それじゃあ、またそのうちに……」

 

 玄関を出る時も翔太の靴には一切触れることなく玄関を出て帰って行った。ようやく帰ってくれて一気に力が抜け玄関に座り込んでしまった。『またそのうちに……」ってことは近々また来るということか。この家を捨てて逃げることも視野に入れなければならないかも知れないな。それより翔太はどこに消えたんだ。俺はもう一度翔太の部屋を訪れる。するとそこにはしっかり翔太の姿はあった。


 「翔太今までどこにいたんだ」

 「廊下でこの部屋に来るって聞こえたから服の収納スペースに隠れたんだよ」

 「そうか、よくやったぞ翔太」

 「兄ちゃん、それより大丈夫だった?」

 「あぁ、翔太の居場所を訊かれた……」

 

 さすがに家にまで来られれば翔太に嘘をつくことは出来ない。


 翔太は震えその場呆然と立ち尽くした。


 

_______________



 やはり行方不明の柳場翔太は桐島真人の家にいるとみて、まず間違いはないだろう。二人分の食器と靴を見る限りでは確証はいかなかったが、部屋の様子から見るに明らか誰が寝ていていたかのように崩れた布団がもう一人の存在を物語っている。桐島真人は平常心を装ているようだったが、検挙率百パーセントの俺の目は誤魔化せない。言葉運びは出来るだけ俺に早く帰って欲しそうに簡潔に一言で済ませている。何かやましいことのある奴がする行動だ。


 昨日の桐島真人が連れてきた老人の〝桐島陽太を見た”という発言を元に勘を働かせて、この家に来たのだが俺の勘もまだ衰えていなかったな……。


 さて滝川の奴にこのことを教えるべきか、どうするべきか……。

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