第十三話 飼い猫アンコ
ワタクシこそが真の小田家の主、黒猫のアンコ様である。
美咲殿が朝から出掛けなくなってからしばらくして見知らぬ男が我が小田家にやってきた。見た感じでは誠殿よりも少し若い、美咲殿よりは少し年寄り、そんな感じの人物だ。
この人物はハヤセクンと言うらしいが、どうやら美咲殿と同じガッコウに行っている美咲殿のセンパイというものらしい。ハヤセクンはママ殿としばらく話をしていたようだが、やがてニ階に上がり美咲殿とドア越しに話をしていたようだ。と言っても最初は一方的に声をかけているだけだったようだが。
その日から、毎日チビ共とは違う時間にこのハヤセクンは我が小田家にやってくるようになった。
最初は不審げにしていた誠殿と複雑な顔をしていたパパ殿も、ハヤセクンの存在に慣れたのか夕ご飯にまで誘う始末。慣れていないのはワタシとキナコ……いや、キナコは既に懐柔され今はハヤセクンの横で恍惚の表情でブラシをしてもらっている、猫の矜持の無いヤツめ。
美咲殿も少しだけ顔を出すようになりハヤセクンと少しだけ話をするようになった。
今ではチビ共が持ってきたベンキョウのノートで分からないことは無いかなどと尋ねている。これはもしや噂に聞くカテイキョウシというものだろうか。ベンキョウが始まるときなこは部屋から閉め出されるので大そう御立腹のようだが、人には人のやるべきことがあるのだから仕方が無いと諦めるしかないだろう。
美咲殿が楽しみにしていたブンカサイも過ぎてしまったある日、ハヤセクンが迎えに来た。なんでも他のガッコウのブンカサイに行ってみないかということだ。ハヤセクンのオネエサンが通っているコウコウのブンカサイだとか。
美咲殿は最初渋っていたようだが、ママ殿は前から聞いていたらしく楽しそうに美咲殿の準備を手伝っていた。相変わらず誠殿とパパ殿は複雑な面持ちだったが。
そんなわけでワタシは近所の野良共に声をかけ、自宅周辺の警備はきなこに任せあの二人が無事に目的地に到着するか陰ながら見守ろうと思う。
目的地は山の手のコウリョウガクエン。
縄張りをいくつか超えた場所だっだが、最近の定例会議であの辺りの野良共とも親しくなっているので安心だ。ママ殿に抜け出したことを気付かれないようにしなければ。うっかりお出掛けが見つかると、怖い風呂洗いの刑が待っているのだ。
ではキナコ、小田家の警備は任せた、ワタシはコウリョウガクエンとやらまで遠出してこようと思う。