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恋色カレイドスコープ 【改稿版】  作者: 鏡野ゆう


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第二十一話 恋色の次は何色?

 今年の春はちょっと遅くやってきたせいか桜は四月の入学式の日になってもまだ満開のままだ。


 校門のところでそわそわしながら待っていると私の名前を呼ぶ先輩の声が聞こえた。その声に応えて手を振ると、上り坂を登りきってその場でやれやれと一息ついている先輩の元へと駆け寄る。


「おはよございまっす!!」

「ふう、ここの坂道のことをなめてたな。次からは絶対にバスかバイクにするよ」


 ダラダラ坂道は地味に足にくるねえと呟きながら笑う先輩。


「本当に歩いてくるとは思わなかった」

「せっかくの桜並木だから楽しまないと。どうせなら美咲と歩ければ良かったんだけどね」

「桜並木は綺麗だけど遠回りするのはちょっと遠慮したいかなあ。私、自宅からここまで来るルートが先輩と違うからわざわざこのダラダラ坂をのぼる必要ないし?」

「俺と一緒でもイヤ?」


 先輩は首を傾げながら私を見下ろした。


「んー……来年になったら考えてあげても良いかなあ……」

「それって歩くつもりはないってことじゃ?」

「そうかも!」

「やれやれ、まったく」


 今日は光陵学園大学の入学式。


 高校進学後、先輩は国立大学を受けたら?という先生達の勧めを振り切ってここの大学を受験して合格した。警察キャリアとして実績を積んでいくなら某国立大学に行った方が良いのでは?って周囲からは散々言われてたみたいなんだけど、先輩は最後までその言葉に首を縦に振ることなく初志貫徹ってやつだった。


 実のところここの大学は国立に比べれば難易度は落ちるかもしれないけど政財界の御子息達がたくさん通っている。それに噂では様々な国家プロジェクト関係の人材を輩出しているので人脈的なものは某国立大学に引けを取ることはないんだとか。その点を踏まえた上で先輩はこの大学を選んだみたい。



『せっかく美咲とまた同じ場所に通えるチャンスなのに、どうして国立に行かなきゃいけないんだ? 出世は学閥に頼らず実力でするから問題ないよ』



 それでも官僚クラスはまだまだ国立大学の方が有利だからそっちの大学に行った方が良くないですか?って尋ねた私に先輩が発した言葉がこれ。皆の前でそう言ったものだから、後から優奈や桜ちゃんには散々からかわれてその日は大変だった。


 そしてそんな頼もしいことを言っていた先輩は今、入学式前だっていうのに学園通学名物のダラダラ坂道でへばっている。


「なんだか楽しそうだね、美咲」

「だって、また先輩と一緒の学校に通えるんだもん」


 高校と大学では当然のことながら校舎も別々だし離れているけれど、今日からまた先輩と同じ敷地内で学校生活を送れるかと思うと嬉しくてたまらない。もちろんこれまでだってデートしたりしていた。だけど今日からは勉強している時も先輩が近くにいるんだから。


「あ、そうだ、山崎がよろしくってさ」

「私の方には羽生ちゃん先輩からメールが来てましたよ? 早瀬君がちゃんと勉強するようにしっかり見張っていてくださいって」


 先輩と仲良しの山崎先輩は今年からまさかの防衛大学生だ。


 皆、先輩はサッカー選手として活躍すると思っていた矢先の宣言に周囲はちょっとしたパニックに陥ったのは言うまでもない。それを聞いて平然としていたのは先輩のカノジョの羽生ちゃん先輩ただ一人だったとか。さすが羽生ちゃん先輩、山崎先輩に三年間も振り回され続けたせいか動じなさは抜きん出ていた。


「心配しなくてもちゃんと勉学に励むよ。今度は美咲の短大受験の面倒も見なきゃいけないし、遊んでばかりはいられないよね」

「私のことは御心配無く。ちゃーんと頑張ってるからここの短大の推薦を貰えそうですもん」

「なんだ、僕に家庭教師させてくれないのかい?」


 家庭教師は二人で過ごすための口実だってことは二人とも分かっている。もちろん先輩は相変わらずいざ勉強となれば無駄口を許さない厳しい先生なんだけどね。


「だって……」


 顔を赤くした私を見て早瀬先輩はくすくすと笑った。


「まあ先のことはともかく。入学式が終わるまで待っていてくれるのかな?」

「そのつもりですよ。あっちに新しく開店したカフェで本を読みながら待ってます」

「分かった。じゃ、また後で。なにかあったらメールして」

「はーい」


 キャンパスの方へと歩いて行く先輩を見送ると、オープンしてからずっと気になっていたカフェへと向かった。


 ここは本屋さんとカフェが一緒になったお店で買った本をその場で読みながらお茶が出来る珍しい店舗。店内はオーナーさんが図書館並みに騒ぐことを禁じているので学生さんが多くても割と静かなのが近所の人達にも人気みたい。


 空いている席に座って紅茶とケーキを注文した。


 そう言えば私が先輩と初めて会ったのも本屋さんだったなあと懐かしく思い出す。あの時にはこんな未来が待っているだなんて想像もしてなかった。本屋さんで先輩と初めて会った時から四年。あの時に生まれた私の淡い想いは今あの桜並木の桜のように恋色真っ盛りだ。明日からはどんな色になっていくんだろう。

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