桜の木の下で眠るワタシ
『ミク!』
ニコニコ笑っている香菜ちゃん
私の名前を呼んで走ってくる
香菜ちゃんは五歳になる女の子
私が田原家にお世話になってから2年ぐらいたった時に生まれてきた女の子
だから私にとっては妹のような存在
私も香菜ちゃんに向かって走ろうとした
でも嫌な予感がして立ち止まった
香菜ちゃんのヨコからトラックが飛び出してきた
香菜ちゃんっ!
そう叫びたかった
でも私にはそれは不可能
香菜ちゃんを助けたい
香菜ちゃんを死なせたくない
そう思うと同時に今までお世話になったお父さん、お母さんの顔が頭に浮かんだ
ここで香菜ちゃんを死なせたらあの2人が悲しむ
そしてここで助けなかったら私は一生後悔する
そう思うとさっきまで氷に凍ったように動かなかったカラダがいとも簡単に動いた
私は香菜ちゃんを思いっきり押してトラックに轢かれないようにした
その瞬間低く嫌な音がした
私はトラックに引かれたのだろう
今までの思い出がスライドショーのように流れていった
あぁ、私死ぬんだなぁって思った
香菜ちゃん。
お願いだからそんな悲しそうな顔しないで?
私はあなたの笑っている顔が好きなんだから
だからお願い。
最後はいつものようにステキな笑顔で私を見送って?
私の思いは香菜ちゃんには届かなかった
私にゆっくりゆっくりと近づいてきた香菜ちゃん
そして私の近くまで来ると私を抱き寄せた
『ミク...?ねぇ、ミク...ミクってば!!返事してよ!いつもみたいに元気な声聞かせて...?ねぇ、ミク!!』
香菜ちゃんの声に気づいたのかお父さん、お母さんが駆け寄ってきた
2人は香菜ちゃんに向かってどうしたのか問いかけようとした
その時私の存在に気づいたのだろう
『ミ、ク?』
『何で?!どうしたの?!ミク!!』
呆然と私を見ているお父さん
香菜ちゃんと同じように取り乱しているお母さん
そして香菜ちゃんは泣いている
いつもは声を上げて泣いているのに今日は静かに泣いている
私はどんどん意識が朦朧としてきた
もう死ぬんだろうなぁって案外冷静に思った
最後に3人の顔が見れてよかった
出来れば笑顔が見たかったけど
今まで楽しかったよ
楽しい思い出をありがとう
私は静かに息を引き取った
泣いている3人の上には満開の桜が咲いている
ミクの死を見届けているかのように桜は咲き続けている