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曇天に曙光は射し込んで  作者: 榎元亮哉
日常、そしてその先に在るもの
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~日常、そしてその先に在るもの~ 五話

「さすがに、そんなに簡単には見つからないよな……」


 元会長の情報を頼りに夜の街を虱潰しに歩く。和弥の他には誰もいない。話に聞いた範囲が広過ぎた為、それぞれ分担しての単独行動になったのだ。

 その占い師――結河原慧――は山手線沿線沿いにふらっと現れるらしい。

 彼女の特徴としては、背は平均的、長い黒髪の口数が少な目の大人しそうな感じとのことだ。


(正直わかんねぇよな)


 人探しは苦手だ。なので大通りを歩いて道端で占いをしている人を探す。きっとこれが一番いいはずだ。というかそれ以外の方法を和弥は思いつかなかった。

 今歩いているのは新宿。時間は二十三時を過ぎたところだ。

 しかし歩いてみてわかったが、この時間はまだまだ店は開いており、人通りは絶え間ない。テーブルと椅子を用意して占いを始めるような雰囲気をこの場所には感じなかった。

 外したかな、と思って立ち止った和弥の視界に、白いものが映った。見覚えのある白い髪だ。


「あら?」

「ども」


 視線を感じたのか、不意に彼女が振り返る。どうやらこっちのことも覚えているようだったので挨拶を返す。

 この前見た時も思ったが綺麗な白髪と整った顔立ち。落ち着いた目と雰囲気の可愛いよりも綺麗、美人系だ。


「どうしたのかしら、こんなところで。君のようなコが来る街じゃないし、時間でもないわよ?」


 確かに彼女の言うとおり、夜の新宿は高校生の来るような街ではない。ここは歌舞伎町にも近く、一人でふらふらとするのは一般的には危険なのだろう。だが退魔士である和弥にはあまり危険ではない。


「えーと。ちょっと人探しをしてて」

「人探し、ねぇ。確かにたくさんの人はいるけど」


 周囲を見渡して笑う白い髪の女性。なんとも言えない雰囲気を纏っている。


(もしかして……?)


 一瞬だけ目的の占い師かもしれないと思ったが、きっと違うだろう。

 髪の色は染めたりウィッグで誤魔化せるだろうが、せりなから聞いている身長や性格とは違う。雰囲気だけは占い師と言われたら信じてしまうそうだが。


「はい、占い師を探してて。最近この辺で見たって話を聞いて」

「なるほどね。うーん、心当たりがあれば教えてあげたかったけど、残念ながらないわ。ごめんね」


 残念そうに言う女性。本当に心当たりはなさそうだった。

 なんだか不思議なこの人なら何かしら知っててもおかしくない、そんな予感もしていたが完全に空振りだったようだ。


「仕方ないです。それじゃ」

「ええ、それじゃーねっ」


 笑顔で手を振りながら駅の方へ歩いていく。その後ろ姿を軽く見送ると、和弥はまた歩き出した。足で探すしかないのだ。

 そして歩き出してから気付く。


(あの人の名前聞いてなかったな)


 偶然すれ違っただけの他人。普通に考えればもう二度と会わないだろうが、既に二度目の再会を果たしている。

 もしかしたら、三度目の再会があるかもしれない。


(……まさかね)


 彼女の雰囲気にあてられたのか、不思議と予感はしたが、和弥はそれを否定して人混みを歩き出した。











「……ん? おおっ」


 和弥の視線の先には黒髪の女性。『占い』と書かれた紙がテーブルに張られ、静かに椅子に座っている。ようやく辿り着いた。

 一日目は新宿中心、二日目は渋谷中心、そして今日三日目はもう一度新宿に戻ってきた。午前一時を過ぎ、新宿から新大久保方面に歩いて移動していたらようやく発見出来たというわけだ。


「それにしても……」


 大通り沿いなので周囲にはまばらに歩く者はいるが、彼女の近くにはいない。客はいないようだ。それを確認してからゆっくりと近づいていく。警戒はしておくべきだ。


「……お客さん?」

「どうもこんばんは。あの、結河原慧さん、ですか?」

「お客さんね。私には未来がちょっと見えるだけだけど、それでいいかしら」

「じゃあそれで。あの、料金は……?」

「気持ち、で良いわよ。私を探して来るようなお客さんはだいたい君と同じくらいの歳の女の子が多いの。だからあんまり高く設定しても、ね」


 なるほど、わざわざ彼女を探すような客は噂好きな女子高生が多いらしい。ならば高い値段設定だと客が離れてしまうのだろう。


「わかりました。じゃあ占いが終わったらで」

「オーケー」


 会話をしながら占い師を観察する。何処かで見たような印象を受けた。

 長い黒髪、ややたれ目気味の目、長く細い指。話した限りの印象としてはさばさばとしていてあまり客商売に向いているとは思えない。


(それでもそれなりに噂をされるレベルってことは……っ!?)


 和弥の思考は、集中しだした慧によって強制停止された。

 周囲から何かが集まり、彼女が手を翳す水晶の中に吸い込まれていく。


「――へぇ」


 彼女が感嘆の声と共に小さく笑う。まるでこんなもの初めて見た、そんな印象を受けたような声。


(さすがかいちょー、ってとこだな)


 当たり以外の何物でもない。彼女、結河原慧は本物だ。

 しかも意図的に力を行使している。自分の力を把握し、使いこなしている。もはや大当たりと言っていいのかもしれない。


「――見えたわ」

「……なにが、ですか」

「歪な魂、不安定な未来。幾つもの化け物との戦い……人との殺し合い」

「殺し合い……」

「あと女の子からのビンタ」

「ええぇ……」

「大丈夫よ、私の見える未来は頑張れば回避できるものだから」

「それは助かるな」

「……おかしいわね、これ以上見えない……? 未来が不安定過ぎてはっきりと見えないのかしら?

