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第十五話 初デート?! side - 美咲

 考えておいてって早瀬先輩は言ったのに、文化祭の当日、先輩は何の予告も無くやってきた。ニッコリと笑って、用意できてる?と言いながら。


 ママはちょっと待ってねとか言いながら先輩に上がってもらい、パパとお兄ちゃんに先輩を任せて私の部屋にやってきた。


「美咲、早瀬君が来たわよ、用意できてる?」

「え? だって行くってまだ決めてないよ……?」

「あらそうなの? でもせっかく誘ってくれてるんだから行ってみたらどうかな? 早瀬君が一緒なら怖くないでしょ。あちらにはお姉さんもいるみたいだし」

「ママ達は?」

「ごめん、私はパパと久し振りに二人っきりでデートしたいかな。お兄ちゃんも自分のカノジョさんと初デートですって」

「ええ?!」


 今の一言で自分の心配が何処かへ吹き飛んでしまった。“あの”お兄ちゃんにカノジョができるなんて!! どんな人かな? 同じ学校の人? 同い年? 年下? それとも年上?


「お兄ちゃんにカノジョできたの? 私、聞いてないよ!」

「うん、私もさっき聞いたばかり。美咲もそれみたいなものだし、皆それぞれデートってすごい偶然よね?」


 ママはニコニコしている。きっとパパとのデートが楽しみなんだろうなあ。お兄ちゃんはともかく私と先輩のは……デート、なのかなあ……。


「んー……じゃあ行ってみようかな、久しぶりにあそこの学園祭」


 たくさんの人の中で気分が悪くなったら先輩に迷惑かけちゃうなってそれだけが心配なだけで、本当は行ってみたいと思ってた。だけど電話するのに踏ん切りがつかなくてずっと迷ってたんだ。だから先輩の押し掛けとママの後押しにはちょっと感謝しなきゃいけないかもしれない。


 出掛けると決めたら早く準備をしなきゃ!


 精一杯のおしゃれをして急いで一階のリビングへと降りていく。ソファに座っている先輩に相変わらずキナコが張りついているのが何だかおかしい。先輩は私の方を見るとニッコリと笑った。


「行く気になってくれて良かった。こうやって押しかけてはみたけどやっぱり行かないって言われるんじゃないかってちょっと心配してたんだ」

「せっかくの文化祭、行ってみたいですし……」

「だよね。じゃあ行こうか。じゃあ美咲さんをお預かりします」

「はい。よろしくお願いしますね。さあ、パパ、誠、私達も出掛ける準備をしましょ♪」


 キナコはブラシをしてもらうのを期待していたみたいで先輩が立ちあがったら不満げな顔をした。しかもママ達も出掛けるらしいってのが分かってニャーニャーと抗議の声をあげる。


「ねえ、それよりお兄ちゃんのカノジョってどんな人?」

「ぶぁ?! そんなこといきなり聞くな!! さっさと行けよ、バスの時間とか電車の時間とかあるだろ!!」


 お兄ちゃんの顔が真っ赤になった。だって気になるじゃん、お兄ちゃんのカノジョがどんな人か。


「えー……先輩、自分のお兄ちゃんとかお姉ちゃんにカノジョとかカレシができたら気になりますよね?」


 私の問い掛けに先輩は首を傾げてしばらく考え込む。


「うん、確かに興味はあるね。だけどうちの場合、そんなことを聞いたら姉がそういう余計なことは聞くなって飛び蹴りしてきそうだから聞かない」

「え」


 なに、その怖そうなお姉さん……。


「そういうことだから美咲も俺に質問すんな。ほら、さっさと行け」


 お兄ちゃんがシッシッと手を振ってから私達をリビングから追い立てた。


「もー、押さないでったら。ちょっと聞いただけじゃん!」

「うるさい。ほら行けよ。早瀬、美咲のこと頼むな」

「分かってます。ちゃんとここまで送り届けますから」


 一駅向こうの駅前から学園行きの直通シャトルバスが出ているので、先ずは最寄りの駅からそこまで行ってバスに乗り換える予定らしい。


 そしてドアを閉める瞬間、お兄ちゃんが「美咲だって人のこと言えないじゃないか、自分だってデートのくせに」とブツブツ言ったのが聞こえた。


「……」


 あれ? もしかしてこれってやっぱりデート? デートという単語が頭に浮かんだ途端に足が止まってしまった。ちょっと先まで行った早瀬先輩が首を傾げて振り返る。


「どうしたの?」

「え? えーと? あの、これって、そのぅ、アレなのかなって……」

「ん?」


 私だけが意識して慌てているんだよね? 早瀬先輩はそんなこと1ミリも考えてない様子だし、私だけが変に考え過ぎてるんだ、うん、そうだ。


「いえ、なんでもないです……」

「アレって?」

「なんでもないです」

「アレ? ……ああ、アレだね、うん。間違いなくアレだ」


 しばらく何か考えていた先輩がウンウンと一人で納得しはじめる。


「うんって、先輩?」


 えっと私の言いたいこと伝わってるような伝わってないような。疑問符がいっぱい出ているだろう私のことを見下ろして先輩はニッコリと笑った。


「美咲ちゃんの顔を見ていたら分かるよ。これ、僕達の初デート、でしょ?」


 あっという間に顔が熱くなる。きっと今の私、トマトみたいな色になってるよね?! 改めて先輩の口からデートなんて言葉が出ると悶絶して死にそう。そんな私の心の葛藤を知ってか知らずか、先輩はもう一度ニッコリと笑って私に手を差しだしてきた。


 ええ?! ここここ、これはっ、もしかしてっ!


