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恋色カレイドスコープ 【改稿版】  作者: 鏡野ゆう


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第八話 早瀬先輩がやってきた side - 美咲

「これが今日の授業の分と宿題のプリントね」


 優奈がノートのコピーと先生が配ったプリントを届けてくれた。ありからちょうど一週間。たまに他の子も届けてくれるんだけど大抵は一番仲良しの優奈か桜ちゃんが来てくれている。


 私が学校の誰かに髪の毛を切られたって聞いているせいか、優奈以外の子たちは私のことを心配しながらも家に上がるのを遠慮している様子だってママから聞いた。気を遣わせて申し訳ないなって思うのと同時に当分は誰とも会いたくないって気持ちもあるからホッとしている部分もあった。


「うん、いつもありがとう」

「いいのいいの。美咲に届けるって決めてから先生の話をちゃんと聞いてノートをとるようになったから、もしかしたら次のテストではいい点がとれるかもしれない。だから逆に感謝だよ」


 優奈は普段と変わらない様子で笑った。実のところあの後どうなったの?って聞いてみたかったんだけど優奈はまるでそんなことなかったような素振りだし、私の方も何となく聞きにくくて今に至っている。


 確か、先輩のお友達に電話したとか連絡したとか言ってたよね? 先輩達と連絡した後はどうなったんだろう。


「いつもはどうしてるの?」


 気にはなっていたけどそのまま話を続けた。


「いつもは聞いてるふりして頭の中は妄想だらけだから。頭の中はいつもネタの嵐だよ」

「もう優奈ってば……」

「もちろん今はそれは横に置いておいてちゃんと授業を聞いてるよ? 私のせいで美咲がテストで赤点をとったなんてことになったら一大事だもん」

「でもごめんね、執筆の邪魔をしてるみたいな形になっちゃって」


 私がそう言うと優奈はとんでもないと首を横に振る。


「そんなことないから心配することないよ。こうやって美咲の元気な顔を見られるだけで満足だから。でも分からないところとか大丈夫? さすがに私も分かりやすく説明する自信はないよ、どっちかって言うと説明してほしいぐらいなんだから」

「うん、そこは大丈夫。パパとお兄ちゃんがいるし……」


 優奈は私の口調に何か感じるものがあったらしくて「ん?」って顔をした。


「いるし? もしかして先生が来てくれてる?」

「ううん、先生は私が休んだ日に様子を見にきてくれたけどそれからは来てない」

「先生って私たちが思ってる以上に忙しいもんね。じゃあ他に誰かいるの?」


 うまくごまかせる気がしなかったので正直に白状することにする。


「えっと……そのう、先輩が……」

「料理研究部の先輩?」

「そうじゃなくて……あの……」


 そこで優奈の頭の上に電球が飛び出した。


「もしかして早瀬先輩が来てくれてるとか?!」

「優奈、声が大きいよ、下に聞こえちゃうってば」

「でも家に来てるってことは皆に内緒ってことないでしょ? だったら聞かれても大丈夫なんじゃ?」

「それはそうなんだけど。そうなんだけどね……」


 でも恥ずかしいじゃない?


「へえ、驚いたなあ。まさかそこまで美咲のことを気にかけてくれてるとは思わなかったよ。先輩のこと、はっきりしないトウヘンボクだと思ってたけど見直しちゃった」

「優奈、トウヘンボクって酷くない?」


 だけど目の前の彼女はもう私の言葉が耳に入っていない様子。ニマニマしながら頭の中であれこれ考えているみたい。

 

「あ、じゃあ今日も早瀬先輩くるの?」

「……分かんない」

「だったら私は早々に退散した方が良いね。じゃあ帰るね!!」


 優奈はニマニマ顔のままそう宣言した。


「え、待って! もう少し話そうよ~~ママがせっかくお菓子も用意してくれたんだしさあ」

「でも美咲の邪魔しちゃ悪いじゃん? ほら、人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られてなんとやらって昔から言うし。私、蹴られたくないからキナコとアンコに挨拶してから帰る!」

「そんなんじゃないんだってば」


 でも優奈はそんな私の言葉なんて全然信じてないみたい。でも本当に何でもないんだってば!


「そうなる可能性もあるじゃない。今のうちにさっさと邪魔にならない練習しておく。うんうん、良かった良かった」

「練習ってなんの練習……それに先輩、今日も来るとは限らないんだよ?」

「でも来るかもしれないんでしょ? 美咲は来てほしいなって思ってる顔してるし」


 顔が急に熱くなった。きっと赤くなってる!!


「じゃあせめてお菓子だけでも持って帰って、せっかく用意したんだし」


 慌ててお皿の上に置かれたクッキーをナプキンで包むとそれを優奈に押しつけた。


「色々とごちそうさま~~!! キナコ、アンコ、またね! あ、おばちゃん、お邪魔しました!!」


 呆然としている私に手を振ると優奈は嵐のように去っていった。ママもいきなりのことで目を丸くしている。


「どうしちゃったの、優奈ちゃん。さっき来たばかりなのに」

「うん……なんか馬に蹴られたらいやだから帰るって……」

「あらまあ。大人になってくると色々とお友達づきあいも大変ね」


 ママはおかしそうに笑いながらキッチンへと戻っていった。



+++++



 先輩が家に来たのはあのことがあった次の日、お休みした私の様子を見にきた担任の先生がママとの話を終えて帰ってからちょっと経ってからのことだった。


「こんにちは、美咲さんと同じ中学に通っている三年生の早瀬といいますが」


 学校には行きたくないけど体調が悪いわけでもないしちょっと退屈だなって思いながら、久し振りにピアノの練習曲のCDを聴いていたら玄関からそんな声が聞こえてきた。驚いてゴロゴロしていたベッドから飛び起きる。


