3.予期せぬ始まり
私は、結局また買い出しに行った。
「服、ありがとうございます」
着替えたランスロットさん、名前が長いのでランスさんがリビングにきた。
何故こうなったか。
荷物などを片付けたあと落ち着くために、紅茶をいれた。彼はソファーに座ってもらい、私は3人掛けとはいえ距離を置きたかったのでカウンターテーブルの椅子に。真夏だけど、クーラーも効いているので温かい紅茶にした。すするとほっとする。私は、ソファーに座る彼を見た。
「さて、どうするかなぁ」
先程の恐怖はだいぶ薄れた。この30分くらい観察してみたけど、泥棒や変質者ではなさそうだ。今まで色々あったが、このケースは初めてだ。
「あの」
ソファーに座っている彼に話しかけられた。
「お茶を頂いたら出るので」
片付けをしながら、かいつまんで彼から話をポツポツ聞いた。彼は仕事の休憩時間にお城で友達の研究室のソファーで転がっていたらしい。
「その時古い術式を発見したとか他の仲間と話をしていました。私は半分眠りながら聞いていたんです」
夜勤明けで疲れていたのもあり、いつの間にか寝てしまった。
「気づいたら違うソファーで見たこともない場所でした」
そして脅された私。
「行く場所ないんでしょ? もしさっきの話しが本当だとして、帰れると思いますか? 酷な事を聞いていると思いますが」
到底信じられない話。
でもこの彼の格好も安物の服とは違う。剣も触りさえしないが、見せてもらった。なにより彼の持つ雰囲気が違う。穏やかだが、ピリッとした空気。
この人は嘘を言っていない気がする。
「…この場所に強い魔力を感じるんです。これは、その研究室の奴が作った物なんですが」
腕輪を見せられた。金の輪に何やら文字らしきものが刻まれ真っ白な長方形の石と青い丸い石、楕円形の赤い石がはまっている。
「いくつか機能はありますが、通信機にもなるんです。これは、魔力を動力としていて今、私は魔力をあまり使えないようです」
うつ向いて話していた彼が、私に視線を合わせてきた。軍人さんのような短さの赤い髪に、青色の瞳がとても良く合う。
「もしかしたら、ここに魔力をもつ何かがあるかもしれません。それに引き寄せられ飛ばされた際に、ここへたどり着いたか。私は騎士で魔力は多少ありますが、専門ではないので詳しくわかりません」
「ニヶ月」
「は?」
「できる事は協力するから、ニヶ月でなんとかして下さい」
私も彼を見つめた。
「正直完全に信じていません。けれど、もし本当で逆の立場だったら、きっと私は途方にくれる。かといってズルズルは良くないと思うので期限決めましょう?」
私は椅子からおり、彼の前に片手を出す。
「私は、佐々木 ほのか。ほのかが名前です。ニヶ月間よろしく」
彼は一瞬躊躇したけど、そっと手を出し握った。
…とても硬い手だった。
こうして、私の新しいスタートは、まったく予期できなかった二人生活になった。