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曇天に曙光は射し込んで  作者: 榎元亮哉
それぞれの適性と役割
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~それぞれの適性と役割~ 二話

「――さて、そろそろ説明に入ろうか。

 今日の午前四時過ぎにこの公園の中央部付近で男性の遺体が発見。遺体の状態は損傷が激しく、腹と首が食い破られていた。食われた痕から中型から大型の獣だと思われる。一般的な動物の可能性もあるが、魔獣の可能性もある。その為君らに話が回ったってこった」


 なるほどと和弥は納得する。周囲には動物園もないらしいとの話も来るまでに良治から聞いていた。以前上野公園で同じようなことがあった。そういうことなら呼ばれるだろう。


「という訳で任務の内容は『公園内の捜索』と『動物・魔獣の討伐』だ。任せられるか」

「はい、問題ありません。公園内は立ち入り禁止ですよね」

「ああ。遺体発見から一時間経つ前には封鎖が完了している。一般人はいない」


 あとは和弥たちが公園に踏み込んで事件を解決するだけ、という状況までは持ってきてくれているようだ。さすがに慣れているようで手際が良い。


「殺された男性については?」

「そっちは現在調査中だ。とりあえず国交省や米軍の関係者じゃなさそうだって話だ」

「ああ、まずはそこから調べますよね」


 施設が隣接しているので真っ先に調査の手が入ったのだろう。当然と言えば当然のことだ。


「じゃああとは任せていいか」

「はい、大丈夫です。ただいつも通り調査は深夜を予定してます。準備もありますので。出来る限り今夜中に終わらせます」

「お、そりゃ助かる。頼んだよ。まぁ一応深夜は近くで待機しておくから終わったら連絡くれ」

「わかりました」


 高村が笑いながら手を振りながら立ち去っていく。世良は小さく目礼をするとそのあとに付いて行った。


「綾華、大丈夫か」

「さっきのことなら大丈夫です。ちょっと頭に来ましたがあちらも謝ってくれたので」

「ならいいけど」


 少しバツの悪そうな表情なのは、自分でも言い過ぎたと思っている証拠だ。わかっているなら和弥から言う事は特にない。


「じゃあ綾華さん、結界の準備に入りましょう。大丈夫ですか?」

「はい、準備はしてきています。ただ、この公園は広いので手間はかかりそうですね」

「確かに。まぁ周辺の確認がてらぐるっと外周を回ってみましょう」

「そうですね。では行きましょう」










 公園の外周を歩きながらの結界の準備は問題なく終了し、近くの漫画喫茶で仮眠をして出たのが午前零時。日付が変わる頃だった。

 繁華街からは離れている為、公園内はしんとしている。虫の音も聞こえない。


(……嫌な静けさだな)


 和弥は直感的にそう思った。嵐の前の静けさ。そんな印象だ。ポケットの中の転魔石を強く握り、いつでも木刀を出す準備をしておく。


「よし、じゃあ綾華さん結界を」

「はい」


 公園の敷地内に入り、綾華が入口に置いてあった小さな石に手を触れる。

 この小石は綾華が自分で用意したものだ。そして同じような小石が公園を囲むように配置されている。これが結界の外枠になる。


「……っ。これで大丈夫です」


 石に力を通すと、それが流れるように両脇の石に伝わっていき、しばらくすると公園全体を取り囲んだ。これで公園内の衝撃や音はほぼ遮断され、人払いと出入りが規制された。これは結界の中でも最もスタンダードなもので、最低限のものだ。しかしこれほど大きな結界を張るのは中々難しいものだった。


「綾華」

「大丈夫ですよ和弥。それにこの結界を張れそうなのは私しかいませんし」


 結界術は術士の領分だ。剣士タイプである和弥は扱えない。同じく剣士タイプである良治と一応術士タイプのまどかは扱えるらしいが、綾華には及ばない。適正という点では綾華が一歩先を行くのは確かだった。


「綾華さんは結界の維持を最優先に。さすがにこの広い公園から逃げられたら捕えられませんからね」

「そうですね、わかりました」

「じゃあ和弥と綾華さんはここから南の方へ。運動場とテニスコートを確認したら東の野球場方面に。魔獣を発見したり何かあったら適当に合図を。俺とまどかは東の図書館から北駐車場まで行って東駐車場まで行くつもりです。順調に行けば南東にある池あたりで合流できるかと」


 良治が地図を片手に順路を説明する。ちなみに全員同じものを持っているので迷うことはない。和弥と綾華はそれぞれ自分のを見ているが、まどかは良治のを覗いている。今日は邪魔者がいないのでくっついていたいのだろう。あまりやりすぎると良治が怒るが、匙加減は二人に任せて問題ないはずだ。


