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曇天に曙光は射し込んで  作者: 榎元亮哉
それぞれの適性と役割
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~それぞれの適性と役割~ 一話

「――という感じでした。多分本物です。なのであんまり関わりにならないようにしたほうがいいかと。……ってリョージが言ってました。まぁ俺も同じ意見なんですけど」

「まぁそうよねー。うん、やっぱり私の直感は当たってたわけね」


 和弥とせりなが話しているのは前回相談を受けた学園内の食堂。席も同じだが、前回と違うのは良治がいないことだ。今回は報告だけなので別に行かなくてもいいだろうと、良治は同行しなかった。

 正直和弥にしてみればちょっとだけ心細かった。仕事関連で一人での単独行動はほとんどしたことがないので仕方ない。


「ですね。さすが会長って感じです」

「ありがと。でももう会長じゃないからねー」

「あ、そうだった。まぁとりあえずこれで報告終わりってことで」

「おっけー。わざわざありがとね。すっきりしたわ」


 言葉通りすっきりした表情で笑いながら細いフレームのメガネを中指で押し上げるせりな。それを見てこの件が本当に終わったのだと感じて和弥の肩から力が抜けた。


「ああ、そうそう。白兼さんとかお仕事とか最近どーなのよ」

「どうって言われても……綾華とは問題なく過ごしてますし、仕事の方もまぁぼちぼちやってます」

「そうなんだ。ちなみに卒業したらどうするの。進学? 就職?」

「就職です。あんまり大学に行く理由もないんで」


 実際大学に行ってもやりたいことはない。綾華とずっと一緒に居るのなら大学に通うよりも退魔士として早く一人前になる方がいいだろう。


「それは、白兼さんの為に?」

「違います。綾華と一緒に居たい俺の為ですよ」

「……良い顔して良いこと言うじゃない。頑張ってね」

「ありがとうございます。でもまぁ自分がやりたいことやるだけですから。っと、そろそろ行きますね」


 この後にも予定はある。長話になりそうな気がしたのでこの辺で話を切り上げた。


「ん、わかったわ。都筑くんが成長していてくれておねーさんは嬉しいわ。あ、あと何かあったら現会長の力にもなってあげて。気が向いたらでいいから」

「りょーかいです」


 軽く手を振って席を立つ。元会長のせりなと現会長の白浜恭子は連絡を取ってないと言っていたが、なんだかんだ言ってせりなは白浜のことを気にしているのがわかって頬が緩んだ。


(あんまり言葉には出さないけど気配りとかしっかり出来るんだな)


 以前も感じたが、やっぱり彼女には敵わない。なんというかバランスが取れているなと思った。

 少しでも気遣いを心掛けよう。そんなことを考えながら和弥は食堂を出た。











「みんな集まって。緊急の仕事よ」


 いつもの週末のように土曜の朝から東京支部で訓練に励んでいた和弥たちの前に、真剣な表情の葵が奥から歩いてくると唐突にそう告げた。


「緊急?」

「ええ、緊急よ。最近はなかったけど。で、早速だけど詳細ね」


 和弥と綾華、良治とまどかの四人が葵の傍に寄ると、皆を見回した後再度葵は口を開いた。


「場所は埼玉県所沢市の公園。昨夜公園内に惨殺死体が発見されたそうよ。犯人は不明。ただ、遺体の腹部に大きく噛みちぎったような痕があったみたい」

「魔獣、ですか」

「たぶんそうね。だから出来るだけ早く事件の解決を頼まれてるわ」


 綾華の問いに頷きながら答える葵。しかし気になることが和弥にはあった。


「頼まれたって?」

「……あー、んー。その公園、国交省の施設が隣接してたり、近くに在日米軍の基地があったりで、出来るだけ早急に解決しろってことらしいの。隼人さんはあんまり気にしてなさそうだったんだけど、遅れると色々と文句言われそうな雰囲気なのよね……」

「ああ……それはさっさとやった方がいいですね。公園は今どんな状態なんですか」


 色々と事情を察したのか溜め息交じりの良治。上の方には複雑な事情があるのだろう。


「とりあえず報道規制を敷いて、適当な理由付けて公園封鎖してるみたい。警察の方はいつもの高村さんが窓口になってるわ」

「了解です。今回のメンツはこの四人で良いですか?」

「ええ、お願い」

「了解しました。じゃあ準備出来次第出発で頼む」

「おっけ!」

「はい、わかりました」

「うん、わかったわ」


 それぞれが返事をして荷物を纏める準備に取り掛かる。と言っても常にすぐ出発できるように、最低限これだけあれば、というものは小さなリュックに詰めてある。今回必要そうな物を選び、いつも荷物置きに使ってる部屋からリュックに少しだけ足して持ってくるだけだ。

 この辺の準備に関しては良治がマニュアルを作り、最低限リュックに入れるものは決めてある。あとは個人が必要と思うものを幾つか選んで詰めるスタイルだ。


「っと。これで完了かな」

「よし、みんな準備はいいな。行くぞっ!」


 良治の掛け声の元、和弥たちは東京支部を出る。


(……なーんか、ちょっとだけ嫌な予感がするけど)