「?!」

「せっかくのデートだし手をつなぐとかする? それとも手、つなぐの恥ずかしい?」

「は、ははは、恥ずかしいですっ!」

「そっか。だったらまた今度ね。行こうか、あっちで姉が待ってるはずだから。あまり待たせるとそれこそヘソをまげてとんでもないことになっちゃうからね」

「は、はい」


 今度? 次もあるの?!


 初デートだってことが判明してテンパッてしまっているそんな頭の状態でも、やっぱり誰かとすれ違うのはちょっとだけ怖かった。それが特に同い年ぐらいの女子だと心臓がバクバクするぐらい不安になる。


 出来るだけ自分の視界に入れないよう歩いていたけど、すれ違いざまにまたあの時のようにいきなり髪の毛を引っ張られるんじゃないかって凄く不安。


「美咲ちゃん?」

「……はい?」

「せっかくのお出かけの時に嫌な事を思い出させちゃうかもしれないけど、そういうのはさっさと済ませちゃうに限るから今のうちに話しておくね。あの時の合唱部の三年生女子のことなんだけどね……大丈夫?」


 ちょっと体が強張っただけでも早瀬先輩は心配そうな顔をして言葉を切る。


「えっと、大丈夫です」


 どうしてこんなことになったのかは先輩から聞いていた。そして今その話を持ち出したってことはその人達の学校での処分が決まったってことなんだと思う。そしてパパとママ、お兄ちゃんにはもう報告済みなんだろう。


「そう? で、その彼女達だけど卒業まで登校禁止になったからもう学校に来ても大丈夫だよ。住所的にも美咲ちゃんが普通に生活していてすれ違うようなこともないし安心してくれて良いと思う。本当はさ、きちんと美咲ちゃんに面と向かって謝罪させたいんだけど今はそんな気分じゃないだろ?」


 先輩の言葉に黙ったまま頷いた。


 何日か前に私の髪を切った三年生のクラス担任の先生と父さんお母さんが謝罪に来ていた。


 その時に私にも一言謝らせてほしいって言ったんだけど私はとても顔を合わせる気分じゃなかったし、パパが本人もまだショックを受けているのでお気持ちだけ受け取っておきますって言ってくれたので顔を合わずにすんでいる。


 そのうち会わなきゃいけいかなって自分でも分かっているけど今はまだそんな気分じゃないかな……。


「でも卒業までって物凄く長いですよね」


 下級生の髪を切ったにしては処分が重すぎるような気がするんだけど。


「美咲ちゃんだけじゃなかったんだよ、おどされたり色々とされた子」

「え……?」


 つまりはそれって、先輩のことを好きになったり親しくなろうとした女子が他にもいたってことだよね……?


「早瀬先輩って実はモテモテだったんですね?」

「全然気がつかなかったんだ……なんだか被害に遭った子達全員に申し訳ない気になっちゃうよね」

「まったく? 気配すら?」

「うん。僕が気になった女の子って美咲ちゃんが初めてだから」


 さらっと!! なにか今さらっと凄いことを言われた気がするのは気のせい?!


「家庭教師を引き受けたのは今回のことのお詫びってのもあるけど、本当は美咲ちゃんと一緒にいられるからだよ。家庭教師だったら学年が違っても一緒に勉強できるし、美咲ちゃんの顔、誰にも邪魔されることなく眺めていることができる」


 今度こそ私は固まった。それもトマト以上に真っ赤になって。


「ほら、普段は仲良しの三杉さんがいつも隣にいたから遠慮していたわけ。今ならキナコとアンコ達は別として部屋で大手をふって二人っきりでいられるからね。それに美咲ちゃんの御家族とも仲良くできるし、僕にとっては物凄くラッキーなことなんだ」


 そんな私に気がついていないのか先輩はニコニコしながら話し続ける。


「美咲ちゃんが酷い目に遭ったっていうのに僕だけラッキーっていうのも不謹慎な話だよね。あれ、美咲ちゃん、早く行かないとシャトルバスの時間があるから。そこで立ち止まってないで足を動かしてくれる?」


 せ、先輩って物凄いことを何でもないふうにさらっと言っちゃえるんだね……。


 それとも自覚してないのかな? 私は先輩のいきなりな告白?みたいな言葉が頭の中をぐるぐるしちゃって、怖いとかどうとかいう気持ちは何処かへ吹き飛んでいってしまったみたい。

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