「了解リョージ。合流後はどうするんだ」

「お互いに不審な場所とか見つからなかったら、合流して中央の時計塔・放送塔に向かうつもりだ」

「おっけ」

「では行きましょうか和弥」

「ああ。じゃあまたあとで」

「油断だけはするなよ」

「わかってるよ」


 良治らしい注意を受けて綾華と二人で歩き出す。ちらりと後ろを見ると向こうの二人も歩き出したところだった。


「……なぁ、あれいいのか?」

「まどかはあれで独占欲が強い所がありますからね……命を落とすような危険な状況にまでならないことを祈ります。きっと良治さんがその前に注意するでしょうし」

「まぁそうだろうけどさ」


 良治はプライベートと仕事は割とわけるタイプだ。プライベートではあまり他人に干渉したりはしないが、仕事になると色々と指摘してくることが多い。先程の油断するなというのもその一つだ。


「最近は特に二人になれる時間もなかったようですし、まぁあれくらいなら良いんじゃないかと」

「綾華にしては珍しいな。仕事中なんだからもう少し緊張感を持ってもらわないと、くらいは言うかと思ったのに」


 綾華も仕事に関しては厳しい所がある。てっきりややきつい言葉が出るかと思っていたのだが予想が外れた。


「まぁ少しは言いたいこともあるのですが。まどかの気持ちもわかりますので」

「まどかの気持ち?」

「はい。――好きな人と二人っきりで居たいという気持ちと、その時の幸せな気持ちです」

「……ならしょうがないな」

「でしょう?」


 あまりに可愛いことを言う綾華を抱きしめたくなったが、今は仕事中。

 一つ深呼吸して昂ぶりかけた気持ちを持ちつかせると、足を止めて集中力を高める。


「そういう切り替え、嫌いじゃないですよ」

「あんまり可愛いことを言わないでくれ、また深呼吸が必要になる」

「すいません。じゃあ頑張りましょうか」

「おう」


 抱き締めるのは仕事が終わったあと。

 そう決めると周囲を警戒しながら和弥はまた歩き出した。









「……あれは?」


 和弥が何か蠢く物を発見したのは、調査の終わったテニスコートから道路を渡った先にある野球場に入ってからだった。ここまでは何も発見できずに成果はない。

 ちょうど外野、センターのあたりで何かが動いている。野球場には照明がついていないのでその姿はわからなかった。


「何かいますね。何かはわかりませんけど。術を放って様子を見ますか?」


 この時間この場所に居るということは一般人ではないだろう。しかし一応万が一の可能性はある。どうするか。


「もう少し近付いてからにしよう。もしかしたらの可能性もある」

「そうですね。それで行きましょう」


 和弥は転魔石で喚び出した木刀を握り締め、綾華はいつでも術を放てるように準備をしながらじりじりと動く物体との距離を縮めていく。外野の芝を音を立てないようにゆっくりと足を進める。

 夜目は利くほうではない。灯りもない。しかし、それが動きを止めたのは理解した。


「……?」

「来ますっ!」


 綾華の言葉と同時に二人とも大きく左右に跳ぶ。そして数瞬前に彼らが居た場所には、ずんという振動と共に大きな塊が鎮座していた。


「和弥、火を!」

「おっけ!」


 言われた通り動く物体に向けて左手を掲げ炎を放つ。

 和弥は術は苦手で炎はすぐに消える。しかしそれでも現れたものが何かは判明した。


「スライム!?」

「っぽいです! ホームベースの向こう側の照明まで誘導します!」

「おっけ! っと!」


 半透明のぶにぶにとした巨大な物体。正確な大きさは流動的過ぎて把握できないが、それでも和弥の身長よりも高い。

 スライムが飛ばしてきた触手のようなものを避けながらホームベースへ走り出す。綾華も同時に走り出している。


「一塁方向から金網の向こう側にっ!」

「おっけ!」


 ホームベース裏の照明に向けて更に走る。ちらりと後ろを見ると、遅れてついてくる綾華の更に後ろにスライムがゆっくりとこちらに移動しているのが見えた。どうやら移動は不得手のようだ。


「よし……綾華空に合図を!」

「はぁはぁ……はい……って、え?」


 照明の光の範囲に入り、息を切らせた綾華に合図を頼む。しかしその瞬間、北の空に雷撃が奔った。


「まどかの術? じゃあ向こうもか!」

「ど、どうしますっ?」

「こっちも相手にしてるんだ、とりあえず合図は送ってくれっ!」

「は、はい!」


 頷いた綾華が慌てて空に数本の氷の矢を放つ。氷自体は音をほとんど立てない。しかし氷の矢同士がぶつかると甲高い音を発生させた。

 水と氷の得意な綾華の術に、大きな音を出すようなものはない。合図が必要な状況で何パターンか試行錯誤した結果、氷の矢をぶつけるという結論に辿り着いたのだ。これは良治とまどかも知っているので、聞き逃すことはまずない。


「っと、おいでなすったな」

「初めて戦う相手です、慎重に行きましょう」

「だな。援軍も期待出来そうにないからな」


 スライムと戦った経験はない。しかしここには和弥と綾華しかいない。

 二人でどうにかするしかないのだ。


「……ぬめぬめしてそうで触りたくないですね」

「触ると服とか溶けそうだな」

「和弥、何を考えてるんですか?」

「いやなにも。よし行くぞっ!」

「ああもうっ。終わったら聞きますからね!」


 綾華の声を背後に受けつつ、誤魔化すように和弥は木刀に炎に纏わせながら走り出した。


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