4.異世界人は貴族様?
服のサイズはズボンの丈が少し短い以外は丁度よかった。チノパン、ポロシャツ、スエット、下着、靴。だいたい買って足りなければ本人を連れていけばいい。
──さっきの挨拶を思い出した。
『お帰りなさい』
買い物から帰るとランスさんに言われた。それはとても久しぶりな事だった。
私にそう言ってくれる人はもう何処にもいなかったから。
『…ただいま、です』
つい間があいてしまった。
「ホノカさん?」
彼の訝しげな声。ぼーっとしていたのだろう。
「ごめんなさい。サイズ大丈夫みたいですね。また足りない物がなにかしら出てくると思うのでメモして明日一緒にいきましょう」
「有り難うございます」
すまなさそうな様子の彼にニ冊の練習帳を渡す。
「会話は出来るみたいですが、字は読めるのかわからないなと思ってとりあえず」
「助かります。翻訳機能で会話はできますが、字は読めないようです」
無駄にならなかったみたい。
よかった。
「じゃあ、先ご飯にしましょうか」
「あ、手伝います」
では、お手並み拝見で。
「上手ですね!」
メニューは、ケチャップライスとサラダ。今日出かける前に冷凍も兼ねて予約して炊けているご飯があるのでそれを使う。よかったよ沢山炊いといて。彼はよく食べそうだ。
包丁担当は彼に。まな板が汚れるから生野菜から切ってもらう。レタスに胡瓜、トマトとご飯に入る玉ねぎ、人参をみじん切り。
包丁の使い方が慣れている。思わず聞いてしまった。
「料理をするんですか?」
こちらに顔をむけず手元の作業をこなしながら彼は答えた。
「野営があるので教えこまれます。でも、こういう作業は嫌いじゃないです。普段は宿舎で暮らして大抵食堂で食べますね」
そっか。油をたらし、回しひろげフライパンが温まったら刻んでもらった玉葱を入れ炒める。私は玉葱のシャリシャリが苦手なので弱火でこげる手前まで炒める。
「実家では作らないんですね」
「料理人がいるので」
…何か、思っていた回答と違う。
「もしかしてお金持ちのお家?」
会話をしつつ人参を投入。意外と人参は火が通らないのでよく炒め、お酒をちょっとかけといた鶏小間を入れる。
「いえ、家は古いですが伯爵です」
え?
あっ肉焦げる。卵も入れたいなぁ。脇に卵を落としスクランブルエッグの様にしていく。
私は先に具に味をつける派だ。
ケチャップ、塩、黒胡椒。本当は白だけど、私は黒が好き。胡椒は入れる時にキャップを回すと挽けるやつ。サラダを盛り付けている彼に聞く。
「まさかの貴族様っていうやつですか?」
「はい」
横の彼を見れば、「それが何か問題が?」みたいな顔をしている。
坊っちゃんですか。
「終わりました」
「じゃあ冷蔵庫、その扉の中の右に茶色い液体が入ってるの。コップは、これ。入れてもらえますか?」
「はい」
私はフライパンに最後ご飯を投入。あまりぐちゃぐちゃ混ぜないように。
味見をする。うん、いい感じ。
「洗い物お願いしていいですか? 洗浄機、えっと後でちゃんと洗うのでざっとで大丈夫です。スポンジ、洗剤、これをつけて洗います」
坊っちゃんを働かせていいのか悩むが、本人はやる気だしいいか。オムレツの形に似た器があったので型がわりに。
カポッ
うん、いい。洗い物も終わったみたい。
「じゃあ食べましょうか」
キッチンカウンターで一つ席を空け、いや背も高いし意外と幅あるしね。並んで座って食べる。
「いただきます」
「? いただきます」
不思議そうだ。
「本当は手のひらを合わせて言います」
私は口だけだけど、教えておく。
「食材と作ってくれた人に感謝をしています」
「良い習慣ですね」
…この人いったい何歳なんだろう。若そうだけど、言葉遣いは丁寧で落ち着いている。
「美味しいです」
ニッコリされた。お箸は無理かなと思いスプーンとホークを渡せば問題なく使えている。
「「ご馳走さまでした」」
彼も真似をして言う。沢山食べてたから味は合ったみたい。片付けようとすると。
「俺やります」
私から俺になっている。
彼も緊張していたのだろうか。
「じゃあお願いして、私はコーヒーでもいれますね。飲みながらまた色々決めますか」
*~*~*
「苦いけど美味しい」
彼はミルク入の砂糖なし。ブラックで飲んでみて駄目そうだったのでミルクを入れたら気に入ったらしい。
私はブラックにして、チョコレートをつまむ。
チョコは大好き。
太ると分かっていてもやめられない。さて、とりあえず家の説明からかな。
「この家は、一階はリビングダイニングのみで奥に洗濯機と衣類を洗う物、朝に説明したトイレ、お風呂、二階は三部屋あってその内の1つをランスさんが使って下さい」
質問がなさそうなので続ける。
「お風呂、湯船はないのですが、シャワーとトイレは部屋についてますが、ざっとしか掃除していないので午後掃除したいと思います」
だいたいは説明できたかな。私もやりたい事があるので伝えておく。
「私は家庭菜園をしようと苗を買ってしまったのでそれらをしようと思います」
「手伝います」
その言葉はありがたい。
「で、ランスさんにとって一番重要な話なんですけど」
私が思い当たる場所。
「三部屋と言いましたが、そのうちの一部屋が祖父のガラクタ部屋なんです。そこに何かあるかと思うんです」
そこしかない。
「とりあえずランスさんの部屋が片付いたら見ましょうか。ランスさんは、何かありますか?」
私は飲み終えたコーヒーを流しに置きながらソファーに移っているランスさんに聞くけば水色の瞳がこちらを向く。
「ランスでいいです。話し方も、もっと楽で。私もホノカと呼んでいいですか?」
あまり見ないでほしいなー。イケメンオーラが眩しい…。
断る理由もないので分かりましたと伝えると。
「女性に年齢を聞くのは失礼なんですが、ホノカは何歳ですか?」
「24歳。でもそっちの世界と数え方とかどうなんですかね」
「どうなんでしょうか。俺は向こうでは22歳です」
君、年下か。
うん。敬語はやめよ。
私は思った。