家族の繋がりと別れ
家の前にはサラが荷物を持って立っていた。
「あっ!その顔、夕飯一緒に食べる約束忘れてたでしょ?」
僕の姿を見つけるとやっぱりという顔で言い放った。実際、完璧に忘れていたわけだが。
「たぶんそうだろうと思って、シチューは家で作ったのを持ってきたわ!」
「ご…ごめんな。今日いろんな事がありすぎて……」
「わかってる、王都から偉い人が来たんでしょ?村中大騒ぎだったわよ!」
「そうなんだ………とりあえず家に入るか?」
「そうね、そろそろ腕が疲れてきちゃった」
そうして僕はサラを自宅に招き入れた。
「台所勝手に使うわよ!」
「うん!てか僕も手伝うよ!」
「じゃシチュー入れるお皿出してもらえる?」
「まかせて!」
なんか新婚みたいだなぁと思いながらサラの方を向くと彼女と目が合う、お互い照れてしまってその後は無言で夕飯の準備をした。
夕飯はとても美味しくて楽しかった。昔の話から最近の話まで話題は尽きる事が無かった。そして突然何かがあった訳ではないがお互い沈黙してしまう。
彼女は明日の朝には、僕が村から離れることをまだ知らない。
「なぁサラ?僕は村から出ないってあの時言ったよね…」
「うん…」
「詳しくは言えないんだけど、明日の朝村を出て、王都へ行く事になったんだ。女神の神託とか関係なしに、もし本当にこれから大変な事が起きるとしたら、その時に大切な人を……サラを失うなんて事になるのは絶対嫌なんだ!」
サラを思いきり抱きしめた。そしてお互い見つめ合い瞼を閉じながら唇を合わせた。
しばらく抱き合っていたが、サラがレオンを見上げ語り始めた。
「私わかってた。レオンが村から出ていく事。本当は行かないでって泣き喚きたいの。それか私も連れて行ってみたいな我儘を言いたいの。でもね……うっ………うぅ……」
堪らず泣いてしまったサラの背中を優しく摩ってやる。
「でもね…笑って送り出そうと思ったのに…………これ………泉で話した後から作ってた御守りのネックレスなんだけど」
そう言いながら、ネックレスを取り出した。羽根の形に彫られた物の中央に赤い玉がはめ込まれている、それを僕の首にかけてくれた。
「レオンは1人じゃないわ、これを見て私を思い出してね。どんな思いも私が全部受け止めてあげるから!」
「ありがとうっ!サラ!!」
僕はサラをお姫様抱っこして寝室へ向かいベッドに降ろした。ここ数日で感じていた、不安や恐怖、葛藤、そしてサラへの愛をすべてぶつけた。
レオンとサラにとっては最初の夜であり
村を離れる事になる最後の夜の事だった。
気づいた時には朝になっていた。覆いかぶさった体勢になっているサラはぐっすりと眠っている。額に優しくキスを落とし、服を着る。
持っていく物なんてほとんどないので着替えの服を皮の袋に詰め込んで肩に掛け家を出た。
10歳の誕生日に自立した証として村の人達が作ってくれた家に深く頭を下げてから足早に教会へ向かった。
教会に着いた時にはもう出発の準備は終わっていたようだ。
「おはようございます!」
「おう!おはよう!昨日は良く寝れたか?」
「いえ……気づいたら朝になってました……」
「ほぉ〜ん、まぁ詳しくは今聞かないさ」
そんな会話をウォルフォードさんとしていたら教会の中からフォルテニクス様と神官様が出てきた。
「さて準備はよいかのぅ?」
「はい、大丈夫です」
神官様が僕の前に来た。
「レオン…………」
「僕を拾って今まで育ててくれて、ありがとうございました。父さん…いってきます!」
「レオン……うぅ……いってらっしゃいレオン!」
僕と父さんは抱きしめ合った。
ちゃんと笑えていただろうか。
感謝は伝わっただろうか。
全部終わらせて絶対に帰ってこよう。
そう心に決めて、馬車に乗り込み村を出発した。