8.美女が気になる
うっ。
ヤカンの音でこちらに赤い目が動き、美女と視線がバッチリ合ってしまった。なんとなく仕事のくせか反射的にお辞儀をしてみれば。
「※※~!」
美女は、私に妖艶な笑みを向けた後、ランスに時折こちらを見ながらなにやらニヤニヤして話しかけている。
…何か感じ悪い。
「※※※!」
ランスが、何やら文句をいっているようだ。いままでランスの言葉がわかったのに、今は聞いた事がない言語だ。
なんだか彼が、ランスが一気に遠い人になったような気がした。
──何を考えた私?
今日彼に会ったばかりなのに、私はもう気を緩めているのかな。これから本当に一人で生きていかないといけないのに駄目じゃん私。
駄目だ。気分を変えたい。
私は、ゼリーと合わないけれど気分をスッキリさせたくて飲み物はコーヒーにした。
暫くして会話は終わったらしく、最後に美女は私に手を振り、何かを言って光と共に姿も消えたので私は、明かりをつけて彼の前にコーヒーとゼリーを置いた。
「よかったら、どうぞ」
「ありがとうございます」
通信とやらを終えたランスは、とても疲れているようだ。
何となく私はソファーではなく、カウンターに座りゼリーを食べ始めた。食べる時、泡立てていないパックの生クリームをそのままたらすのがポイントだ。
紅茶もいいけど烏龍茶でもとても美味しい。冷えたゼリーを食べた後、ほどよい温度になった温かいコーヒーを飲む。
彼を見ると既に完食しているが、その瞳はぼんやりしていた。
私は彼に話しかけた。
「探すのは、もう遅いし続きは明日にしましょうか。お風呂お湯すぐたまるから、ゆっくり入れば疲れも少しとれるかも。使い方もついでに教えるね」
ランスは、我にかえったように振り向いた。
「すみません、気を遣わせて。お陰でヒュラルと話せました。それで、内容なんですが」
やっぱりあの美女がヒュラルさんで、家族以外でその秘密にしている能力を知る人なんだ。
「ざっとでいいですよ」
先程の彼女の顔を思いだし、なんだかイラッとした私は突き放すように言ってしまった。
そんな事を気付きもしない彼はゆっくり話し出す。
「まず、やはり盤にはめる残りの物が必要なのと、こちらの月も満ち欠けをするのですか? ヒュラルが言うには、満月の日なら力を補えるから転移が可能かもしれないと。ただ、それでも今の俺では力が足りていないので外の自然の力を蓄えられるか試すよう言われました」
「先程の石のおかげで、あと1回くらいは通信ができそうです」
それを聞き私は、次の通信の時はその場にいるのはやめようとなんとなく思った。
それにしても満月の日って。
「たぶん次の満月の日は一ヶ月後。30日弱くらいだと思いますけど」
「そうですか…。申し訳ないのですが…それまで居させてもらえますか?」
水色の目が見つめてくる。
ランスがそうなのか、この人のいる世界の人達がなのか真っ直ぐ視線を合わせてくるのがたまに困る。
悪気はないけどそらしてしまう。
「2ヶ月って約束したし、大丈夫です」
「助かります。有り難うございます」
彼は、ホッとしたように言った後、微笑んだ。
イケメンってなんか特だなぁ。
私は、場違いな事をふと思った。