出発前夜
訓練を始めて2週間が経ち、レオンは複数との相手と戦う模擬戦でも立ち回れるようになっていた。
これも訓練中に発覚したのだが、聖剣を持ったレオンは戦闘中の時間の感覚が遅く感じていた。
達人同士が剣を交える刹那、剣筋がスローモーションのように見える現象が起こる事があるらしい。
その感覚を聖剣を持ったレオンは常時発動できているのである。
「それにしてもデタラメな剣だな聖剣というやつは」
ウォルフォードさんがここ2週間で何度目になるかわからない言葉を愚痴る。
「それは僕も思います。そもそもなぜ勇者に選ばれてこの聖剣を使ってるかわかないですよ。エリーゼ様やウォルフォードさんが使えた方が良かったと思うんですけどね」
「それは女神様が決めた事だから仕方ないさ。よし!明日から辺境に向けて出発するから訓練はおしまいだ!飯食ってよく寝て明日に備えようかね」
明日の準備も終わり、ベッドに横になった時、ココ村の事を思い出していた。
最近は訓練して寝るの繰り返しだったので、他の事を考える余裕がなかったのだ。
詳しい情報を伝える事が出来ないので手紙も送れていない。
「はぁ、サラに会いたい」
そう呟き毛布を頭まで被り、早く寝る努力をするのだった。
「はぁ、レオンに会いたい」
夕飯のシチューを食べながらサラは呟いた。
村長である祖父は集会場で飲み会をしているようで、久しぶりに一人で食事をして寂しくなったのかもしれない。
レオンを勇者として王都に連れて行く事で、村の若い男の労働力が一人いなくなるという事で、この村には定期的に物資が送られてくるようになった。
村人は食料に最低限困る事がなくなり喜んでいたが、サラはレオンの居ない村なんて、などと思いながら少し冷めた目を向けていたのだった。
「レオンが居ない世界なんて別に無くなってもいいのに………」
「お前を勇者と一緒に辺境へ行かせる理由、わかっているな?」
「はいお父様、レオン様なら私も何も反対はありませんわ!」
「それは良かった。まぁ本人にその意思があるかどうかじゃな」
「辺境へ行くまでにも3つ程街を通過します、距離を縮める機会はありますわ!」
「よいか?絶対に無理強いはするな?」
「…………わかっておりますわ!それでは私はこれで」
「あぁ、おやすみ」
ロベルトはエリーゼの背を見送り、ソファーに深く腰をおろした。
トントン
(ん?エリーゼが何か言い忘れたのか?)
ロベルトは扉を開けた。そこには……
「ロベルト様……お頼みしたい事がありまして……」
エリーゼの母である側室のマリアが立っていた。