―― 今の先輩の声だよね?! なんで先輩がうちに来たの?! ――


 慌てふためいていたのにそれから何の音さたもなくてもしかして寝ぼけてた?と思い始めていたら、キナコとアンコの胡散臭げな鳴き声と一緒にママが階段を上がってきたのが分かった。そしてノックの音。


「美咲、三年生の早瀬君って人がみえてるんだけどどうする?」

「どうするって、あの、こまるよ、えーっと……」


 やっぱり夢じゃなかった!! 二度目の大慌てでCDプレイヤーを止める。


 一日中ゴロゴロしてたせいで短くなった髪の毛は飛び跳ねてるし、それに部屋着にしているよれよれのトレーナーとパジャマのズボンをはいた、とてもよその人に見せられるようなかっこうじゃないのに!!


「ごめんなさいね、まだちょっとお友達と顔を合わせる気にもなれないみたいで」


 じたばたしているとママが先輩に話しかけている声がする。


 それは本当。優奈ともまだちゃんと話せてないし今は面と向かって誰かと顔を合わせるのが怖い。だからお休みしてから一度も外に出ようって気分になれなかった。


「それは大丈夫です。今日は美咲さんにちょっと声をかけておきたいと思ってうかがっただけなので。ドア越しにも聞こえますよね?」

「ええ、ちゃんと聞こえるわよ。じゃあ私は下にいるからお話が終わったら声をかけてね。アンコ、キナコ、降りるわよ。ちょっと、キナコ、なんでドアの前に立ち塞がってるの。邪魔だからママと一緒にきなさい」


 ドアの向こうでキナコが不満げな声をあげている。どうやら先輩とドアの間に割り込んで通せんぼをしているみたい。ママとキナコが一悶着している最中に先輩が僕はかまわないのでと言っているのが聞こえた。


「小田さん、聞こえてるよね? 返事はしなくてもいいから先ずは僕の話を聞いてくれるかな」


 先輩はその問いかけのあとしばらく間をあけて話し始めた。


「怖い思いをさせてごめん。今回のことは小田さんは全然悪くないんだからね。悪いのは杉野とその取り巻き……いや、杉野にもっとはっきりと言っておかなかった僕が一番悪いんだと思う」


 そして再び間があく。


「とにかく、このことに関しては僕が責任をもって解決するから。ちゃんと解決したら知らせるからその時は安心して学校に出てきてほしいんだ。それと……」

「?」


 少しだけ先輩が迷うような口ぶりになった。


「もし良ければ休んでいる間の勉強、僕がみるってのはどうかな。小田さんが休むことになった原因を作ったのは僕だし、一年生の勉強だったら何とか教えられると思うから。返事は今じゃなくても良いからね。お母さんに僕の家の電話番号を知らせておくからそっちに電話してくれたら良いよ。じゃあ今日はこれで帰るね。僕のせいで本当にごめん」




+++++



「こんばんは、早瀬です」


 そして先輩の声が聞こえてきた。


「あら、いらっしゃい、早瀬君。来てくれるのはありがたいけど自分の受験勉強の方は大丈夫なの?」

「はい。自分の勉強時間もきちんと確保しているので心配しないでください。ああ、それと、これを母から預かってきました。皆さんで食べてくださいって」

「まあ。気を遣ってもらわなくてもいいのに。お勉強を見てもらってるんだからこっちが謝礼をしなくちゃいけないのよ?」

「でも美咲さんが自宅で勉強しなくちゃいけなくなった原因を作ったのは僕ですから」

「それで……」


 急にママの声が聞こえなくなった。ドアをそっと開けると二人でヒソヒソと話しているのが聞こえるだけで内容までは分からない。


「そう、ありがとう。こっちのことは日にち薬だと思うから早瀬君もあまり気に病まないようにね」

「分かりました。でも勉強の方はできるだけ見にきます。僕にとってもよい復習になるので」

「そう? だったらもうしばらくお願いするわね」

「はい。ではお邪魔します」


 先輩が玄関をあがった気配がしたので慌ててドアから離れて勉強机の横に先輩用の椅子を移動させた。


「こんばんは、美咲ちゃん。入って良いかな?」


 ノックの音がして先輩の声がする。


「どうぞ……」


 ドアが開くと先輩が入ってくる前にキナコが入ってきた。


「あ、キナコ……駄目だよ、お勉強の時間なんだから……」

「騒がなければ大丈夫だよ。今日は英語をするって約束だったよね、クラスの授業はどこまで進んでるって?」


 先輩が椅子に座るとすかさずキナコがその膝に飛び乗る。


「先輩、あの、キナコ、重たいから……」

「大丈夫。ちゃんと落とさないように抱っこしてるから心配しないでいいよ。じゃあ教科書、開いてくれる?」


 意外と先輩は勉強に関しては厳しくて、決めた時間のほとんどは雑談も無しに勉強に使われた。はっきり言って学校の授業より厳しいかも。でも塾だとこれが普通なんだって。ちょっとしたお友達とのお手紙のやり取りもお喋りも出来ないなんて信じられないよ。


 やっぱり三年生にもなると高校受験もあるし、大変なんだなあって思った瞬間だった。

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