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恋色カレイドスコープ 【改稿版】  作者: 鏡野ゆう


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第二十話 二人でバレンタイン side - 美咲

 あれから何度かママと試作して、せっかくうまく作れるようになったねって安心していたのに、バレンタイン二日前から風邪をひいちゃって落ち込んでる最中。


 チョコレートを学校に持って行っちゃ駄目なのは分かっていたけど、ちゃんと用意して下校途中に渡そうって密かに計画していたのに渡すどころか作ることすら出来なかった……無念だあ。


 ベッドの中で悶々としながら先輩は他の誰かからチョコレートをもらったかなあなんて考える。杉野先輩達がいないから、今年からは先輩に渡したいと思えば誰だって渡せるんだよね、私以外は。


―― はあ……今年は色々とついてないよ…… ――


 ママが持ってきてくれたリンゴを少しかじってから薬を飲んだ。


 まあインフルエンザじゃないだけましだよねって思う。それでも寒気はするし頭はがんがんするし鼻水はあふれてくるし気分は最悪。体調が悪いのと張り切って作るのを練習していたチョコレートを渡せなくなって悲しいのとで涙が出てきちゃうよ……。


「せっかく先輩に喜んでもらおうと思ってたのになあ……先輩に会いたいなあ……チョコレートのことちゃんと謝りたいのに……」


 風邪をうつしたら大変だからそんなことできないのは分かっていた。分かっていたけど呟いたらよけいに悲しくなってしまってポロポロと涙が流れてくる。


 グシグシする鼻水で息がくるしくなったので起き上がると横に置いてあったティッシュを取って思いっきり鼻をかんだ。


 お布団から出ると暖房が入っているのに寒気がする。さっさとティッシュをゴミ箱に放り込んでお布団の中に戻った。


 コンコンとドアをノックする音がしてママの声がした。


「美咲、起きてる?」

「……うん」

「早瀬君がお見舞いに来てくれているんだけど、どうする?」

「先輩が? でもだいじな受験前に風邪うつったら大変だし……それに頭もグチャグチャだし……」


 ドアが開いてママが入ってきた。手にはマスクとブラシを持っている。


「髪はブラシしてあげるから大丈夫よ。それと風邪をうつしたらいけないからマスクね。外しちゃ駄目よ?」

「うん……」


 髪をといてもらってマスクをしてからベッドに戻った。それからパジャマの上からカーディガンを羽織ってお布団に足を突っ込んで座る。


 ママが出ていってからしばらくしてドアの向こうでママと先輩が何か言い合っているのが聞こえてきた。どうやらママが先輩にもマスクをしなさいそうしないと部屋に入るのは許しませんって言っているみたい。


 さすがの先輩もママの弁護士モードの口調と態度には逆らえなくて「分かりました」って渋々返事しているのが聴こえてきて思わずフフッと笑ってしまう。本当にママって弁護士モードになると逆らうのが難しいんだよね。


 ノックの音がしたので返事をすると先輩が顔をのぞかせた。やっぱり先輩も私と同じマスクをしている。


「こんにちは、美咲ちゃん。風邪、大丈夫?」

「先輩こそここに来ちゃって大丈夫なんですか? 受験前なのに」

「それを言うなら家で盛大なクシャミをしながら熱出してウンウンうなっている母に言ってくれるかな? あっちこもっちも風邪ひきだらけで大変だよ。元気なのは僕と姉ぐらいかも」


 さすがに風邪の菌も姉ちゃんが怖くて近づかないみたいだよって先輩は笑った。


「でも先輩、ごめんなさい……」

「え? なにが?」


 ベッドに横にある勉強机の椅子に座ると、持ってきていた荷物をそこに置いて先輩は首を傾げながら私のことを見た。


「今日、バレンタインなのにチョコレート渡せなかった……」

「ああ、そんなこと気にしなくてもいいのに」

「でもせっかく練習したのに……」


 止まっていた涙がまた溢れてくる。


「そんなふうに泣くとせっかく下がっている熱が上がるよ?」

「ふぇえぇぇ」

「ほらほら、泣かない泣かない。美咲ちゃんを泣かしたって僕がお母さんに怒られちゃうよ」


 よしよしって先輩は笑いながら頭を撫でてくれて、ティッシュの箱を私の膝の上に置いた。


「だってえ……」

「それに僕だって風邪をひいているのに無理して作ったチョコレートをもらっても嬉しくないよ。今は風邪を治すことが大事なんだから先ずはそれだけを考えること」

「でも本命チョコを渡せるはずだったのに……うー……」


 涙か鼻水だか分からないものが出てきたから慌ててテッシュを箱から引っ張り出して顔に押しつける。ズビズビさせている私のことを見ていた先輩は首を傾げながら小さな溜め息をついた。


「しかたないなあ……あとで食べればと思って渡そうと思っていたんだけど」


 机の上に置いた紙袋を自分の膝の上に置く。


「これを食べたら少しは美咲ちゃんの機嫌はよくなるかな……?」


 そう言いながら先輩が紙袋から出したのは綺麗にラッピングされた小さな箱だった。黒いピカピカした紙に金色のリボン。そして横に貼られたシールを見れば有名なカフェの名前。これ、あの雑誌にも載っていたやつだ。


「あ、それって西風さんの……?」

「うん。西風のね、バレンタイン限定のチョコレートムース。固形のより柔らかいモノの方が今の美咲ちゃんは食べやすいと思って買ってきたんだ。自分で開ける?」

「うん、開ける」


 先輩が差し出した箱ののリボンを丁寧に解いて包装紙をはがす。箱を開けると可愛い薄いピンクの陶器に入ったムースの容器が二つ。上には生クリームとピンクのハート型のチョコレートが乗っていた。


「可愛い……私、こんなのを作りたかったの」

「そんな気がしてた。で、僕も食べてみたいから二つ買ってきちゃったんだ。いま、食べられそう?」

「食べる!」


 箱に入っていたスプーンを出すと二人でそれぞれの容器を取り出した。そして一口食べてみる。


「「美味しい~」」


 声がはもって思わず顔を見合わせてしまった。そしてクスクスと笑いながらそれぞれが二口目にかかる。


「先輩、ありがとう。まさか私がチョコもらえるとは思ってなかったです」

「今年は風邪ひきさんだから特別だよ。来年は楽しみにしているから、美咲ちゃんの作ったチョコレートを是非とも食べさせてほしいな。あ、それともそれはホワイトデーに期待していても良いかな?」

「今日チョコを先輩からもらったからホワイトデーには私がお返しします!」

「楽しみにしてるから」

「はい!」


 それからちょっと考え込むと何か思いついた様子。


「ありきたりのバレンタインなんて面白くないからさ、来年からもバレンタインは僕が、ホワイトデーは美咲ちゃんが何か用意するってのはどうかな?」

「来年も?」

「そう。来年も再来年も、その次の年も」

「来年も再来年も……?」

「その次の年もね」


 先輩がニッコリと笑った。その先輩の笑顔がチョコレートより甘い感じに見えるのは熱があるせいかな?


「ずっとってこと?」

「うん」

「それって私は先輩とずっと一緒にいられるってこと?」

「そう。美咲ちゃんはずーっと僕と一緒にいなきゃいけないけど、それでもかまわないかな?」

「一緒にいる!」

「約束だよ?」

「うん、約束!!」


 そう返事をしてうなずくと甘いムースを口に入れた。なんだか嬉しくて急に気分が良くなったみたい。



 だけど、あとで冷静になって考えた時、これってとんでもない約束じゃん!!ってあたふたしたのはまた別のお話。

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