 ふと感じた嫌な予感。しかしこの四人で事件に当たるなら何も心配はいらない。

 そんな考えを振り切って、一歩先を行く三人を追いかけた。












「――ああ、やっぱりお前らが来たか。なら安心だな」


 電車を降り、改札を出るとすぐに公園が見えた。そして公園の入り口の前には見覚えのある男と若い女性が立っていた。

 よれたトレンチコートに無精髭を生やした中年の男。彼はにやりと笑うと言葉を続けた。


「そこの二人は半年くらい振り、柊たちは一年振りってとこかな」

「あ、高村さんお久しぶりです」

「ああ、事件の時にしか合わないからな。まぁ事件がないのが一番なんだが」


 和弥が彼と会ったのは二回。初めて事件に巻き込まれた時、そして昨年の年末上野に来た時だ。外見はくたびれた中年だが実は出来る男という印象を持っていた。


「ま、それはそれとして状況説明するがいいか」

「はい、お願いします……いえ、先にそちらの女性は」


 ちらりと目線を紺色のスーツの女性に送る良治。和弥も初対面だが、良治が説明を求めるというのなら全員知らないのだろう。


「ああ、すまん。こいつは世良せら皐月さつき、うちの若手だ。今後また会うこともあるだろう。宜しく頼むわ」


 高村の言葉に一歩前に出るショートカットの女性。その瞳は理知的だが、まだ幼さが抜けきっていないように見える。恐らく二十代半ばくらいだろうか。


「……世良です。あの、高村さん、本当にこんな中学生や高校生くらいの子供たちが役に立つんですか」

「中学生……?」

「あ」


 この四人の中で一番中学生に見えそうなのは綾華だ。身長が高くないので仕方ないのだが、それを見知らぬ誰かに指摘されるというのは腹がたつ。低い声で呟いたことからもそれは明らかだった。


「世良ちゃん、この四人は全員高校生だよ」

「そうなんですか? 中学生にしか見えなかった子もいたので」

「身長が低くてすいませんね。しかしこれでも一人前の退魔士ですのでご心配なく。ただ身体的特徴で相手を侮る貴女は一人前とは言えそうにないみたいですが」

「な、んですって……」


 綾華の挑発に、顔を引きつらせる世良。印象通りプライドは高いらしい。


「おい、止めなくていいのか」

「これくらいならまだいいんじゃないか」

「いいのか……」


 良治にこっそり話しかけるが、彼は止めるつもりはないようだ。良治にしては珍しい気がする。


(それにしても、久しぶりに聞いた気がするな。綾華の挑発、というか毒舌というか)


 静かに言い争う二人を横目に小さく息を吐く。

 綾華は元々若干口が悪い所がある。口調こそ丁寧だが、やや見下したり揶揄したりする。綾華と初めて会った頃からしばらくは、和弥も何回かそんな感じで言われていた。

 しかしそれはある程度信頼関係が築ければなくなる。良治やまどかにそんな口を聞いたことは和弥の知る限りなかった。


「……まぁその辺でやめておけ。それに今のは世良ちゃん、お前が悪い」

「っ……でも、こんな子供がその、命懸けで戦うのは!」

「世良ちゃん、お前さんには子供に見えるかもしれんが、これでもみんなプロだ。誇りを持っている一人前だよ」

「でも……」

「世良さん、貴女は私たちが子供だからという理由で戦わせるのが嫌なんですか?」

「……そうです」


 高村が水を差し、世良よりも綾華が先に落ち着きを取り戻す。この辺の切り替えの速さは彼女の長所の一つだ。


「それならご心配なく。これでもそれなりに経験を積んでいますので」

「その通りだよ世良ちゃん。綾華ちゃんはこの間の『第二次陰神戦』と『開門士の乱』を生き抜いた凄腕だ。心配する方が失礼ってもんだ。そうやって自分の価値観を押し付けようとするから、上司や同僚に疎まれてこんななにやってるんだかわからないような部署に押し込まれちまうんだよ」

「う……」


 高村の言葉でなんとなくだが事情を理解する。

 彼女はその性格ゆえ、周囲とあまり上手くいってなかったのだろう。それで高村と同じ部署に来たということらしい。会って間もないがやや性格に問題がありそうだなと和弥は察した。


「……こちらも少し挑発的な物言いだったのは認めます。申し訳ありませんでした。別に世良さんと対立したいわけではありませんので」

「え、あ……こちらこそ申し訳なかったです。私も別にそういうつもりではないので」

「初対面でいきなり信用してくださいとは言いません。だから、今回も含めて今後を見てから判断してくださると助かります」

「……わかりました」


 綾華が手を出し、世良がそれをぎこちないながらも握り返す。どうやらお互いに落ち着いてくれたようだ。


「なんとかなったな」

「ああ。仲良きことは美しきことかな」


 若干怖くはあったがなんとか纏まってくれた。綾華が歩み寄ったお陰だろう。

 退魔士として生きるようになれば、それは厳しい修練が日常になり、そして命懸けの任務をこなすようになっていく。そんな毎日を過ごすしていくと、肉体的にも精神的にも成長していく。普通の子供たちとは比べ物にならない速度で。


(それでも擦り切れることなく、現実いまを生きてくれてる。そんな綾華に出逢うことが出来て、本当に俺は幸せだ)


 任務中に死亡することも珍しくない。生き残っても性格が豹変したり精神を病んだりすることもある。そうならなかっただけでも価値があり、喜ばしいことだ。


「で、高村さん。そろそろいいですかね?」

「……まったく。わかった、状況を説明しよう」


 高村は頭をわしゃわしゃを弄りながら苦笑いをした。


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