夏休み特別企画 今までやって居なかったラッキースケベについての考察
――熊野 天音の場合
日課の朝練を終えた俺は、ひとっ風呂浴びようと浴場へと向かう。風呂場の引き戸をガラガラと音をたて開くとそこには天音さんが居た。なぜか腰にだけ手ぬぐいを巻いた、あられもない姿で……
俺はピシャリと引き戸を閉め謝罪の言葉を口にした。
「ご…… ごめん、天音さん見るつもりは無かったんだ」
「あら、仁さんどうしたんですか? 私はお風呂に入り終わりましたから入ってもいいですよ」
天音さんは、何事も無かったかの様に引き戸越しに話しかけて来た。そういえばこの人上半身を露出するのに抵抗の無い人だったよ。妹のうずめは全裸に抵抗はないし、もしかして露出狂姉妹なのか?
「どうしたんですか? 早く入ってこればいいのに」
「いや、それはマズいでしょ」
何がマズいかと言うと、すでに俺の股間のオットセイがウォーミングアップをし始めている、股間から「何時でも行けますぜ兄貴」と声が聞こえてきそうだ。この状態で風呂に入る為に天音さんの前で服を脱げと言うのか? いや無理だろう、すでに前傾姿勢を崩せないし……
「何がまずいのですか?」ガラガラ
人が気を使って引き戸を閉めたのに、開けて出てくるんじゃねぇよ。
俺の目前には二つの膨らみと、その先端に有る僅かに朱の差した突起物が飛び込んできた。通常ならば背を伸ばし顔を見ていれば胸部は目に入らないのだが、故あって俺は前傾姿勢を崩せないでいるのだ。
「どっ、どうしたんですか? お腹でも痛いのですか?」
いや問題が発生しているのはもう少し下の方だ、下腹部と言うからあながち間違っちゃいないか。
「まあ、そんな所、昨日変な物でも食べたかな?」
「それは大変です、すぐにトヨウケさんの所に行ってお薬を処方してもらわないと」
いやいやいや、上半身裸の天音さんと股間をパンパンに膨らました俺を見たトヨウケ達はどう思うか考えると非常にマズイ、俺は多くの物を失う事になるだろう。その場に熊野さんが居たら俺は殺されるかもしれない。
ざわ…… その時俺の脳裏には、危険なひらめきがよぎった。
もしここで真実を打ち明け、エロ漫画よろしくココに膿が溜まっているから搾り出してくれと言ったら、天音さんは受け入れてくれるだろうか?
それは無いな、いくら天音さんが箱入り娘だと言っても、ある程度男の体について知識は持ち合わせて居るだろう。虚構と現実を間違えて女性に手を出して捕まるマッサージ師じゃ有るまいし、そんなことをしたら俺は熊野神社の女子達から社会的にも物理的にも抹殺されるだろう。
「トヨウケさんを呼んで来ますから、今すぐ横になって下さい」
この人は悪魔か何かだろうか?
今横になったら股間に張った見事なテントを晒すハメになる。
何とか胡麻化さないといけない。
「ぐはっ、はっ…… 腹が……」
「仁さん大丈夫ですか、すぐトヨウケさんを呼んで来ます」
よし、天音さんが立ち去ったぞ、今のうちに逃げろ。
――月読ゆうなの場合
「さあて、風呂にでも入るか」ガラガラ
風呂場の引き戸を開けると、そこには全裸で体を拭いているゆうなが居た。しかも、突然開かれた扉を確認するため体ごとこちらを向いているので、本来隠さねばならぬ場所が色々と見えている。俺はすぐさま引き戸を閉め、謝罪の言葉を口にした。
「すまん、ゆうな見るつもりは無かったんだ」
「仁見たのですか? 殺してやるです。そこに直れです」
完全に頭に血が上っているな。今扉を開けるとヤバそうだ。衝立でもしておこう。
「ゆうなよ落ち着いて聞いてくれ、これは不可抗力なんだ、第一戸締りをしていなかったお前も悪いんだぞ」
「うるさいです。早く扉を開けるです」
女はすぐ感情的になるのがイカンな、論理的な観点から見れば俺に非が無いのは明らかだろうに。落ち着け俺、感情的になったゆうなを鎮めるためにはどうしたらいいのだろうか? とりあえず褒めておくか。
「少し位下の毛が薄くても気にするな。俺はそっちの方が好みだぞ」
「完全に見られたです。もうお嫁に行けないです」
なにを大げさな、そんなことを言っていたら、うずめは行かず後家じゃないか。引き戸の外から「開けろ」との声と共にバシバシと衝撃が伝わって来た。しまったな言葉の選択を誤った。やはり「胸が無いと思ってたけど仙台銘菓萩の月位は有ったんだな」にしとけばよかった。
暫くすると何やら戸の外からすすり泣く声が聞こえて来たので、心配になって覗いて見るとゆうながへたりこんで泣いていた。もう手遅れかもしれないが、持参していた長めの手ぬぐいで前を隠してやり慰めの言葉を掛けてみた。
「ゆうな不可抗力とは言え、正直見てしまったのは悪いと思う。お前位可愛ければ嫁の貰い手など引く手数多だろう。だから嫁に行けないとか悲しい事言うなよ。最悪嫁の貰い手位俺が探してやる」
「えぐっ…… もう仁が責任を取って私を貰うです」
えっ、裸を見たら責任を取らないと行けないなんて、いつの時代のラブコメだよ。そんな事を言ったら、たまに一緒に風呂に入るうずめやくくりも嫁に貰わないといけなくなるだけでは飽き足らず、そこらへんで全裸で貝を取っている海女さんも嫁に貰わないといけなくなるじゃないか。
「まあ、落ち着けって、その法則が当てはまるなら。俺は全裸で素潜り漁をする海女さん全員を嫁にしなければならないぞ」
「仁は私の事が嫌いなのですか?」
「いや、お前は話も合うし好きな方だぞ」
「じゃあ、私を貰うです」
少しからかって遊んだつもりがどうしてこうなった?
今は少し精神状態が安定していないだけだと思いたい。これなら一発殴られて置いた方が良かったな。ゆうなの事は嫌いではないが、俺には天音さんと言う思い人がいるんだ。もし、出会う順序が逆だったらどうなって居たか分からないが、そうはならなかったんだ。これは有る意味修羅場だな、どうやって切り抜ける。
「だから落ち着けって、俺には天音さんと言う思い人が居る。それに自分を安売りするのはよせよ。そんな簡単に伴侶を決めてしまっては後々後悔する事になるぞ」
俺のようなフラフラして居る奴よりも、地に足をつけて生活しているヤツの方がゆうなを幸せに出来るんじゃないだろうか。言って置くがゆうなの事は嫌いではない、だからこそ幸せになって欲しいんだ。
「仁がお姉様の事を好きなのは知っているです。じゃあお姉様に相談して来るです」
そう言ったゆうなは風呂場の外に出て行ってしまった。いきなり相談を受けた天音さんはたまった物ではないだろうが、これで天音さんの気持ちも分かるかもしれない。
下手をしたら変な噂が熊野町に広まるかもしれないが、それは身から出たサビとして甘んじて受けようと思う。
需要が有ればゆうな編の続編を書きますよ。