聖剣の能力
「ハアアアア!」
「うわぁっ!」
僕は必死に王女の攻撃を受け止めている。
「エリーゼ!!やめんか!!!!」
王が怒号を放った。エリーゼは肩をビクッと震わせ、ズズズっと音がしそうな動きで王の方へ振り返った。
「レオン殿すまない。この子は母親に似て少々お転婆……いや誤魔化すのはやめよう、はっきり言って戦闘狂なのだ!強い相手や珍しい武器を見ると戦いたくてしょうがないらしい」
周りを見回すと王女以外の面々がうんうんと頷いている。
「素晴らしいですわ!私の剣を1度ならず2度までも受けきるなんて!」
王女はキラキラした目で僕を見つめて、なぜか称賛の声を上げている。
「あの……王女様はどのくらいの実力なのでしょうか?」
「エリーゼ様は国内で恐らく3番目に強い実力をお持ちです」
アルバートが簡潔に答えてくれた。
そんなに強いのか!!それよりもだ…
「ちょっと待ってください!僕は村で狩りをしていましたが、罠に嵌めるのが基本で剣で猪と真正面から戦う事も出来なかったのに、それはおかしいですよ!」
「……もしかしたら、聖剣に何か秘密があるのでしょうか?」
王女の呟きにウォルフォードさんが反応した。
「レオン!ちょっと聖剣持たせて貰っていいか?」
「あ!はい、どうぞ」
僕はウォルフォードさんに聖剣を渡そうと手を離した瞬間、
「重っ!」
カラン!という音を立てウォルフォードさんは聖剣を落としてしまいました。
「何をしているんですか!」
「んー、説明するより体感した方がいいな!アルバート!聖剣を拾ってみろ」
「そんなの自分で拾えば………あれ?ビクともしないです。なんですかこれ?」
アルバートさんは床に転がった聖剣を持ち上げようとしますが上手くいきません。
「レオン!拾ってくれ」
僕は特に重さを感じずに持つことができた。
王女の視線が痛い。
「俺の手を思いきり握ってくれないか」
ウォルフォードさんにいきなり言われて少し引きそうになったが、顔が真剣だったので黙って手を握った。
「うん、レオンが馬鹿力という訳じゃなくて、他の人が聖剣を重たく感じているって事か」
「……不思議ですわね。」
全員納得したような腑に落ちないような顔をしている。
それぞれが思考して沈黙が続く。
「これからいろいろ試して解明していけばいいだろ!とりあえず上に戻らないか?光ったと思ったら聖剣持ってた経緯も聞かないといけないだろう?」
見かねたウォルフォードさんが提案します。
「そうだな、昼食でも食べながら落ち着いて話をする方が良いだろうな、特にエリーゼ!わかっているな?」
「…………はぃ……申し訳ありません」
こうして無事?聖剣を抜く事が出来た勇者レオンは、王国の未来を賭けた戦いの重要人物となったのだった。
それを後悔する日がいずれ来るのだが……
正確には聖剣を抜いた次の日に来た!
「痛い痛い痛い!うわあああああああ!!」
「レオン様!どうなさいましたの?」
「腕があああああああああ!!!」
「フォルテニクス!レオン様はどうなっているのです?」
早朝、レオンが叫び出し腕の激痛を訴えた。
即座に駆けつけたフォルテニクスにエリーゼ王女が詰め寄る。
「姫様……この症状は………」
「……はっきり言ってください」
「………………筋肉痛です」
「え?」
王女の体が固まる。一瞬理解する事を放棄したのだ。
「アハハハハハハハハハ!」
話が聞こえていたのであろう。ウォルフォードが爆笑しながら部屋に入ってきた。
「ウォルフォード!笑い事ではありません!ただの筋肉痛でこんなに苦しむ訳ないじゃないですか!」
「それはもっともなんだが…………これは俺の予想なんだが……」
ウォルフォードは何か思い当たる事があるようです。
「昨日、王女がレオンに不意打ちした時に2度受け止めただろ?俺なら正面からならできるが、あの光が消えた直後のタイミングだと無理だ。おそらく聖剣に自分の運動能力の限界を取っ払うような効果があるのかもしれねぇ」
「しかしそんな事が……確かにレオン様は聖剣の重さを感じないわけですし……」
「神託は聖剣を扱える勇者とあったはずだ、重さを感じないだけなら勇者しか持てない剣ってだけだぜ?物語に出てくる様な物が実在したとまず受け入れる事だな」
「彼は……物語の主人公なのですね……」
エリーゼはレオンを優しい表情で見つめた。
「とりあえず筋肉痛が治ったら鍛えてやらないとな!俺の仮説が正しいとして今のままじゃ聖剣使う度に筋肉痛で動けなくなっちまう!鍛え甲斐があるな!」
勇者レオン地獄の修行が始まろうとしていた。