第一王女エリーゼ
「そうか!勇者はこちらに向かっているか」
その報告をロベルトは執務室で聞き安堵の表情を浮かべる。
「報告ご苦労だった。今日は宿舎に戻り休息を取り明日からまた万全の状態で職務を果たすように」
「ハッ!お言葉感謝いたします。ではこれで失礼します」
ココ村から早馬で戻ってきた伝令を見送り、宰相アルバートに目を向ける。
「開かずの扉の件については何か情報を掴めたか?」
「はい、フォルテニクス様から資料をお借りし文献を読み漁りましたところ、ここだろうという場所は特定出来ています」
「その場所はどこだ?」
「地下牢獄の女神像の場所だと思われます」
アルバートは少し考える素振りを見せ、言葉を選ぶように続きを話し出した。
「私達の認識ではあの女神像は、罪を犯した者が牢屋で像を見て悔い改める為に設置されていると思っていました。しかし、文献や昔の王城の見取り図を見ますと、そこには儀式をする為の部屋だったようなのです」
「それは本当か!?」
「はい、なので神託で言われる場所には充分な場所なのですが、聖剣が納めらている部屋も、まず扉が見つけられないのです」
その場所しか考えられないが確証がないという感じか、しかし牢屋か……
「それは勇者を案内してみれば、何か解るかもしれん!ところで牢屋はどんな状態なのだ?重要な場所かもしれんがいきなり牢屋に勇者を案内するのは印象が悪すぎやしないか?」
「中にいた囚人は他の場所に移しましたが……檻の部分も全部撤去いたしますか?」
「…………そうだな……女神像以外は全て撤去しろ。そこで聖剣が出てきた事を見越してどのような部屋にするか教会と相談できるように手配しろ!」
「すぐに手配します」
「私は隣の仮眠室で少し休む」
「わかりました。では失礼します」
アルバートは礼をして執務室から退出した。
私は執務室の隣にある仮眠室に入った。そこはベッド、2人掛けソファーとテーブルなど最低限の物しか置いていない。
水差しの水をコップに注ぎ一気に飲む。
勇者が城に到着して終わりではない。まだ何も始まってすらいない。神託によって知らされた、これから起こるであろう脅威に対して王国民を守る為に最善を尽くさなければならない。
「息子達にも説明する必要があるな……全てが終わるまで……気が緩まんな……」
ベッドに行く気力もなくソファーに横たわりこれからの事を考えると気は休まらないが、体は休息に入るのだった。
「お待ちになって、アルバート様」
牢屋の撤去の指示を終え教会に連絡する為、廊下を足早に歩いていると、女性の声に呼び止められた。
そこにはピンクのドレスを纏った可愛らしい女性が立っていた。
「これはエリーゼ様、いかがなさいました?」
そう、彼女こそ、この国の第一王女エリーゼ・スクルテイラーである。
彼女は側室の子ではあるが、王妃は王子を2人お産みになり、彼女が女性だからこそ、何も問題が起きず兄妹の仲も悪くないという状態だ。
「最近、城内が慌ただしいようですけど、何かありましたの?お兄様達にも聞いても知らないようでしたし。アルバート様ならご存知でしょう?」
やはりその質問か、
「はい、帝国で問題が起こりまして。詳しい事は私からはお伝えできないのです」
「王女の私の頼みであってもですか?」
「申し訳ありません」
「そうですか……ではお父様に直接聞く事にします」
「それが宜しいかと。しかしエリーゼ様、陛下は先程、仮眠室に入ったばかりでして、夕食の時に皆様が集まっている時にお聞きになるのが良いかと思います」
「そう……お父様もお疲れなのね。わかったわ!助言をありがとう。ごめんなさいね、何か急いでた様だけど呼び止めてしまって」
「いえ、それでは私はこれで」
私は先程よりも少し速めに歩いてこの場を去った。
あの笑顔と仕草、可愛らしい服と声に騙されてはいけない。
彼女はこの国の…………
去って行くアルバートの後ろ姿を笑顔を消し無表情で見つめ続けるエリーゼ。
その視線を感じているのかはわからないが、彼の歩く速さは奥の角を曲がるまで少しずつ増して行くのだった。