 確定している未来が少なすぎて先が見通せない……? もしくは歪な魂の影響……?」

「……?」


 彼女が何を言っているのかわからない。が、普段ちゃんと見えるはずの未来が上手く見えていないことは察しがついた。

 上手く見えない理由はきっと彼女の予想通りだろう。和弥の魂は普通の人間とは違う。普段通り見えなくてもおかしくはなかった。しかしそれを丁寧に解説することもない。


「ごめんなさい、これ以上ははっきり見えないわ。調子が悪い……というより君が特別なのかしら」

「ああ、大丈夫です。ども、ありがとうございました」


 和弥の魂が特別だと理解していること、それで完全に彼女が何か異能の能力を秘めていることは確定した。あとは彼女がそれをどう使っているのかが問題だ。


(占いだけに使っていれば問題ないかな……?)


 財布から二千円札を選んでテーブルに置いてあった箱に入れる。

 ちなみに二千円札はカラオケに行った際に、良治からお釣りで押しつけられたものだ。使い道がなかったので持ったままだったが、ここで使うのが妥当だろう。金額的にもきっと問題ないはずだ。


「二千円札なんて珍しいわね……って良いわよ今回は。上手く見えなかったし」

「いや、占ってもらったしそれ使えるところ少ないんで。今後もよろしくってことで」

「……じゃ有難く」


 若干不満そうだったがそのまま受け取る。一応納得はしてくれたようだ。


「それじゃ。頑張ってください」

「ありがとう。君も気をつけてね。言ったこと忘れないように」


 少しだけ不安げな占い師に軽く手を振って立ち去る。そして適当な角を曲がり、占い師から見えないのを確認して電話をかける。

 相手は良治。連絡は重要だ。


「お疲れ様。ああ、こっちにいたよ。……ああ、間違いなく本物。でも今のところ危険な感じはなかったよ。とりあえず詳しいことは合流してからで」


 とりあえずの報告を終えて携帯をしまう。緊急性のある状況ではないので、あとは直接話せばいいだろう。


「さて、とりあえず合流してから始発帰りだな」


 もうとうに終電はない。これから全員と合流してから、会議がてらファミレスで時間を潰して始発で変えることになるだろう。さすがにここから神奈川の自宅までタクシーで帰るのは懐具合的にありえない。退魔士として働いてはいるがまだ高校生。あまり褒められたことではないだろう。

 ひとまずはこれで仕事は終わりだ。

 和弥はすっきりとした表情でタクシーを拾いに歩き出した。











「……あら、なにか御用ですか?」


 今日は調子が悪い。そう感じた結河原慧は普段よりも早く店じまいの準備をしていた。

 あんな魂を見たのも初めてだったし、深く見れなかったのも初めてだった。もしかしたら少し調子が悪かったのかもしれない。

 そう考えて店じまいをしていた彼女の前に、一人の少年が立っていた。さっき占った客よりも幼い印象を受ける。黒い無地のTシャツにジーンズ、恐らく十代半ば。中学生かもしれない。


「はい。結河原慧さんに頼みごとがありまして」

「占いですか。でもごめんなさい、今日はもう店じまいなの」


 お客は高校生中心だが、それでも時々中学生も来る。時間帯が時間帯なのであまり嬉しくはない。これ以上増えると警察に目をつけられる。元々店を出すのも勝手にやっているので睨まれたくはない。


「それはむしろ好都合です」

「え? ……君、何の用?」


 手を止めて少年に向かい合う。

 髪の毛は逆立つほどに短く、一筋の銀のメッシュが入っていた。獲物を見るようなその視線は鋭い。身長は百六十半ばでややがっしりとした体格だ。彼女は少年の様子がおかしいことに気が付いた。


「はい、お姉さんに協力してほしいことがあって。しばらくの間、ボクたちの為だけにその力を使って欲しいんです」

「……それは無理ね。私を頼って来るコも多いの。

 ――帰ってちょうだい」


 おかしな雰囲気を漂わせる少年の提案を一蹴する。

 しかし少年は肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべてこう言った。


「――あなたの妹さん、まだ高校生なんですね。これからの人生楽しく過ごせるといいですね?」

「あんた……っ!」


 確かに高校生の妹が彼女にはいる。東京に出た彼女を時々訪ねてくる出来た妹だ。

 そのことを、この少年は知っている。自分のことを調べ上げた上で、今この場にいる。


「……明確な期限を決めて。その上で妹の無事を誓いなさい」

「この状況でも怯まないその精神力は大したものですね。

 わかりました、妹さんの無事は誓いましょう。期限は今日から一年でどうですか?」

「……それで、いいわ」


 正直信用ならない。妹を盾にして脅迫をしてきた男を誰が信用出来るものか。しかし彼女に選択肢はなかった。こう答える他ない。


「ありがとうございます、結河原さん」

「……それで、君の目的と名前は?」


 従うしかない。しかしその目的くらいは知っておきたい。

 少年はその問いに静かに答えた。


「――ボクの名前は『禊埜みそぎのさい

 目的は父親を殺した退魔士への報復です――」


ども、榎元です。「曇天」一話いかがだったでしょうか。まだまだ序章といった感じですが。

最後に出てきた彼の目的である退魔士とは誰か。そんなことを予想しながらだと楽しんでもらえるかもしれません。


次はまた一週間後くらいを目処に投稿したいと思っています。

それでは、また。

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